九十生目 洪水
部屋が沈みかけている!
逃げるが勝ちだ!
とんでもないエリアに来てしまった。
魔法で対処可能なことはともかくとしておそらく完全に喰らったら水圧で死ぬかも。
なにより水中用に今から調整する時間だなんてどれだけあっても足りるかい!
[置いていかないでー]
「ああ、そうだった!」
慌てていて忘れていた。
魔王は足が全然間に合っていない。
レベルの低さがココに来て露骨に!
涙目になりながら訴えかけてくるが全員急いでいたせいで誰かが運ぶことを忘れていたのだ。
間に合えイバラ!
水流に飲まれそうになる魔王の元に一気にとげなしイバラを伸ばし……
そのまま全身離れないように縛る。
よし良いか!? いこう!
せーの!
「やあぁ!」
[溺れるー]
魔王をひっこ抜きながら走る。
少しずつ魔王が水の中から抜け出してきて……
水の上に滑り出した!
よしよしそのまま引っ張り滑らせたまま……
ガンガン走ってあの扉へ!
近づけば勝手に上へ開き私達は飛び込む。
さらにイバラを急いで引き込んで……
扉が閉じる。
「わっ!」
水が一瞬飛んで来た。
みんなを濡らしつつも魔王はなんとか救えたらしい。
扉は水圧に耐えるためかクルクルと回る歯車が見える。
そうして重々しくロックがかかると……
完全に水が止まった。
どうやらこれで水が止まるらしい。
「これ……戻れるのでしょうか……?」
「たしか、ある程度すると排水をするはず。それとは別に水路があるから気をつけなくちゃいけないらしいけれど」
「泳ぎたくはないですね……」
「ですねえ……」
バローくんにアヅキがため息をついた。
確にふたりともあまり水場との相性が良くない。
ねじれ通路では効果的だが青の水場ではあんまり効果的ではないね。
とりあえず今は乾いた通路を渡っていく。
次の部屋に行き……みんなでうわあと感嘆符をもらす。
開いた部屋では高さの違う床たちと浸水してひたひたとしていた。
いやだなーもうこのエリアいやだなー。
水場からのカエルやトカゲみたいな魔物の襲撃……
そもそもの水場だらけですごく動きづらい。
階段を見つけて降ったら閉鎖中だったりもして。
泳げば通れそうな道もいくつもあった。
もちろん浮遊して移動したが。
潜水して行くわけがない。
とにかく建物自体に多く破損が見られあちこちで水が漏れている。
他の建物がこうなっていないのが不思議なくらいだ。
もちろん研究家たちがあれこれ考察はしているが……
おそらくは建物が魔物や思考を誘引しているのでは?
ということ。
つまりはネコが爪を研ぎやすい素材の木材を探すように……
おそらく他の所よりも圧倒的に掘りやすい建物になっているのだろうということ。
まあ理由はどうでもいいよね……
とにかく掘らないでほしい。
そうこうしている間に必死に水場を避け。
なんとか少し降ってから別の建物への扉を見つけた。
泡の回廊を飛び跳ねながら移動するけれど……
「暗いですね……」
「だいぶ深いところまで来たんだなぁ」
[ちょっと疲れたな]
周りの景色は照らされた明かり以外暗闇に包まれている。
あたりは不気味な音が響き渡りたまに明かりを影がちらつく。
かなり暗いから気分にも影が差し出した。
跳ねて移動し終えた先は……
緑の植物園!
今の気分的には当たりだ!
「おっ……!」
「はぁ〜、ひと息つきましたね」
「休もう、もう休もう」
[賛成]
「そうですね。そろそろちゃんとした休息と食事を取りましょう。ほらお前ら、主に甘えるな。手早く設営するぞ」
「へいへい」
アヅキの指示により全員で休む場所の設営が始まる。
材料は私が空魔法"ストレージ"で持っていたり……
最悪アノニマルースからワープしてもってくれば良い。
トンテンカンと建て終えて。
大事な食事も取り終える。
なお魔王は口がないため食べられないが……
[わざわざありがとう。こういうのはすごくありがたい]
「まったく、一口分ずつ分けてくれと食わないくせに言うと思ったら……捧げ物として受け取ると、力になるとはな」
「そういえばフォウさんってどういう魔物なんですか? なんだか変わってはいますけれど」
[ただのしがないゴーレムだよ]
「そうなんですねぇ」
魔王の認識妨害はちゃんと効いていてバローくんも今の話を聞いても何も疑問に思っていない。
そして魔王の前に並ぶ一口分のご飯たち。
何をするでもなく魔王はニコニコ眺めるだけ。
捧げものか……
あれはあれで食事としてひとつの形……なんだろうか。




