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百十六生目 実力

 "私"は当然囲まれれば危険になる。

 インカとハックが引き受けている2匹をのぞいて残り9匹。

 幸い私の派手な動きで攻撃が集中しているのでインカとハックへの援護は必要なさそうだ。


 飛びかかってくるドルイコたちを"影避け"を自身のいる場所の印象ずらしに使ってギリギリで回避していく。

 かすり傷は増えるが自身の血と痛みは戦いが盛り上がるのに不可欠だ。

 ……おっと、自動言語学習が終わってドルイコの言葉がわかるようになったぞ。


「ヤバイぞアイツ!」

「動きまわらせるな! 危ない!」

「おっかねぇ、おっかねぇ」


 どうやら"私"を最大限警戒していてくれるらしい。

 好都合!

 このまま速くない速度で走り抜ける!


 相手の攻撃を避けつつジグザグに相手の横を駆ける。

 適当に身体をひねったり針の角度を変えてわざと少ない傷を相手へ与えていく。

 1、2……3と。

 このぐらいやれば良いかな。


「くっ、やられた!」

「大丈夫だ! 囲めば勝てる!」

「追い回せ! しつこく追い回せば必ずへばる!」


 うんうん、とても正しい判断だ。

 だがそれは誘導された考えなんだ。

 こっちも基本は群れで狩りするからごめんね騙して。

 なんてね。


 インカとハックたちを横目で見つつ走り抜ける。

 うん、あちらは有利に戦っている。

 一方"私"は未だ9匹に追われている。

 これは事実上不利だ。

 いくら"私"でも囲まれて起き攻めされたらなぶり殺される。


 ただ散々走ったおかげで兄弟たちと距離が取れたしドルイコたちは私の後ろに束となっている。

 準備は万端。

 オジサンから教えて貰った気配を弱く見せるのはこういう時には便利だ。


 今ドルイコたちからは"私"は『危ないが他の2匹より少し強い程度』に見えているはずだ。

 もしかしたら普段の私も自覚が無く似たような考えかも知れないが"私"はだいたいわかっている。

 今の"私"はかなり強い。


(今さらっと馬鹿にされたような……というかそんなに強いの?)


 やあ普段の私、まあぶっちゃけ強いよ、ミリハリの時より遥かに。

 まあ、だからそろそろ良いかな。

 見ててね。


 私がいかにも疲労してきたかのように足を緩める。

 そのスキをついて回り込んできた。

 私が足を止めざるを得ないように見せかければ周囲を9匹が囲んだ。


「やっと止まったか!」

「油断するな、逃がすな!」

「一斉に唱えろ!」


 彼等が吠えれば魔力反応が私を囲む。

 斜めに土槍を生やして処刑的串刺しにするようだ。

 ただまあ、この魔力じゃあ……


「行け!!」


 ドルイコたちが一斉に叫べば細い土槍が一斉に処刑せんと向かう。

 絶体絶命の"私"、どうする"私"。


 答え。


 次の瞬間に"私"を刺すはずの土槍はその直前で形を失い崩れる。

 ちょっと"防御"で全身をエネルギーの膜で覆っただけでこんなもの。

 衝撃を緩和する程度なんだけれど今の"私"には弱すぎてそよ風のよう。


 ドルイコたちは呆気に取られていた。

 そのスキが命取り。

 "針操作"で私の針は背中から抜けて空へ。


 "止眼"で体感時間を引き伸ばし"鷹目"で上空から相手の正確な配置を確認する。

 うん、ちゃんと9匹いるね。

 "止眼"を解除し体感時間が戻る。

 スキル反動で少しの頭痛で頭の中はクリーン。


 本来"針操作"は立体的に細かく調整するのは難しい。

 なにせ1本1本を"私"の意志で動かすのだ。

 本来は大雑把に纏めて動かす。


 けれど"言語学者"から効果の1つである高速思考と今の"私"。

 トランスして物理的にも魔法的にも頭の中も変わっているのだからぶっちゃけ単純な処理を多く走らせるのは楽。

 細かい針の動き調整もコンピュータ的に言えば単純計算をたくさんやれば制御できる。


 それぞれがどの向きでどの角度で飛ぶか計算された針たちの数はまさに千!

 飛来する針たちにドルイコたちが気づいた時にはもう遅い。

 囲まれていたのはお前たちだ。

 まあようは、たくさんロックオン出来てこうなる。


千本針(マルチミサイル)供養(ニードル)


 針たちは気づいた瞬間に彼等に降り注ぐ。

 それぞれの個体に同じ数だけ1つも外れずに刺さってゆく。

 悲鳴すらまともに許されず針に蹂躙され血だけがその惨劇を語る。


 そうして針かドルイコかわからなくなった頃に攻撃は止んだ。

 ……まあ知っての通りオーバーな火力だから"峰打ち"で死んではないよ。

 死んでないだけだけど。


 針たちは当然"私"から抜いた段階で背中に戻す術はないので"針操作"で引き抜いて処分。

 "ヒーリング"と"無敵"しつつじゃないと失血死しそうだからそこは慎重に。

 普段ならいつもの私に丸投げするところだが今は"私"がやる。


 何せ最近まともに血浴びしていない気がしてね。

 ちゃんと心臓動いている状態で引き抜けば血が出るじゃん?

 ヒーリングで止まるまでの間でも十分飲めるんだよね。


 甘美に酔わせる果物も良いけれど本能の奥を刺激し酔わせる血も良い。

 喉と身体を伝うさわやかフレッシュ! な熱いドロドロの刺激。

 これが9匹分だから他には任せられない。





 そうして最初に倒したドルイコの血も舐め取りつつ癒やして終了。

 インカとハックも無事抑えこみ勝っていた。

 よーし、交代!



 うわっ!?

 突然だな!

 ゲホッゴホッマズッ!

 私の体を使って血みどろにしやがって"私"め!


 くっ、返事がないと私が完全にひとり芝居じゃないか。

 元々そんなようなものなのに!

 くっそう近くの川で洗おう。


「インカ兄さん! ハック! 後で怪我は治すからちょっと体洗ってくる!」

「わかったーお姉ちゃんさすがに強いねー!」

「いってらー!」


 ささっと走って行き川で身を清める。

 口の中もすすいでやっとすっきりした。

 ふぅー、さっぱりさっぱり。


 それにしてもあれが今の私の実力……

 あの数をものともせずにあっという間に倒してしまった。


 じ、実感ねー!

 なんというかより"私"任せになっているせいか実感まるでない。

 小突けば人は死ぬくらい今強いかもしれない。

 気をつけよう。


 川から戻ってインカとハックを癒やす。

 それからインカたちが倒したドルイコ2匹に"ヒーリング"と"無敵"をかける。

 これで全員の戦力はそげただろう。


 今は彼等が気絶から目を覚ます時間を待つ必要もない。

 さっさと行こう。


「あら、終わったのね」


 ユウレンが乗れる鳥骸骨にのって近くへ来た。


「あら、誰も殺さなかったのね。ゾンビでもつくろうと思ったのだけれど」

「やらなくていいから」

「それにしても妹、さっきのめちゃくちゃ強かったな!」

「インカ兄さんもハックもおつかれ、ふたりとも強いから安心して任せれたよ」

「えへへ、足引っ張ってないのなら良かったよー!」


 ハックが喜び尾を振った。

 そうして私たちは再び夜の闇へと紛れた。

 ……何か視線を感じた気がするがその場の相手は全員倒したから大丈夫だろう。


 走って走って魔物に遭遇。

 再び倒して走る。

 外の世界は確かに魔物が少ないものの道からそれた所ではなかなか遭遇(エンカウント)率が高い。

 気配を撒き散らさないように動いているものの夜に活動する魔物たちもそこそこいるようだ。


 まあそれでも最初のドルイコたちのようにそこまで苦労せずに倒せた。

 間違いなく私は強くなっているらしい。

 "私"が久々にうっぷん晴らすかのように血浴びしなければもっと快適な旅なのだけれど。


 流石に半日走れば魔物たちと何度も戦う。

 それでも問題はなくついに日がのぼりだす頃に遠くに町が見えるところまでやってこれたのだった。

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