百五十一生目 耳飾
木目なウロコを持つ大トカゲさんと安全な光のキッチンで会話中。
「――とまあ、そんな事情でここに来たんだけれど、聴く噂よりもだいぶホネでね」
「ほほー、結構面白そうなことしてんじゃないか。ま、本来ならもっと徒党を組んで、幽霊たちに対抗してやらないとな。やつら、緑の力で殴ると勢いを無くして引くからな、こういう安全圏以外では大事なことだよ。そうそう緑といやあ棚木だったか、アレなら――」
雑談ながら結構話は有益な方向に転がってきた。
付近の安全な地形。
棚木の位置に幽霊が潜みやすいところ。
それと……
「――そうそう、最近ニンゲンたちを見かけなかったかな。探しているんだけれど」
「ニンゲンたち? どうだったかな……ニンゲンってあれだろ、そこそこ大きくて、ガチャガチャ音立てたりしながら歩いている、中身があるやつ。毛皮みたいなのを着込んでいるやつもいたな」
「そうそう」
事前に聞いている話でも鎧持ちがいたはずだ。
彼等の立てる金属音は耳につきやすい。
ちょうど特徴づけられていてよかった。
「ああー……少し前に見た気がするな。なんか複数で固まって奥へ進んでいたかな」
「その時何人だった?」
「ん〜……5人……? まあ、そこまで興味なかったから多分な。やつら、結構幽霊たちを的確に追い払っていたから、なかなかやり手だと思うよ。見た時の方向は――」
5人なら報告と一致する。
やはりこの先に進んでいるらしい。
別エリアに住んでいる彼がちゃんと進んでいっているのを見ている。
脳内地図に書き込んでいく。
私は地図を持たず脳内で全部完結するから手と視界が塞がれず便利。
まあいろいろ魔法や能力や記憶切らすと大変なことになるけれど。
「――かな」
「ありがとう! だいぶ参考になったよ。キミはまだしばらく休む?」
「うんあぁ、もうちょっと休んでから行くかな。幽霊たちに負けんなよ」
「もちろんっ」
木目柄大トカゲに別れをつげ……
再度安全圏を発つことにした。
扉の向こうはまた幽霊の巣かはたまたか……
幽館の迷宮を進んでいく。
幽霊たちにビビらされ水中という存在に嫌がらせされ……
つきすすんでいく。
そもそもなぜ今回個人で来たかと言うと。
まず依頼を受けての行動なため普段のメンバーを巻き込んでやるのはあまりよくないかなと思ったため。
現地で組めるニンゲンがいたらそうするのだがたまたまいなかったんだよね。
そしてこちらが大事だが……
私の鍛え直しのため。
私は私自身というより協力したさいに最大限の力を発揮するタイプだと自負している。
しかし私がそれに甘えてはならない。
また朱竜の惨劇や……
前トランス時の戦いみたいに死をまねく。
私の機能が柱ならば大黒柱として全体を支えれなくては。
というわけで個人だろうともっと自身を見つめ直すための冒険中だ。
今は不気味にしずかだ……
もちろん当然レベルは大事だがレベルを上げるためにもこまめな鍛え方が大事。
私の戦闘技術をもっと伸ばさないと。
根の部分の強化に繋がるのだから。
さて今度の扉先は……
「あっ、ついに来た……奥地のエリアだ」
そこはまるで今までと同じようなオンボロ洋館。
しかし言葉にしづらい纏う空気感が違う。
まるで風邪の時にみる夢で日常的なのにどこか歪んでいるような。
サイケデリックと言うにはくすみすぎていて。
一般的と言うにはあまりに加味された色合いが無視できなくて。
何よりこのにおいだ。
圧倒的に霊的瘴気が濃い。
まずいな……
このままでは歩くたびに生命力を奪われる。
まさに死の世界。
こっから進むには……
聖魔法"レストンス"!
私自身に使い近くの邪気が払われる。
邪気の中には霊的瘴気も含まれている。
霊的瘴気が私の周囲から光に押しのけられ消えた。
さらに光が私の耳についている小さなイヤリングの丸い珠に宿る。
これはこの迷宮では必須のアイテム。
奥地で生き物がいるのは無理なので……
このイヤリングに"レストンス"を込めて光らせる。
すると珠がしばらくは"レストンス"の効果を維持してくれる。
"レストンス"を使えるのがそこそこ上級冒険者なのでやはり初心者は来られない。
このイヤリングは耳に痛くない優しいタイプ。
ピアスの貫通タイプもあるけれどちょっとこの耳に穴を開けるの痛そうだったので……
自分でも今までなんど耳ごと斬り落ちるような怪我負ってるんだと思うんだけどそれでも……ね。
視界は良好。
生命力が削られる不安はなし。
環境に関しては不安要素がなくなった。
とりあえず進んでいこう。
どうせトラブルは向こうからやってくるし……
採取品や奪取品もここからのほうが品質上昇する。




