百四十五生目 洋館
大平原の国で帝国から来ているお店を見つけた。
このイメージ上の蒼竜が掘られた看板……
なんだか知らないけれど異様に蒼竜の神力が付与されている。
「この立て看板ってどこから手に入ったものですか?」
「ああー、うちの商会連合が蒼竜様の信仰協会から直接仕入れているらしくてね、アタシもよくわからないから売れないの、ごめんね!」
「ああ、いえいえ気になっただけなので」
ううむわざわざこれを商隊連合に渡している?
これ簡易的な神域結界が作られていてこの近くだけ異様な雰囲気。
まさに朱竜界の中にある蒼竜の領域。
まさか蒼竜がこっそり手を貸していて誰にも気づかれぬまま商隊を海外でも守りつつ別大陸へも広げている?
ううーむ……やりそう。
蒼竜の暗躍好きはそういうのを好む。
それはともかくとしてラインナップも結構気になる。
商店だし帝国の品は多いのだが。
ううむ……しかも冒険者向けに有用なものが揃っている。
「ここ、冒険者さんもよく利用されるのですか?」
「そうだねえ! うちの商隊はあちこちの国で展開している関係で、どこでも需要があるものを仕入れると必然的にねー、傷を癒やす薬剤、どうだい?」
「ええと……足りないのは……」
結構今おねえさんは変わったことを言った。
何より冒険者の発達度合いが悪いのは帝国そのものだ。
それなのに必然的に各国でつかうから仕入れているというのは変な話。
なんとなく蒼竜の影がちらつく気がする……
この回復液はアノニマルース産の商品だしなあ。
そういえば蒼竜はあの気まぐれ探偵だけで食べていけるのかと思っていたが……
なんだか蒼竜の稼ぎ口がわかった気がした。
さて今日は単独で迷宮にもぐりつつ依頼をこなすことになる。
私のあれこれある特権のおかげで探索許可迷宮と深層立ち入り許可がある。
そういう所の依頼は私向きだ。
困ったことがあるとすれば大平原の国冒険者ギルドも様子が気になるということか。
やはり政府と対立状態でなおかつどこか黒い噂がちらつく。
やはりピヤアが南からもあるのは間違いないか……
この大陸結構縦長で北からの進入だったから最悪旅路は長くなるね。
まあ良い冒険をしたい……
朱竜襲撃の可能性を除けばこの大陸も結構好きだから。
今日の依頼は3つ。
たまたまいっぱい貰えて良かった。
全部同じ迷宮のものだ。
ひたすら広がる平原を誰にも気兼ねなく4つ足で駆けていくのは楽しい。
風を切り土と草を踏みしめ肉球で跳ねていく。
いやあ良いねえ!
正直迷いそうになるくらいずっと平原続きだが脳内マッピングしておいてなんとか把握している。
光魔法"ディテクション"改良版によるサーチは私の冒険おとも。
平原の中に目立つ赤い塔が見えだす。
赤灰レンガで作られた目印だ。
グッと加速してすぐにそこまでたどり着く。
そこにあったのは高く伸びる塔と……
その近くにあるひとつの穴。
この下が噂の迷宮……なのだが。
その入り口は重々しい岩の扉で閉じられている。
許可なきものはここから入ることはできない。
都市からそこそこ近くなのに平原の中にポツンとあってうっかり誰かが入り込まないようにしてあるわけだ。
それほどにここの迷宮は危険視されている。
私の持ってきた探索許可用の石をかざす。
魔力が互いに反応し鍵の役割を果たし……
扉が揺れる。
ゆっくりと岩の扉は開かれてゆき……
やがてひとつの穴が見える。
見た目からすれば底が見えないような……
光が入り込んでいかない不思議な穴。
ゆえに『おいでおいで』と誘われるようで。
きっと落ちて迷い込んだらもどってこれないような。
不気味な誘いがそこにあった。
「よっと」
飛び降りる。
意外に深くはなくすぐに地面。
ただ頭の上に穴がある程度には距離がある。
この場所がちょうど光を吸い取ってしまうタイプの色合いをしているのが暗く見える原因か。
光神術"ライト"を使えば照らされた土壁と階段が見える。
続く段差をそのまま下り続ければ目的の場所にたどり着く。
1段1段踏みしめていく。
時折異様にひんやりとしているようで。
それが私の熱と共に生気までも奪いそうで。
やがて生命の力が溢れていた大平原が遠のいてゆき。
背後で穴が閉じる音がした。
「ついた……ここかあ……」
そうして階段を降りきればそこは異世界。
ひとつの小さな世界は……
その変容し続ける姿から迷宮と呼ばれる。
この世界は閉ざされている。
それは私が降り立った地がひとつの答えで……
まるで洋館の中みたいに見えるけれど寸法が狂いそうな大きさ。
そして何よりもどこも手入れされておらず。
ボロボロの環境でほこり臭く。
なによりも不気味だった。




