百生目 闘走
ボンッシュという深海魚の奇襲を受けた!
「カカカカ、ちょうど暇してたんだ! 食ってやる!」
「このっ……! こっちは暇じゃねえっての!」
「やめてくださいー!」
「お? お? 言葉がわかるのか? なら丁度いい、悲鳴を聞かせてくれ……カカカカ!」
受信機による翻訳も行われるようになったが……うん。
腹がたつだけだな!
"無敵"が通るには向こうが元気すぎるしこっちとの距離が遠すぎる。
ただ向こうは手を緩めない。
また上下突き出した骨の部分に光をまとうと……
今度は体の振りと共に斬撃を飛ばしてきた!
「「ぐあっ!?」」
きっちり全体的なヒットを狙ってくるな……!
かなり速く明らかに翻弄されている。
こちらが良い位置についてみんなが狙いそうになったら素早く別の場所に移動して斬りつける。
とにかくうまい……
当たり前だけどこれほどまでに地の利が不利ということをまざまざ見せつけられている。
「ああ、クソッ! 直接殴らせろ!」
「当たれっ! ……避けられた!?」
[気持ち悪くなってきてしまった]
ジャグナーは少しの遠隔技しかないし……
バローくんは草魔法である種の爆弾を放ってもまるで間に合っていない。
魔王は酔っているし戦力にはなっていない。
アヅキは狙ってはいるものの攻撃を取りやめることを繰り返している。
私は念力に忙しくタイミングがつかめない。
このままだとどれかの箱が壊れてしまう!
(こうなったら!)
ドライの案に賭けるしかない……か!
イバラを伸ばす!
箱はあくまで"シールド"だから意識さえすれば無事中からイバラを出せる。
「ッ!」
しかし伸ばしたところで……水圧で潰されてひしゃげていく。
痛くはないが……動きが……!
「ひええ、あんなふうに……!」
「カカカカ、惨めな姿……ん? このニオイ! やばいものだな! その手には乗るか!」
ボンッシュが水の中のにおいを嗅ぎ取る。
おそらく気づいたのだろう。
私のイバラから滲み出る危険な毒に。
しかし……だからこそ素早く向きを変え大きく旋回。
イバラからの毒を避けられるか……!
……
「けど」
「ん? ガッ!?」
「うまくいった!」
水の中で突然ボンッシュの身体が斬れる。
剣ゼロエネミーが水の中に溶け込むように姿があった。
成功だ……!
多くの行動を重ねていたがこれが本命。
特に今のは油断したところにうまく刺さった。
私もゼロエネミーがこの環境で活動できるか不安だったが……
まるで問題なく動けた。
水のような刀身は伊達ではないと。
それっ!
「ぎゃあああ!? お、おばけだー!!」
刃が何重にも振られボンッシュは切り刻まれる。
"無敵""峰打ち"つき!
なのでバラバラになったりはしていない。
フラフラになりながらもほうほうの体で逃げ去る。
良かった……なんとかなったよ。
「ひどい目にあいましたね……」
「みんな大丈夫? 破損状況は?」
[問題はない]
「結構殴られたが、なんとか耐えている」
「水漏れは起こっていません」
「大丈夫そうです!」
よし……ギリギリなところだったが切り抜けたか。
さらに進んでいく。
"シールド"箱の補強ってあんまりできないんだよね……
それならフォウが指し示すところまて素早く行き宝石剣を回収したほうがいい。
やはりというかなんというか魔物たちの妨害はボンッシュにおさまらない。
ゼロエネミーに追い払ってもらうから大事にはならないが……
つつこうとしてきたり食べようとしてきたり。
深海で何も見えないところなのに向こうは自由に動いてくるので厄介。
数が少ないのが救いか。
においもわからないので耳頼り。
とにかく移動距離が長いのでみんなは適度に休みつつ進む。
私も直進するくらいならそこまで集中しなくて済むようになった。
邪魔な地形を避けていくことだけに意識をさこう。
「あ〜、ただ待っているだけなのに疲れるな……」
「そりゃあね、慣れない環境に警戒し続ける必要……多くの感覚が使えない中揺れまくる箱の中……」
「いえいえ、主の操舵技術に文句を言うものなどおりませんよ」
「そこに文句は言ってねえよ!? そうだ、誰か携帯食残りないか?」
「ありますよー、コレってどう渡せば良いんですか?」
「それだったら――」
なんとか雑談ができる程度には余裕がもどってきた。
ただこの余裕は疲弊とのセット。
最悪全員ワープしてあのピヤア基地へと帰れるように頭に入れておかないと……
探索は続く。
この暗闇の向こうへと。
入り組んだ山場の向こうへと。