百四十六生目 仲間
不気味な異世界にやってきた。
ここの名前は【幽館の迷宮】だ。
幽館の迷宮という名の通り……ここは出る。
すでに足を踏み入れただけだというのにどこからかこちらを嘲笑うかのような声。
そしてボロボロで何も動かないはずの者達が……
時折震えるように見えた。
敵意あるものがこちらを見ている……
そこにいないのに確実にそこから見ているような。
まさしく幽霊と呼ぶにふさわしい。
ここ幽館の迷宮はどこまでも続く不気味な洋館の世界。
魔物もそれにふさわしく幽霊やら妖精やら妖怪やらがひしめく。
初心者が入ったら確実に大事故が起きて仲間入りしてしまうとか。
私も仲間入りはしたくない。
なので慎重に行こう。
今の所気配をさせているだけで何かを仕掛けてくる気はなさそう。
今のうちに依頼を整理しておこう。
中身は採取に奪取それに捜索だ。
採取はまずできそう。
ここの迷宮でとれるものを採ってくれば良いわけだ。
奪取は魔物を撃退しつつ特定の素材を入手すること。
そして捜索は1番大事。
この迷宮に行って帰ってこずかわりに救援要請が来た冒険者がいる。
早くしないと幽霊とオトモダチになってしまう。
さて行こう。
今ここの霊的瘴気は薄く私に効果がないが……
奥に進むにつれ濃くなると聞く。
いるだけで生命力が削がれるらしいからそこまでいけば対策をとろう。
こちとら死霊術師だ!
(見習いな)
(みならいだね)
うん。まあそうなんだけどふたりとも。
歩みを進めていけばこの洋館の作りが恐ろしく迷路じみているのがすぐ理解できる。
通れそうで通れない道だらけで廊下を右往左往しなくてはならない。
洋館が崩れたような木片の山積みになっていたり床が抜けている程度ならば跳ぶなりワープするなり手はあるが。
困ったのは壁の場合。
廊下がどこにもつながらず壁ってどういう建築だとは思いつつも迷宮なので仕方ないが……
脳内マッピング的にこの壁の向こう側にまた別の部屋があると理解できたとしても行けない。
ワープしようとすると壁と壁の間で魔法障害があるかのように弾かれてしまう。
それどころかその分の魔力を吸われる。
間に何があるのかが不明でまるで虚無に吸い込まれているかのよう。
仕方ないので歩いて遠回り。
さて……そろそろかな。
部屋の真ん中まで行って広めの空間を陣取って。
「そこにいるんでしょ、それっ!」
光魔法!
[エクスポーズ この世ならざるものを顕にする]
空に向かって照明弾のような光が打ち上がり……
そのまま大きな破裂音と共にきれいな火の花が咲く。
つまり花火。
途端に周囲の物陰からいままでは感じ取る程度しか出来なかった存在が慌てて浮かび上がる。
それは半透明ながら瘴気を自身の内に詰まった存在。
長い爪が3本ずつ不気味に構えられ何かの存在が無理やりその形に袋か何かに詰められたかのようにそこに浮く。
"観察"!
[ファンター Lv35 比較:よわい 危険行動:イカサマアタック 異常化攻撃:魔法能力ダウン]
[ファンター この世に囚われた未練の集合体が魔物化して意思を持つようになった。楽しく暮らすために仲間を増やそうとする]
「ウケケ!」
「ビビビックリ!」
「仲間になろーう!」
「だから仲間にはならないって!」
まさしく集合体がむりやり1つになっている感じか。
5体か……
いくら単体が弱くても囲まれれば私も危険だ。
とにかく……
ゆっくり駆けながらスキをうかがう。
生物らしさは当然ないためウネウネとうごめきあい空をゆらゆら飛び回っていて何がスキなのかぜんぜんわからない。
それに事前情報が確かならば。
「それっ!」
「ケケッ」
私は全身から針を生やして……
一気に飛散させる。
"針操作"!
"イバラ戦師"で遠隔攻撃にも大きく追加打撃をのせて"連重撃"で1つあたり2つの当たりもある状態で光が輝きファンターたちに飛び……
当たる!
しかし……針たちはなんら抵抗なくその場に落ちてしまう。
すっごく薄い手応えが……
やはり聞いていた通りか。
霊体の彼らにはほとんどの物理的な攻撃が通らない。
これがどうしても初心者には厳しい。
ラッキーヒットすら望めないのだから。
だけど私はその代わりに……!
火魔法"フレイムエンチャント"!
私の爪や牙に炎がまとい……
急にファンターたちの動きが変わる。
まさしくこちらに注目せざるをえないような。
それは一種の恐怖。
「「ゲゲゲッ」」
震え上がっているようにも見える。
それもそのはず彼らは別になんでも効かないわけじゃない。
属性を持たない物理攻撃しか防げないのだ。