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百四十三生目 裏頼

 朱竜はともかく依頼の相手は倒した。 そのことを認めてか相手も態度を改めてきた。


「そうだな、正直お前をナメていた。お前達を……か。冒険者風情がと思ってはいたが、ここまでやられるとなると、もはや認めざるをえん。これだ」


 相手が机の下から引っ張り出してきたもの。

 それは冒険者依頼達成の証。

 これで依頼達成だ!


 私は前に進みそれを受け取ろうと手を伸ばし……

 直前に紙に手を覆い被せられた。

 えっ何?


「っ!?」

「ところで、これは個人的な依頼……もとい信頼できる腕の主にしか頼んでいないことなのだが、聞いてくれるね?」

「……聞くだけなら」


 なんなのだろうか。

 すごい嫌な予感しかしない。


「昨今、先程もあったように朱竜様の動きに乱れが見える……特に魔王とやらが別の大陸で復活してからなおさらだ。気の所為だと言うものもいるが、気の所為だけで何度異常観測があることか。そこで、だ」

「……朱竜さまにあってどうこうしろっていうのなら断りますよ?」


 彼は否定の首振り。

 さすがにそこまではさせないか。


「何、そこまで難しいことじゃない。朱竜様に関する変化の情報を集めてくれ。基準的なものなら各地で見られる。そこから逸脱した何かを見つけ、我々に何を伝えたいのかを見つけたい。情報のたびに報酬を出そう」

「……これ、ギルドや軍部の方は?」


 なんとなく察して聞いてしまった。

 相手もこちらの意図を察して良い笑顔で返す。


「先程も言ったとおり、信頼できる腕の主にしか頼んでいない。特に朱竜様に深い信仰を抱いているわけではないお前に、話を通すのが意味あるのでな」

「危ない橋、渡りますね……」

「やってくれるな?」


 彼が手をどけると先程の依頼完了証明の他にもう一枚紙が増えていた。

 なるほどね……

 冒険者としての戦果を期待しているのに冒険者ギルドを通さないのはかなり危ういやり方だ。


 依頼者が罰則を喰らう危険性もある。

 ただ今回の場合……冒険者向けと言うより調査依頼。

 かなりそこらへんをうまくバランスとって探ったのだろう。


 当然軍も通していない。

 ぶっちゃけていえば裏依頼。


 私は……まあいいか。

 いきなり不利になるようなものはないはず。

 裏とは言え内容はかなりクリーン。


 正直朱の大陸では政府側も冒険者ギルド側もあまりに信用が薄い。

 こういうタイプのは最悪握りつぶされるからね。

 私も調べる口実が出来た。


 朱竜に関して……

 そしてこの大陸に起こる異変に関して。

 私は紙を受け取りよく読む。


 うん……ちゃんとした依頼書だ。

 そして完了証明書。

 ちゃんとしまっておこう。


 今の話によると朱竜はドラーグ関係以外にもかなりの異常行動が目立つようになっているらしい。

 しかも魔王復活あたりから……

 もしやピヤアに関わりが……?


「それでは、あまり期待をしないで待っていてくださいね」

「ふん」


 国境警備隊の長は軽く笑い飛ばして扉から出ていく私を見送ってくれた。









「うーん……依頼かあ」


 私は冒険者ギルドにおもむき報酬を受け取ったあと隅のほうでそうこぼす。

 あの後ちゃんと依頼書の内容を読み込んでみたが裏ってこと以外は比較的まともだった。

 彼についても探ってみるしかないが……


 あの様子からするに彼は変わり者ではあったのかもしれない。

 まったく愛煙していないどころか吸っている気配がないだけではなく……

 そもそも言うほど朱竜に対して深い信仰を抱いていない。


 ゼロかといわれればまた別だがどうやら神に対しても疑いをもつタイプらしい。

 あの部屋には朱竜を思わせる飾りが極端に少なかった。

 元々軍部なんて力の象徴である朱竜を信じてなんぼみたいな風潮があるというのはあの後少し調べただけでわかった。


 だから国境警備隊の長なのに周囲に朱竜の異常行動について話を振っても成立しなかったのだろう。

 それに何より……


「聞いた!? 朱竜様がこちらに飛んできていたんだって!」

「ああ、そりゃあな! 途中で帰っちゃったらしいけれど、少しでもこちらに向いてくれるとか、これは運勢が向いているな」

「朱竜様の加護もある気がするし、今日から久々に金灰掘り連続行動するか!」


 部屋の中央のほうであれこれと冒険者たちが騒いでいるのが聴こえる。

 今日は普段と比較しても活発だ。

 何せ朱竜が近くまで来たから。


 この国で朱竜が来ることや向きによって幸不幸が占われたりする。

 もちろん大半は験担ぎでしかないが……

 正直金灰に関しては朱竜と密接に関係した神力がこもった灰だからあまり馬鹿には出来ないんだよね。


 おそらくそういう経験が積み重なった結果だろう。

 しかし……

 国境警備隊の長は朱竜の異常行動について非常にげんなりしていた。


 他の兵たちは朱竜の飛来に危機感を覚えつつも興奮して喜んでいたのに。

 アンチ朱竜とまではいかないが色々思うところはありそうだ。

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