百二十四生目 無煙
討伐または撃退の依頼を受けてここ国境付近に来た。
建物の外には早速と言っていいほど重い装備を着込んだ兵たちが。
もちろん近づけば武器をちらつかせられる。
ええと……
この書類とこっちの証明書と……
それとこの認可かな。
まとめて両手広げて出した。
「ここらへんで多分大丈夫だと思うんですがー!」
「うん? あれは……まさか!」
「これは……まさかあなたが、依頼を受けてくれる方ですか!」
「そうですー代表で来ました」
態度が一気に軟化した。
出した資料は合っていたらしい。
2人は武器をおさめ引いてくれる。
「こちらにどうぞ、ささ、早く」
促されるまま中へと入っていく。
おっと……もちろん灰を落とすのを忘れずに。
中に入って案内通りに奥へと進み階段を登って。
3階にたどり着いて案内の人に契約書を見せればそのまま部屋へと通してもらえた。
そこには……国境隊の明らかにおえらいさんな服を着たひとり。
「失礼します」
「入ってよし。おや、キミは……」
「冒険者の方をお連れしました」
往々にしてこういう仕事場はやたら煙臭いことがある。
私はよくこっそり魔法をしこんだり失礼にならなさそうなら防護用の魔法布で煙をガードしたり。
最近は毒をきっちり自身の中で処理したりして過ごしている。
ただここは驚くほどに煙がなかった。
禁煙家なのかはたまたそれどころではないのか。
書類とにらめっこしていたその相手は椅子から鋭い鷹のような眼光をこちらに向ける。
「なるほど。私を通すということは例の依頼か。よい、キミは下がっていなさい」
「はい」
「お邪魔します……」
見るからに彼は非常にストレスを抱えていそうだった。
囲まれる書類。
積まれる大量の資料。
多くの勲章たちが部屋を飾り立ててはいるものの今それが彼の力にはあまりなっていないらしい。
おそらくは今すぐ頭をかきむしって投げ捨てたいであろう表情が垣間見え書類から目を離してこちらを見て……
ため息をつく。
「はぁ、何を考えてこんな奴を冒険者組合は渡してきたんだ……」
「ええっと……こんにちは。このたび依頼を受けさせてもらったローズと言います。色々お聞きしたいことがあるのですが……」
初対面露骨にがっかりされた……が。
まあそれは良いのだ。
逆に私の正体看破されていないということの証明だし。
私は冒険者組合からの正式な依頼受託書と冒険者身元保証書をセットで出す。
他のは話がややこしくなるから別に良いかな。
彼は軽く目を通すと軽く鼻で息を吹きこちらにつっかえしてきた。
どうやらもう本物として扱ってはくれるるしい。
冒険者同士からみたら大興奮のランクもほかから見ればよくわかんないよね。
「さて、質問とは何だ? こちらも心当たりがありすぎるな」
「では……なぜ対立しているはずの組織に依頼を?」
そう。冒険者ギルドと政府は対立している。
政府そのものではないにしろ政府の下で国境を守るために戦う軍は当然冒険者たちと仲が悪い。
今回の依頼を受けたときにもギルドのニンゲンに聞いたもののよくは分からなかったそうだ。
彼……国境警備大隊長は軽く息をはらう。
そりゃあ真っ先に聞くよなといった様子で。
「……そうだな。我々は日夜ここの警備し魔物たちの襲撃や隣国との見張り、または通常の犯罪を見逃さぬように働いている。意味もなくバリケードを壊そうとするやつならまだいい。バリケードを喰おうとするやつらもいるからな。このように我々の魔物害はかなり悩ましいところがある」
なるほど……なんでこんなところ魔物を襲われるかと思っていたら。
水場を覆っちゃっている上比較的に暴れん坊も多く……
素材ごと食べようとするやつもいると。
魔物との殴り合いが多いのは朱の大地全体がそういう傾向があるるしい。
朱竜自体の破壊神気味な傾向で基準がおかしいというか……
ちゃんと欲しいものは勝ち取るというのが多くの者たちに組み込まれている。
だから割と戦いに対してサバサバしているというか殺さなきゃ良いでしょみたいな感覚で生きている。
なので国境なんて関係ない魔物たちは乱雑に攻撃してくる……と。
「しかし、それだったらわざわざ敵対組織にまで依頼しなくとも……」
「そう、そんなに簡単だったらな、増員をかければいい。少なくとも冒険者に依頼する必要などはない。ただ……2つ名持ちはそれだけで厄介だというのに、ヤツはこちらの領域と向こうの領域どちらも荒らすのだよ」
「ああ……」
赤纏のスドラウグはどうやら国境またいで攻め入っているらしい。
もしかして今も向こう側にいるのかな。




