百十五生目 夜狩
「じゃあ一旦少ない数で町へ向かって残りはここらへんの調査や森で食糧調達……かな?」
「簡易キャンプをつくるのね」
「うん、じゃあ班分けしよう」
ということでざっくり別れる。
ユウレンと共に行くのは私とハックとインカ。
移動速度と小ささから有利だと判断した。
実力も申し分ない。
「主が戻られるまでにココらへんは掌握しておきますゆえ、ぜひご安心ください」
「掌握……? う、うん」
「俺は森で飯を狩りまくるか。なあに元気になれば、いくらでも戦を仕掛けれるというもんよ」
腹が減っては戦は出来ぬという前世のことわざを地で行く熊や情報収集がわかっているのか少し不安なアヅキはいるもののなんとかなりそうだ。
とりあえず今日はみんなでざっくりとこの付近を簡易キャンプにした。
周囲に凶暴な魔物の縄張り反応はなし。
熊がお守りと言って木に爪痕をつけまくっていた。
マーキングだ……
少し木を頂戴し私が火魔法で着火。
これを消さないように雨が降っても無事な位置にも配置して葉やら草やらかき集めそれぞれの簡易ベッドも作れた。
ニンゲンと違い魔物でも前世の獣のようにあまり活動時間は長くない。
寝られる場所ちょう大事。
トランスしてから私は少しは緩和されたもののやはり眠いものはねむい。
それにここの場の空気、明らかに春真っ只中だ。
やはり森とは季節も少しずれているようだ。
春眠暁を覚えず……
魔法のバッグで持ち運んでいたマイ調理土器で手持ちの食糧と森の迷宮にいたウサギやら亀やらを戻って狩ってきて料理の準備。
とにかく食事量が多い!
ドラーグもだが熊がこれでもかと食べるから食材調達に時間が必要だった。
いやまあそうとは言っても熊自体が狩り慣れしている。
なのでちゃんと狩りさえしてくれれば……戦い癖で正面から殴りにいかなければ時間がかからないのに、とは思った。
そこは後々改善するとして目が回る忙しさと疲れからの昼寝など挟んでいたらすぐに夕食時。
私やアヅキなど調理慣れしているメンバーたちが動き回ってなんとか食事を完成させありつけれた。
熊はそれをものすごい驚きの目で見ていただけなので彼にも調理を覚えてもらわねば。
「火で傷めつけて……一体、これらは喰えるのか?」
「うーん、私達の味覚に合わせてあるから自信はあまりないけど……どうだろう」
いためつける、の違う漢字な気がしたが私の脳内補正ではこうなってしまった。
『すてあふらい』じゃなく『とぅはーと』だ。
まあそもそもスープだから煮てるのだが。
しばらくは恐るおそるだったが周囲が気にせず食べているのを見て決心して食べる。
一応私が猫舌対策を伝えておいたがそれでも一口で熱そうにしていた。
しかし徐々に多く口に運ぶようになりそのうち器をひっくり返して流しこむ。
「熱い!! が、うまいな!! 変わっているが、いいぞ!!」
よかったと思う間もなくすぐにおかわりしまくったので追加で作るハメになったのはその後の苦労。
おはよーございます、夜です。
必要な睡眠時間は多いですが活動は夜でも構わないのです。
というよりニンゲンに見つからないという点では夜のほうが段違いでやりやすい。
私達ホエハリ系統の目は夜でも十分に光を取り込んでくれる。
ユウレンはアンデット系統の関係で夜のほうが良いという点も良かった。
補正かなにかあるのかな。
というわけで月明かりの中レッツゴーだ。
空を見上げればなんと月が1つしかない。
森の迷宮内では月が2つだったが外は違うらしい。
シングルムーンは少しさみしいな。
ユウレンは乗れる鳥型の骸骨を魔法で作ってまたがった。
これで速度は大丈夫なはずだ。
「それじゃあ道からはそれつつ私の家を目指すわよ。
ああそれと、私はあんまり戦闘が得意じゃあないから魔物に襲われたらよろしくね」
「え、そうなの?」
「私冒険者じゃないもの。身を守る程度しかできないわよ」
そういえばユウレン自体が剣とか杖とか持って魔法を放って戦っている姿は一度も見たことがない。
あくまで後方サポートにしか期待出来ないか。
平原とはいえニンゲンが作った道から逸れれば森林やら起伏やらが主張してくる。
ただまあ森の中と比べればとても走りやすいのは間違いない。
だからこそこちらの見つかりやすさも大きいわけで……
「魔物だ!」
「任せたわよ」
「任せられたー!」
インカとハックが前へ出る。
私も前へ出て様子を伺う。
"観察"!
[ドルイコLv.15]
[ドルイコ 常に群れで行動し1体1体の力の弱さを補う。尾は相手に射し込んで吸血を行ったりする]
頭痛と共に自動言語学習が始まる。
狂犬病とかにはかかってなさそう。
哺乳類ならなんでもかかるから怖い。
そういう奴を見かけた時は全力で逃げねば。
魔物って哺乳類なのかはわからないけれど。
見ためは狼を小さくして犬で割った感じだ。
ただ全体的にみずぼらしく飢えていて栄養状態は悪いらしい。
魔物としての特徴は尾が触手みたいになっていて先が蛇かなにかの牙みたいだ。
"観察"どおりなら吸血を行うためのものだろう。
それが数はざっと10。
いや、隠れているのがさらに2。
"鷹目"と"透視"を舐めてはいけない。
ただ12もいると数の暴力か……
「突っ込まないで、隠れている奴が囲んで叩くつもりだ」
「わかった、じゃあこれで!」
ハックが先手を打って風魔法を放つ!
小さな竜巻が周囲を切り裂きながら巻き上げる。
蛇行しながら進む竜巻に草むらに伏せていたやつらが避け遅れて毛皮が裂け血が噴く。
(おお、いいね。やりすぎなきゃ良いんだよね?)
あ、"私"が話しかけてきた。
こういう追い払うための戦いは"私"のほうが好都合か。
3種類の魔法の魔力を混合し、この身に纏わせる。
進化!!
……あれ?
確かに魔力は纏った。
ドルイコたちがビビるほどの圧力を放っている。
けれど私の姿は変わっていない?
(うーん多分だけれど、3つの魔力でなれるミリハリじゃあ今よりも弱いんだと思う。まあ良いや、とりあえず代わってよ)
え、そうなのか……
ってどうやって代われば良いんだろう。
(深呼吸とリラックス、そんでイメージ状で交代って思えば多分大丈夫)
うーんやってみるしかわからないって事かぁ。
正直思考回路は同じ脳だから互いに分かる範囲はほぼ共有されちゃうからわかってしまう。
まあ良いや、とりあえず。
ふー、すー、ふー……
さあて……
交代!(交代!)
よし来た。
背中から全ての針を出す。
"私"久々にオンステージ!
(うわ、私は針なんて出していない……あれ、これはもしかして)
よっす私!
無事に交代できたよー。
まあささっと血を浴びてくる!
伏兵をあぶり出したからインカとハックは接近戦を仕掛けている。
確実に防いでスキを叩き込むハックと先に殴り込んで怯んだスキにさらに叩くインカ。
どうやら1対1なら十分戦えていそうだ。
ならば私は囲もうとしてくる戦力を叩くまで。
遊撃だ。
ドルイコは私に土魔法を放ってきた。
"Eスピア"だ。
地面から土槍が出るのだが……反応の隠蔽が雑で"私"の"魔感"でどこに放つか丸見え。
遅い、脆い、小さい!
私が軽々ステップを刻めば遅れて見当違いな場所から土槍が飛び出す。
数撃っても頭を使わねば当たらないのだ。
"私"は針の向きを調整しつつ1匹目の横を走り抜ける。
それだけで横向きに倒れた針が無数に相手を引き裂いた。
白色に近い針たちがギュッと血を吸う感覚はとても気持ちがいい。
派手に出血したが生きてはいるな。
まあ悲鳴を上げ続けていて倒れているあたりもう戦力にはならないだろう。
まずは1匹やり。