百五十八生目 壁向
幽霊の魔物ファンターと交戦中。
あの闇のオーラをまとった爪は結構強力らしく……
私のイバラで攻めても的確に弾かれる。
ならば手数を増やすまで。
イバラ増加! 針たち!
さらに火魔法"Fリビエイション"!
「ウゲゲッ!?」
「一気にいけー!」
"Fリビエイション"は私の目の前から炎を放射する魔法。
青白い炎が発生して勢いよくファンターたちに放たれる。
さらに針やらイバラ7本が勢いよく攻める。
ここは攻め手を緩めない!
変に守りに入ったら不意打ちされてやられる。
ファンターたちは不意に増えた手数に驚いているようだ。
もちろんそのスキは見逃さない。
まずイバラで武技"縛り付け"。
トゲと炎だらけのイバラでガッチリ縛って……
「ギッ!?」
トゲを全身に刺しまくって。
「ギャッ!」
そして炎を浴びせつつイバラで往復ビンタだ。
勢いをつけたイバラは音速を超え……
炎のムチと化して私が放つ炎と共に大量排出!
「「ギエエエッ!!」」
炎が止んだ時。
そこにいたのはまっ黒焦げになった2つの姿だった。
イバラを離せば彼らは震えて炭を落とす。
そして。
勢いよく逃走した!
「「強いーっ!!」」
ふう。
周囲を警戒するが敵影はなし。
彼らだけだったようだ。
ん?
さっきの炭の中に少しだけ実体がある。
これは……ラッキー!
霊魂の塊だ。
これはファンターなど幽霊系魔物が蓄えている力の濃縮品をまとめて指す呼称で簡単に言えば依頼の奪取指定品の中でもボーナスが貰えるレアな品。
ちゃんと容器に詰めて持って帰ろう。
基本的に廊下だけの構成なのはある意味幸いか。
見た目が似たりよったりなので風景が同じなため本当に悪意が強いが。
幽霊たちめ……!
ただニンゲンたちの痕跡はかなり強くなってきた。
さっきはニンゲンたちが採取を行ったあとが見て取れて……
血の痕跡なんかも見つけた。
そして今目の前に広がるものは。
「なんでこんなところに水が……!」
廊下に見える目の前の通路。
しかし床ではなくここは水の中を泳ぐ道になっていた。
私は空を飛んで渡ればいいが……
ニンゲンたちのにおいはこの中に行こうとして途切れている。
つまり泳いでいったということ。
こうなるとしばらくの間においを追うのが困難になる……!
わからないとは言わないがかなり精査しないと分かれ道がどこに行ったかがわからなくなってしまう。
うーん……祈りながら行くしかない。
とりあえず背中から翼型針を出して飛行。
向こう側へは100メートルほどでたどり着いた。
つまり言ってしまえば冒険者たちはガッツリ泳いだわけで。
「ううーん……におい……」
やばい……どれがニンゲンのにおいだ。
幽霊のにおいや魔物のにおいそれに金属や別のなにかのにおい……
全部水のにおいに溶けてしまっている。
くう……こうしている間にも時間が過ぎていく。
ただ外したらまたこの迷路を彷徨わなくてはならなくて。
働いてくれよ……私の冒険者としてのカン!
もはや本格的に霊的瘴気の濃い場所を進む。
魔力の小さい者の力ではイヤリングがうまく機能せず真っ暗に近い状態で進んでいるんじゃあないだろうか。
私は広く視界を確保できてはいるが……気が滅入る……
単に暗いからってだけではなく場の環境が……邪気たちがそうさせているのだろう。
よりニンゲンたちが心配になってきた。
……うん!?
「……で……」
声だ! 共和国や大平原の国で使われる言語。
ということはニンゲンだ!
隠れて……ちょっと姿を整える。
2足歩行になってホリハリーみたいな姿に。
そういえばホリハリー時は耳からたくさんのピアスみたいなおしゃれハリをぶらさげているなあ。
深く考えてはなかったけれど……
確かにオシャレするならピアスの方が……
まあこのイヤリングは効能がメインだから問題ないけれど。
ピアス穴をあけなくてもハリをうまくオシャレに整えればアレコレ……
おっと。
放置しないようにしないと。
ちゃんと服も表して……
腰に剣ゼロエネミーを鞘に収めてと。
少し駆ければその姿たちが見えた。
ただ……
「あ、救助!?」
「た、たすけてくれ……!」
「こっちだー!」
「壁の向こう!?」
声が複数する暗がりの向こう側にニンゲンたち冒険者がいるのだが……
透明な壁が道を塞いでいた。
くっ……ワープはもちろん駄目だ。
「こっちに来るには、かなり迂回する必要があるぞー!」
「オレたちも良くわかってないんですけれどね……」
「待ってて、すぐに行く!」
どこだ……道は……!




