百十四生目 鎮魂
テリアンコウとミフソホ槍を切り離した。
フォウが前に出てミフソホ槍の近くへと。
「あまり近づきすぎると、その槍に何をされるかわからんぞ?」
[大丈夫。あの槍は、飢えているだけだ。さあここだ、ここに求めるものがある]
アヅキの注意喚起はともかく私は気絶したテリアンコウの治療を施しつつ様子をみる。
フォウはミフソホ槍に対し大きく腕を広げた。
腕はないからそう手の動きがあるというだけだが。
『力……力を……早く……』
[水底穿つ剣よ、ここが求める場所だ]
『力……ガアッ!』
そして。
ミフソホ槍がフォウにむかって飛び……
貫いた。
「「えっ!?」」
あまりの出来事に対応出来なかった。
しかしミフソホ槍はフォウの身体を串刺しにしているというより……
まるで溶け込もうとしている?
[そう。もう枯渇におびえ、飢えることはない]
「だ……大丈夫なのか……?」
ミフソホ槍はあっという間にフォウの中へ消えると……
フォウが光に包まれ……
水のような光と共に何かが現れる。
それは水を纏ったような服。
帽子は澄んだ液体の様に光り……
飾り気のなかった部分たちにみずみずしい水がつく。
さらに両手に大きな水の光がらつくられ……
左腕を振ると私達全員が泡の中に包まれる。
「うん?」
「なんだこれは?」
そして……
右腕を振るえば光が一気に伸びて……
あたり一面を水の光が覆う!
水が凄まじい流れとなり周囲を飲み込む渦潮となるが。
私達はまったく影響されない。
なるほどこの泡は防御策なのか……
[これで無駄エネルギー使い切り。しばらく落ち着くはず]
フォウはそれらを使うと瞬間的に光に包まれて元の姿に。
そしてミフソホ槍も出てきた。
あの圧倒的な輝きがとても収まった状態で。
「ええと……今のは……?」
[自分が元の古代神の代わりに適合しシンクロ。暴走を抑え力の循環を正常化したから、もう暴れない]
確かにミフソホ槍は先程とは打って変わって単なる槍のように地面へ転がった。
強烈な念話も神力による精神汚染化もまるで感じない。
この槍の息遣いは感じるが眠るように静かだ。
フォウが手で私に持つようにうながすのでトゲなしイバラで持ち上げる。
「さっきのすごかったですね……槍があればいつでも使えるのですか?」
[いいや。個体ローズの神力が必要だ。正確には個体ローズの神力を受け取った自分が、神力を凝縮させ瞬間的に爆発させる必要がある]
ミフソホ槍を掲げるとイバラからまるで脈が伝わるかのような錯覚を覚える。
しずかながら力強いエネルギーの循環。
これがこの槍……!
『所有者よ、今お前にだけ語りかけている……』
「えっ」
「うん? どうされましたか?」
「いや、ミフソホ槍が私に念話を……」
みんなには実際に聴こえてないらしく視線をこちらと槍を行き来するのみ。
『貴君らの活躍により、わたくしは本来の落ち着きを取り戻せた。我が本体に変わって礼を言う』
あっ。う……うん。
まあどういたしまして……
『水恵まれぬ地にわたくしをさし込め。さすれば恩恵が与えられん。また狂わぬよう、しばしの間わたくしは眠ろう……』
あっ……
今すっと念話の反応が消えていった。
これでミフソホ槍は安心して眠れたということなのか。
なるほど本来の力で危険な振り回しをしなくとも……
そういう使い方もあるよと。
どうやら協力してくれるらしい。
「主、槍はなんと?」
「みんなに、落ち着かせてくれてありがとうっていうのと、使い方の話と、もうしばらく眠るって」
「なんだ、もう寝ちまったのか」
「まあ、神の槍すら主ならば認めさせることができたと言うことだ。宝石剣ではなかったのは残念だったがな」
うん……結果的にはそこにはなるよね。
宝石剣伝説としてはハズレ。
そのかわりとんでもない品が見つかったようだけれど……
ほんとどうしようかこれ。
世界の景色が変わってゆき……
囲まれた海は元の基地内に戻る。
静けさがそこにもどった。
テリアンコウは外にいた。
「何度も死ぬかと思ったよ〜!」
テリアンコウの治療が終わった。
ミフソホ槍と繋がっていたときは大半が悪夢のように曖昧な記憶らしいが……
飛び出た後からはさすがに記憶がはっきりくっきり。
私達がよってたかって痺れさせた記憶もあり気絶から回復してもしばらく怯えていた。
今なんとか落ち着いて事情を話せたところだ。
「ほんと、なんとか助けられてよかったよ……いたくしてごめんね」
「あああ、えと、助けて貰えたから本当に良かったよ!」
「これからは変なものには近づかないでくださいね」
「キモにめいじるね……」
「ああそうそう、実は私達アノニマルースという魔物たちの町から来て――」
凄く取り乱し水中でなければ泣いているテリアンコウにアノニマルースへの勧誘も忘れずに行わなきゃね!