八十七生目 反転
魔王と私達は泡の通路で軽く跳ねている。
魔王が剣の位置を感じたらしい。
果たして場所は……
[この下に。そう、ずっと下に感じる。どこまでも深い底から。その、何がどうされてかはわからないけれど、宝石剣か同等の品がある]
「し、下……」
思わず私の顔がひきつる。
何せここからずっと階層が下にあるということは……
深海へと向かわなくてならない。
ココらへんはまだまだ上の部分。
底の方へ行けばまさしく地獄じみた光すら届かない地に行くことへ……
建物の中を主に進むこととなるだろうけれどそれでも……あまりに気がすすまない。
まあでも……だからこそやるけれどね。
奥地への冒険。
特に宝石剣があるならば引く理由はない。
「主、何があっても私が守ります」
「あ、ありがとう……大丈夫、行こう」
アヅキが心配してくれるが前よりは断然大丈夫だ。
泡の通路を抜けて……とにかく今度から下方向へ目指そう。
宝石剣らしき反応があったのはいいことだ。
……ふう。
扉の向こうにたどり着いてやっと海が見えなくなった。
「そうだ、宝石剣か同等の品ってどういうこと? 宝石剣以外にも反応してしまうのかな」
[そうなる。ただ宝石剣と同等の品ということは、魔王の力と同等の価値があるということだから、回収はしたほうが良い]
「そういえば、宝石剣は魔王の力が割れたものなんですってね。宝石剣でもそうでなくても、ワクワクします!」
[同じ気持ちだ]
魔王とバローくんが仲良さそうに手をつなぎ軽く踊っている。
どうやら魔王もかなり楽しんで冒険しているようだ。
それは何よりだが……
そうか……魔王の力と同等の物……
つまり古代神クラスの秘宝。
見つけれ世界の遺産としてアーティファクト認定まったなしだ。
実際のところ宝石剣も今ニンゲン界の裏で価値バク上がりし続けているところらしい。
正直宝石剣の価値が上がりすぎるのはこちらとしてはよろしくないが……
それと同等の品がこれから手にはいるかもと思うもワクワクはする。
下には行きたくないだけだ。
行くけれど。
さてこの建物は……
「ふむ、今度は色ではなく……ねじれているな」
「色は最初にいたところと同じ落ち着いた感じですけれど、目の前の通路重力どうなっているんでしょう……」
「ここ……まさにねじれの館なのかな。うん、聞いた特徴と一致している」
私達の目の前は廊下ではあるが……
その廊下は通常ありえない形でねじれこんでいる。
床と天井が廊下の端同士で180度違うと言えばいいだろうか。
まさに空間ごと絞り雑巾みたいになっているがもはやこれだけで絵になりそうだ。
「ローズ、ここのポイントは?」
「ねじれた廊下は重力ごとねじれているんだけれど、ねじれ廊下から侵入した部屋は、その変わったままの重力になるってことかな」
「……つまり?」
「あ、部屋の天井が床になっちゃうんですね」
「だいたいそうらしいよ」
空間ごと歪む大規模術式……いや違う。
自然的に範囲内空間は曲がってしまうように漂うエネルギーの偏在が起こっている?
ありうるのか? いや……でも理論上はできるのか。
まさにエネルギーが多くなりやすい迷宮ならではの現象。
これは……荒野の迷宮でも利用できるかも。
全員でどんどんと駆けてゆく。
私達はちゃんと床を踏んでいくのに……
まるで景色だけがねじれていく。
「す、すごいです! ぜんぜん変な感じがしないというのが……!」
「もっと体の重みが変わるかと思いきや何もないから、むしろ体勢を崩しそうになるな」
[目が回る]
バローくんやジャグナーそれに魔王の言うとおり。
私達は本当にひたすら真っすぐ進んでいるのに……
いつの間にか天地がひっくり返っていく。
そうして次の部屋にたどり着けば。
「うわっ!? なんだ、置いてあるものが逆さ!? 明かりが下から……」
「本当にすごいね……私たちだけ、逆の世界に生きている」
私たちから見ればまるで天地がひっくり返った部屋。
しかし実際は私達が逆なのだ。
上で歩いている魔物たちからしたらこっちは天井に張り付いているように見えるだろう。
廊下の扉は床側にくっついている。
だいたい広く高い部屋ばかりなここでこのまま入れば天井側との高低差がひどい。
私はともかく魔王あたりは……
「先に行って、道をつくるね」
「おうよ」
ジャグナーも身体がかなり重そうだし。
バローくんや私は飛べるからなんとかなる。
くるりと跳んで下に降り……
イバラをいくつか伸ばして地面につける。
これを衝撃緩和に使って……
ゆっくりと降りた。




