百二十生目 空蝉
改めて2人のデータを確認しよう。
まずは弱そうな方を"観察"!
[ダブルヒューマンLv.10 異常化攻撃:暗闇]
暗闇は光神術の"ライト"や"ダーク"で視界を奪えることに起因しているのだろう。
強そうな方は……
[ダブルヒューマンLv.15 異常化攻撃:睡眠]
む、眠らせてくるのか。
もしかしたら闇魔法も使えるのかも。
[言語解読と観察のスキルにより言語学習が開始されます]
それがログに表示されると共に軽い頭痛が始まる。
この国じゃない所からやってきて宣教しているのならおそらく違う国の言葉が拾えるはずだ。
ありがたく自動学習しよう。
強そうな方が腕を構える。
手の中にははっきり見えないが何らかのアクセサリーを持っている。
彼等の宗教のシンボルで……なおかつ魔法の媒介かな。
光が強くなり魔法が放たれようとしている。
"読心"で動きを読む。
光が火となり玉の形を取る。
(ハッタリは効いているが所詮は小さい獣……"フレイムボール"でおどし追い払うか)
火魔法の初歩だ。
私もよく使うが使われるのは初めて。
放たれた火球は真っ直ぐに突っ込んで来たので"防御"する。
火が爆ぜ熱が包むが"防御"のエネルギー膜を貫通するほどじゃあ無い。
様子見の攻撃と言ったところか。
あちち。
「む……」
「少し手ごわそうですね」
私も本気でやりあうわけにはいかない。
"私"を呼びだしたりしたら血まみれ大騒ぎになる。
だからといって固まっていると怪しまれる。
駆けて距離を詰める。
しかし距離を詰められるのを嫌って相手も魔法で滑って後退。
よし、速度を保ってこのやきもきする感じを続けよう。
「あいつがいれば"観察"でどんな魔物かわかったのだが……!」
「町民たちに任せ助けようと思ったのは間違いでしたね」
最初に倒したあの法衣だろう。
"観察"されたら私の強さがおおよそバレてしまう。
たまたまだが良かった。
強そうな方が放つ"フレイムボール"や弱そうな方が放つ氷魔法のつららで出来た矢を防いだり避けたりしつつ迫ろうとする。
そうして距離をとられ攻撃か空振り……という膠着状態を生み出した。
「ちい、このままじゃ……」
「仕方あるまい、力を温存しておきたかったが大きいのを使う! まずは……」
そう強そうな方が言うと胸元にアクセサリーをかざす。
光が優しげな女性の胸から上をうつす像をかたどる。
朧気な形ながらそれは優しく息をふく。
息は光となって私が走っても避けられないほど広がった。
光を浴びた途端に私の身体の調子がおかしくなる。
か、身体が……瞼も重く……
「やっと少しおとなしくなったか……しかし抵抗されるか」
(元々元気な相手だから期待はしていなかったが……)
[四耐性 +レベル]
ログに"四耐性"のレベルが4に上がった事が記された。
睡眠抵抗も含まれているからだろう。
少し楽になった。
この調子ならすぐに動けるようになる。
「だからこそ頼んだぞ!」
「ええ、準備完了です」
マズイ、弱そうな方が腕を振るうと強大な魔力が発生した。
氷塊が私の頭上で作られてゆく。
実に重そうな塊が完成し落ちてくるのと私が動けるようになるのはほぼ同じくらいか。
喰らえば痛いじゃすまない。
鈍った頭に相手が合わせることは無く氷塊が無慈悲に降ってくる。
それとほぼ同時に私の頭の鈍りが治った。
眠気に抵抗しきったのだ。
"止眼"!
伸ばされた体感時間で考える。
避ける……まず難しい。
"防御"……賭ける対象が致命傷では割に合わない。
アレを……狙うか?
"鷹目"で私と氷塊を真横から見る。
接触する瞬間を狙う必要がある。
接触した後では遅いしあまり早くてもだめだ。
"止眼"を解除して体感時間が元に戻る。
コンマ1秒の落下に合わせ私の目を信じる。
私の目は早ければ早いほどはっきり見える!
今!
"空蝉の術"!!
私の身体は一瞬でめくられた地面の一部を盾にし後ろへと移動した。
派手な落下音が鳴った下に私はいない。
成功だ!
スキルならではの超常的な回避の動きに助けられた!
[空蝉の術 +レベル]
[回避運動 +レベル]
空蝉の術がレベル5に、回避運動のレベルが9になったようだ。
ギリギリの攻防ではやはり強くなりやすい。
めくれた地面が破壊され煙がたつ。
時間は十分稼げた、後は……
「クァン! クォンクォン!」
それっぽく悲鳴を上げて文字通り尻尾を撒いて逃げる。
氷塊やら土煙やらを隠れ蓑にまるでやられたかのように。
時間稼ぎというお仕事が終わったので撤退だ。
「ふう、やっとか!」
「いや、早く追跡を再開せねば。早くあの罪人を探しましょう」
そのような声が遠くから聞こえる。
もう難しいとは思うけれどね。
「あらおつかれ、大丈夫そう?」
「うん平気」
私は先にインカとハック合流していたユウレンとカムラさんたちに合流した。
ユウレンとカムラさんは乗れる鳥骸骨に乗っていて問題なさそうだ。
資料もユウレンが持っている、このまま帰る事にした。
「帰ろう!」
「よーし! ニンゲンの町もちょっと見れたから満足!」
「近づけなかったのは残念ー」
インカは戦闘がこなせて満足そうだがハックは町に近づく事もあまり出来ずに不満そうだった。
魔物避けの結界は厄介だなぁ。
そこからはさらに半日以上時間をかけて帰った。
私に兄弟さらにカムラさんと戦闘メンバーがいればここらへんの魔物たちは問題なく撃退。
好戦的だが気絶させて無敵と回復かけて放置しておけばもう私達を追撃しようとは思わないだろう。
相手も群れが多くその全貌はわからない。
群れの場合こわいのは棲み家へ戻り数を増やしてさらに付け狙われる事だ。
私もまあ似たような事はやったからね。
そうしてなんとか無事に森の迷宮近くのキャンプへと辿り着い……
「……うわあ!? なんだこの気配の数!?」
「おや? どうなされました?」
近くまで来たが私の光魔法"ディテクション"によるレーダー探知で異常な数を捉えた。
しかも警戒度が低い。
な、なんなんだ?
「やたらと魔物の反応があって……ちょっと見てきます」
「わかりました、何かあればすぐお呼びください」
そうっと"鷹目"で見てみるともういるわいるわのここの森や迷宮の魔物たち。
ドラーグとたぬ吉が震えているほど。
中央にいたアヅキが何かに気づいてタッと走る。
彼の走りは一度跳んでから勢いをつけて背の翼で低空飛行するものだ。
そうして向かった先……私か!
隠れていたはずの私の元にすぐにやってきた!?
目の前で膝をついてきた。
「おかえりなさませ主。無事で何よりです」
「あ、うん、みんな、無事」
「こちらの方は『掌握』が終わりました。周辺地域一帯の細かな地形確認の整理などはまだですが少なくともそこそこの範囲を抑えたかと」
「ええと……」
なんだか大事になっている気がする。
取り敢えず危険性はなさそうだからカムラさんたちも呼んで来よう……