百五十六生目 封本
ライブラから蒼竜への渡し物を受け取った。
明らかにいわくつきの本。
処分したほうが世のためになるやつではないか。
「言っておくが、それは破壊しようとしても無駄だぞ。マグマの中に落とし込んでも無傷だったことがある」
「うわあ」
それはもはや本なのか。
明らかに禁書のたぐいなのはわかった。
ちゃんとしまっておこう……空魔法"ストレージ"。
「それと、貴殿も勝っておいて何も得るものなしではつまらなかろう。これを持っていくといい」
「また本……今度は見た目は普通だけれど、なんだか神力が……?」
保護魔法かと思ったけれどそんな勢いではない。
神力でこの本は保護されている。
この場にありながらまるでこの世界から隔離されているのような。
開こうとした……けれどなぜか開けない。
「そう。かなり特殊な本だ。先程貴殿を調べたときに、気になるものを見てな。それは必ず役に立つ、少しの間持っておくと良い。実はわたくしにもそれがなぜ貴殿の役にたつのかはわからないのだがな……」
「ええっ、それゴミを押し付けようとしている……?」
「とんでもない! わたくしは情報のつながりというものが見える。知識の惹かれ合うカタチが、貴殿と本の間に見えたのだ。そうだ、久方に神の本体と会えたのだから。【住所】を渡しておこう……」
知識のつながりか……よくはわからないがそっち分野の神が言うのならなにかありそうだ。
とりあえずありがたくもらうとして……
ライブラの【住所】は断る間もなく私に送られる。
私の腕に新たな紋様が浮かび上がる。
栞の紋様だ。
これがライブラのものか。
すぐに私の身体に馴染むように消えた。
「あ、はあ……一応貰っておくよ」
「まあまあ、わたくしも暇なのだ。たまに外の話も聞かせてもらいたい。こちらも、話せることはあるだろうからな。さあ、道はあちらだ」
「はいはい……じゃあ、今度こそ」
ライブラはよほど暇らしい。
知識を文字通り身につけているのだからなにかすれば良いのだろうけれど……
幽霊だというのとあくまで知の神のひとつでしかないという点がネックになっているのかな。
開いた扉の方へと歩む。
きっとライブラはこれからもこの幽館の館内で小さくまとまった暮らしを続けていくのだろう。
たまの来訪者に散々迷惑をかけつつ……
少し歩けばすぐにキッチンへとついた。
相変わらずここは光で溢れている。
ライブラも言っていたが幽霊たちにとってここは忌まわしき場所みたいだけれど。
「これは……ニンゲンたちの……」
獣だろうとニンゲンだろうとそこにはいた痕跡が残る。
においもそうだがここはさらにわかりやすい。
保存食を食べたり飲んだりしたゴミが隅で固められている。
本来冒険者はこういったゴミの類を片づける義務が生じる。
しかし緊急時はその限りではない。
なにか非常に切羽詰まる何かがこの付近であったわけだ。
特に食事はともかく治療した跡は生々しい。
血のにおいもある……
間違いなくここで隠れていたようだ。
そしてこれが重要だが。
魔物がほとんどいない。
前あったキッチンでは多数の魔物が休んでいたのにだ。
ニンゲンたちが多数で来るとどうしても騒がしくなる。
さらに冒険者となるとそりゃあ武装ギラギラ攻撃心ありあり。
誰に殴りかかるかわからない行動派の生物みたいな扱い。
ドラゴンなんかもそうなのだがそう思われている者が来た場合安全圏からは一気に他の魔物が引き上げる。
危険だからね。
そしてまだあまり戻っていないということはこの付近にはまだいるということ。
ライブラの言っていたとおりだ。
とするとだ。
私はキッチンでの休憩をそこそこにさらに進んでいく。
廊下に足を踏み入れ……すぐに違和感。
廊下なのに廊下じゃない……!
この空間意図的に捻じ曲げられている!
私みたいに色々探知系に優れていればすぐにわかるが……
そうじゃなきゃまったくわからない……まさしく迷わすための構図。
まず見た目に関しては単なる廊下。
しかし見た目だけはごまかすように空間がねじれている。
においや音まではごまかせていないらしい。
簡単に言うと……
壁があるべきところにはなく。
壁がなくてしかるべきところにある。
さらにつながるはずの道が全くつながらず扉越しにまったく別の場所へワープしたり……
一度行った道を戻れなくしていたり。
とにかく嫌がらせが詰まっている。
ここに閉じ込められているとしたら確かに大変だ……!
すぐに助け出さなくては命が危ないかもしれない。
彼等幽霊たちは加減ってものを知らないから……
下手すると生者がまともな体力で突破できるイタズラにはなっていないかも……




