九十七生目 遺物
私と魔王はただ駆ける。
敵をやりすごし魔物を眠らせ違うエリアを探っていく。
[さっきのはうまくいった。個体の弱点をつくのは苦手だから、助かる]
「前々から思っていたけれど、創造神な割にわからない部分が多くない……?」
[創造神だから全てを把握しているなどほぼない。そもそも複数神で創っていて、仕様は仕様書にまとめられ、常に高度な演算上の結果を使う。多くの自己発展をした世界に、何も力が無く高度な能力を用いないで低レベルな干渉するのは、正直かなりわからないままやっている]
「そ、そうなの……」
[低レベルというのは、力量のことではない。より基礎のということだ]
少しは魔王との交流も出来てきた気がする。
相変わらず話し方は独特だが……
頭を切り替えて話せばわからなくもない。
それに話す時毎度身振り手振りや目の動きが激しい。
今のもウキウキしながら話していた。
楽しそうで何より。
ただここが敵地なのは忘れないようにしないと。
おそらく魔王はレベルの低さがそのまま自身の肉体的能力の低さに直結し……
知識はともかく知能関係も低いはずだ。
別に馬鹿にしているとかではなくこの世界スキルもレベルも低いとどうしてもそうなる。
処理能力の差問題あたりがうまれるのだ。
そこが力を使うさいの差でもある。
私達はいくつかのエリアを駆け抜けて……
より怪しい場所を進んでいく。
彼らのしまっている資料や幹部がどこにいるかを探る。
細かく見るのは後にして有用そうならバンバン回収。
ジャグナーたちもいるから自分たちの方向をどんどん攻略していこう。
おそらくそこまでは広くないはず。
近くまで迫ってきていたニンゲン魔物混同編成な警備兵をいち早く見つけ素早く魔王ごと近くの空き部屋に隠れる。
やっぱりこんなところでも警備は獣型の魔物多いな……
「……うん? この臭い、こんなやついたか……?」
「おいどうしたんだ、急に止まって」
このふたりはもちろん言葉が通じているわけではない。
ひとしきりニオイを嗅いだあと……
私達の方へと来る。
「そっちの部屋か? わかったわかった」
「うーん……気のせいなら良いのだが……」
魔獣側が部屋にたどり着く。
そしてニンゲン側もきて……
ゆっくり見回す。
部屋に入り込んで逆からも。
「おかしいな……」
「どうだ? うまそうなものでもあったのか?」
「怪しいにおい、したんだよ! わかんねえなあ、仕方ねえ、気のせいか……」
やがて彼らは部屋から出ていく。
……私達を残して。
[空魔法の一種だったか。ここまで便利だったとはね]
「ふぅー……息もできないから結構たいへんなんだけれどね。フォウには関係ないけれど」
"ステルス"によって自身の姿を隠蔽しつつ……
イバラで魔王ごと天井に張り付いていてなかなかバレない隠れ身戦術をしていた。
まあバレても優位位置からの奇襲でカタをつけるが。
こんな調子でほとんどのところでやりすごし突破。
魔王もここぞというときに素材を混ぜて道を切り開いてくれる。
いつの間にか行動の息が合うようになっていた。
魔王と息が合うというもの奇妙なものだが……
そもそも魔物の王なのだから結果的に息が合わないというのも変なものか。
ただ……
「……ねえフォウ、結果的にキミは誰の味方なの?」
[質問が要領を得ないな]
「キミは確かに、無理やり呼び出してきた相手たちとは敵対している。フォウとは、そういう存在らしいから。けれど、私たちは私たちで生きるために誰かを傷つけ、勢力を広げているし、ニンゲンたちも争いは絶えない。それぞれの主義主張はあるけれど、フォウは誰と組んで……何がしたいの?」
移動中声を潜めつつ話す。
私の話を聞いて魔王は表情をコロコロと変える。
何か考え込んでいるようだ。
そうして。
[そうだね。伝えておいておくこととしよう。自分は選ばないし、選べない。そう思っておいてほしい]
「それってどういう……」
ときおり見せる真顔に見える時。
それが今だった。
[もはや自分は魔王ではないから。魔王という役職は、旧き時代に捨てられた。それにより敵味方の楔から解き放たれている。言ってしまえば、隠居状態だ。自分は自分の味方だけをする。故に、今個体ローズオーラとともにいて、ピヤア撃退や宝石剣を探し求めている]
「それは……あまり答えという答ではないような」
[絶対のルールはない。前とは違ってだ。そこに天からの裁きはない。言ってしまえば、ただ自分のことは刃だと思ったほうが良い。向けられるにしても向けるにしても、ただ使い手次第だ]
フォウはもはや魔王として戻るつもりはない……ということか。
そして意図して誰かに干渉することも。
剣か……どうとればいいのか。