百三十五生目 朱竜
朱竜が目の前に……!
"観察"!
[朱竜Lv.90 比較:無謀 異常化攻撃:火傷 危険行動:フレアブラスト]
[朱竜 五大竜と呼ばれる大いなる神の1体。最も苛烈な意思と力を持ち世界を焼くが、それが世界を支えてもいる]
流石に心のなかで笑ってしまった。
レベル90って何。
当然のように比較値が無謀なんだけれど。
まあ"観察"しなくてもさすがに絶望的なのはわかる。
そもそも対峙してはだめな相手だ。
それにしても動いていたはずの朱竜がなぜここで立ち止まっているんだ?
「ドラーグ、コロロ、近くにいて」
「……うん……すごい……」
「…………」
ドラーグはまさに感嘆符としか言いようのない音を口から鳴らしていた。
これほどの相手……固まってもおかしくない。
「……来たか」
朱竜が聞き馴染みのある言語で言葉を発する。
……えっ。
今の言語って……!!
「ドラーグ……?」
「僅かな時、会わない間に大きく変化しておるな。なぜ虫に背を跨がらせているのかわからんが……あの力の気配は間違いなかったか」
「パ、パパ……?」
コロロの呼びかけにもドラーグはほとんど反応を示さない。
というかこの言い回し……
そして言語。
本当ならまずい。
「我が竜たる血を引き継ぐものよ。我が力の一端を開いたか」
「えっ」「ハッ……!」
「……ま……ママ……!?」
ドラーグがやっとひとつ言葉を絞り出した。
え……ママ!?
この色々厳つい存在が!?
というより親という意味のほうが大きい。
「雌雄のではないと繰り返させるな。大きく姿が変わって、初めての発言がそれとは、とんだ見込み違いだな」
「いや、でもママ……じゃないや親、まさか、こんな凄い存在だなんて知らなかったよ……」
「それはそうだろう。我が身はお前に直接会うのは初めてだ」
うん……? え……?
どういうことだろう。
口を挟みたいけれど挟むのもなんか違う気がする……
ドラーグが私やコロロの方に目線を向けて何か気づいたらしい。
「そうそう、親はいつも厳しかったけれど、今思うと僕は、親の分神にしか会ったことなかったんだなあ……」
「戯れに創った我が身の血から産まれし存在、それに対して全て割いては我が力を振るえぬ。神から創った天才的な神の眷属ではなく、ただの虫寄りの存在を創るという経験は、壊す歓びの糧になった」
虫……というのはおそらく言い回し的に自分よりも小さすぎる存在ということか。
色んな意味で。
なるほど朱竜の子らしいのになんでこんなに違うのかなんとなくわかってきた。
つまり朱竜は眷属をつくりたかったわけではなくどこかの神話のように自身から大きく劣りつつも確立した存在を作りたかったんだ。
だからこそドラーグは神でもなければ神力も扱えない。
だがなんとなく朱竜の子という部分が感じられるところもある。
激運だ。
ドラーグは異様にツイている。
しかも当竜が望まない方向に。
ドラーグが望まない方向というのは平穏とは遠いこと。
つまり簡単に争いをしかけてくる相手を引き込み行く先々でトラブルが起き……
戦闘をたくさんしているような相手に拾われニンゲンたちにこぞってモテて……
そう。
厚い信仰を寄せつつも常に破壊と争いをもたらす神朱竜の存在そのもの。
激運の影にはこんなルーツがあったのか。
「扨、事実確認が出来たところで……その虫はなんだ?」
「親、虫じゃあなくて仲間だよ。大事な相手で、クワァコロロと……こちらの方はローズ様」
「ん……」
「こ、こんにちは朱竜さん……」
さすがに恐る恐る言うしか無い。
バレてませんようにバレてませんように!
「クワァコロロだと……? 虫相手にごっこ遊びをするとは、尊厳はないのか! それにこっちは、虫は虫でも、蒼竜の虫ではないか。蒼竜の虫が潜んでこの大陸にいるとは、よほど焼いて欲しいと見える」
「マ、親!? や、止めてください!」
朱竜の身体が赤く火照りだし目が恐ろしく光る。
いやこれまずいって!
「問答無用、我が子も次出逢えば戦いになると話したはず」
「あっ」
「特に蒼竜の虫は許さん、死して伝えよ、この地に蒼竜の雪は要らぬと!!」
ドラーグが今思い出したという顔をしている。
そういえば昔話してくれた時にドラーグがそのようなことを話していてくれだなあ!
まずいまずい逃げよう!
「ドラーグ! コロロ!」
目の前の大口が開かれてゆき凄まじい熱が集まって炎の光として成り立っていく。
私は急いでドラーグにくっついて……
目の前に炎が見えた瞬間に空魔法でワープする!




