百二十生目 伝説
月明かりの中フォウと共に飲む。
私は酔わないしフォウは口がないぶん見て楽しんでいるが。
「槍がそうやってできたことはなんとなくわかったんだけれども……持ち主の神はどうしたんだろう」
[詳しいことは何も。とある時には消えていた。ただ分かることは、彼はもうこの世界と共に眠っている。いわゆる死生観の話でなく古代神ともなると、そこにあるものとして偏在している。この水分も、ある意味彼のおかげだ]
フォウがゆらゆらとお酒を回して喜んでいる。
古代神というのは想像がつかないが……
会えないのか会えるのかすらはっきりしていないような存在なのかな。
私は酒をよくみたあと……
グイと飲み込む。
身体に優しい味わいがうれしくさせていく。
「フォウ自身は……どうなの?」
[要領を得ない。どれに対しどうなりたい?
「その、古代神というのがどんどん消えて、最終的にフォウがいるだけだし、槍に対しての思いも何かありそうだったから」
[取り残されることか。あまり恐ろしくなってしまうことはないな。むしろ、今当たり前のコト、当たり前の景色に見え隠れする彼らの影を感じることが、どことなく幸せを感じる]
「なるほど。ふむ……そうか、そうだったんだ」
フォウがどこかこの時代ではないところを見るような目をし……
何より楽しさを実感しているような目で。
彼の根がわかった気がする。
[今の回答が満足いくものだったようだな]
「まあね。ただ……ただフォウが過去に、世界が荒れるのを嫌がり、いろいろ壊しまわったのは、ただフォウのみんなが仲間たちが生んだ景色を守りたかっただけなんだなって」
私の言葉のなにかに気づいたかのようにフォウは目をまるくする。
そうして目線を酒の方へと落とす。
[そうなのかな]
[そうなのかも]
フォウはゆらりと酒を傾けたあと……
それを思いっきり振り抜く。
当然中身は空へと舞って。
月明かりが水しぶきを煌めくように反射する。
それは誰に手向けたものなのか。
なんだかフォウはとてもうれしそうな……満足した顔をしていた。
「私の言うこと、ズレていた?」
[いいや。きっと、それでいいんだ]
「そう」
なんだかお互い笑顔になる。
今はただ……
この世界と月たちに乾杯。
ドラゴンには常に伝説がつきまとう。
その巨体といる数の少なさから常に話の的になる。
なによりその姿がとても絵になるからね。
5大竜という神たちの話から国を収める不思議なドラゴンのおとぎ話。
邪竜討伐談から宝物を守るドラゴンと冒険家たちのしのぎあい。
さらにはドラゴンと共に暮らすニンゲンの絵本も。
ドラゴンたちの預かり知らぬところでもドラゴンの伝説は多く作られており……
そして今の流行りは……
竜の血伝説。
「いやあ、みんなドラゴンだからって本当に大げさに言い過ぎなんですよ。所詮単なるトカゲですよ」
「それをドラゴン本人が言うのドラーグ……」
そういった話題になったときにドラーグは笑い飛ばした。
こんにちは私です。
今はドラーグに私そしてドラーグをパパと呼ぶニンゲンであるコロロと共に低空にいる。
「……パパ、良さそうなの」
「あ、本当だ。あっちへ行こうかクワァコロロ」
ドラーグはコロロの指示て向きを変え……
私もその後を追う。
向かった先には何羽かの鳥たち。
「おーい、そこの方たち――」
「あ!?」
「殺せ!」
「敵だ!」
「……パパ、不意打ちのほうが、あり」
「いやあ、それは……おっと!?」
ドラーグが声をかけただけなのに攻撃してくる3体の鳥たちが次々風弾を放ってくる。
ドラーグは巨体だけれども器用に避けた。
コロロは不意打ち提案するものの平和主義な魔物だと困るからね。
今の所この区域で会ってはないけれど。
今日はコロロとドラーグの訓練だ。
実地訓練ということで毒沼の迷宮で低空飛んでは高く飛ぶ鳥たちを見つけ……
攻撃をしかけるというのを繰り返している。
ドラーグは相変わらずこういう時に持ち前の激運で気性の荒いタイプを引き続けている。
私はある程度なんとなく種族でわかるようにはなってきたけれどここまで見かけ次第声をかけているのにね……
魔物としては小柄で私ぐらいしかない鳥3体だがまさに自由な動きで空を舞いドラーグを取り囲んでいく。
私は離れて位置で気配を消しているのであんまり気にされていないだろう。
「それにしても、ドラゴンの伝説ですかあ……なんだか自分の種族が他の種族にあれこれ書かれているだなんて、なんだか変な話ですね」
「……パパの話も、いつか、書かれるよ」
「えー、それはないよう」
「何気をそらしてんだ!」
「こっちは腹の虫の居所が悪いんじゃい!」
戦いの始まりだ。