百十三生目 感電
テリアンコウが疲れ果てた。
ミフソホ槍が無理やり操ってはいるものの肉体がすでに悲鳴を上げているのだろう。
テリアンコウが死ぬ前に肉の紐を切り離しミフソホ槍と分離しなくてはならないんだけれど……
「硬い……!」
「硬った! なんだこれ、爪が通らねえ!?」
「何もかも防いできて凄まじい……!」
試しに火魔法"フレイムボール"て燃焼しようとしたけれど見事に着火もなにもせずただ火の玉がぶつかり消えただけ。
アヅキが殴ってもジャグナーが引き裂いても紐が切れる様子はまるでない。
これどうなっているんだ……!
おそらく肉の紐も耐久できるのは少しずつ落ちているだろうけれど……
このままだと難しい。
『力を……持っと……飲み込め……!』
「う、うああ……!」
テリアンコウはのろのろと大口をあけて私達を噛もうとしてくる。
さすがにこんなのに食べられるわけが……うん?
「ちいっ、いったん離れて――」
「――あっ、あの口奥!」
たくさん歯がならんだそこにあるもの。
確かに見えた。
"見透す眼"で口見えても大丈夫だ。
「根本、ですか。しかしあそこを調理となると……」
アヅキの言う通り歯がたくさんならぶその奥にテリアンコウとミフソホ槍をつなぐ根本が見えた。
思ったよりかは手前側だ。
……もしやゼロエネミー。いける……?
『食え……全てを喰らえ……力を手に入れよ……』
「ぐわっ! まったく、あの槍なぐったら静かにならないか!?」
[止めたほうが良い。その肉よりもはるかに硬い]
「それは……やめといたほうがいいなっ」
テリアンコウの回転によってみんな吹き飛ばされる。
ジャグナーが文句を言うもののあのミフソホ槍自体を今どうにかするのはムリだ。
私達の力では突破できない。
とにかく近づけさせる気がない動きを繰りかえされる……
やはりここはやるしかない。
まずは私達が引きつける!
電気魔法"スパークボルト"!
体に電気をまとい……
上に曲線を描くギザギザな軌道で放つ!
「ぎゃあっ!?」
「もうちょっと我慢して!」
テリアンコウに雷撃を浴びせるとまた動きが鈍りひるむ。
帯電したバローくんの魔法イバラもテリアンコウのヒレをつかみ。
ジャグナーやアヅキもわざと掴んでまとわりつく。
『喰わせろ……力……!』
「アバババ」
痺れながらも無理やり身体が動かされているのかガクガクとしつつこちらに突撃。
大口を開いて私の方に来たから。
「待ってい……たっ!」
ごめんゼロエネミーありがとう!
ゼロエネミーを手元にもどすと同時に私自身がくるりと回って尾で跳ね飛ばす。
事前にゼロエネミーがやれるって意思を伝えてきてくれたけれどこれはやりたくなかったなあ!
ゼロエネミーは私のお願い通り回転しながらまっすぐに突っ込んでいく。
口の中へと飛び込んで……
思わずなのかテリアンコウは口を閉じる。
「うっ……」
「よし、行っちゃえ!」
「いだだだだぁーー!」
『力……飲み込……グッ!?』
長剣ゼロエネミーが投じられた先はもちろん根本。
膨らんでいる接続部をまるごと……
斬る。斬る。斬る!
そうこの感じだ。
ちゃんと斬れる!
もちろん頑丈で一太刀ではいけないが……
なんどもなんども重ねればいいだけだ!
「暴れるな!」
「うおっ……と危ない、今は吹き飛ばされてはやらんぞ!」
「ううう……魔力をここで使い果たします!」
「私も! やあぁ!」
私含め全員が帯電させた部分でひたすらつかみ続ける。
感電し吐き出すにも噛み飲むにも困難にさせ……
そのまま押し込んでしまえ!
ゼロエネミー! 斬っちゃえ!
「「やああぁ!!」」
[来る]
ここちよいほどの斬撃音。
そして唐突に唸りだすテリアンコウ。
さらには。
『力、飲み込む、ガアアア!?』
ミフソホ槍が念話で叫ぶ。
テリアンコウの口から2肉の紐が出てきて……
次々爆発するようにくだけていく。
そしてついには。
ミフソホ槍が纏う肉は無くなった!
その全身はまさに見るものを灼くほどの神々しさを感じる。
それはいっそのこと禍々しいと同一なのかもしれない。
神力でみんなが守られていて良かった。
『力、力を……力を寄越せ……』
「ぐえっ」
一方テリアンコウは口からゼロエネミーを吐き出したと思ったらどんどん縮んでゆき。
あの巨大さは消え失せ海のほうまで衝撃でふっとび……
気絶して浮いた。
槍を飲み込めるかもしれないけれど思ったよりはだいぶ小さい魔物だったんだ……
ミフソホ槍は危険な彷徨い方をしているがあとはフォウに任せよう。




