七十九生目 仕上
チョコをコンチングしていく。
この世界流に。
さて魔木の果実だが土の魔力こと私にあてられてすっかりやわからデロデロになった。
これをまずはすりおろしていく。
これはイバラで慎重に。
そんなに量はいらないので余った分は別で食べよう。
そうして出来たすりおろし果実を濾し布につつみ……
ぎゅっと絞る!
出てきた汁こそが求めていたものだ。
この果汁を少しずつ混ぜ込んでいく。
そうして湯煎していれば……
「あっ」
じきにフワッとおいしそうな果物のにおいが広がる。
甘酸っぱい感じのこれが発生すれば大丈夫。
しかもこの匂いはすぐに抜けるので優秀。
どんどんねり混ぜていけばまさに魔法の力でチョコレートのコンチングが出来上がる。
見た目が明らかに美しくなめらかになった。
イバラで混ぜているから感触もわかるが柔らかくかつ水っぽくない。
ここまで来たら残りはわずかだ。
今までは魔法でお湯の温度をはかっていたが今度はチョコに切り替え。
"サモムター"を唱え直す。
数値110だったのを今度は120へと上げていくことになる。
「キトリ、少しだけ火を強めて」
「ピピキッ」
「ああ……ちょっとまって」
キトリから長時間労働の対価を要求された。
こういう時はたしか……
キッチンのここらへんに……あったあった。
キトリ用おやつガスキューブー。
ガスがたくさん中にある不思議なきのみで……
これはキトリが好んで食べる。
そっと差し出すとくちばしらしき部分が開いて素早く食いつく。
すぐ全身に色が広がり……
見るからに元気そうになった。
「ピピピッ!」
「うん、良かった」
喜んでくれたような気がする。
実際火の方を強めてくれた。
よしよし……温度を見つつ……
120! ここだ!
「……ストップ! ありがとう!」
「チチッ」
キトリに火を完全に止めてもらう。
その間も混ぜるのは絶対に止めない。
ここから調温作業に入る。
お湯からチョコレートの入っている器を外す。
とにかくダマを見つけては1つずつ潰していく。
またレシピには空気を混ぜ込まないようにと書いてあったので守る。
今度は温度数値を90まで下げる必要がある。
器の外側を水にひたして下げていく。
それまでは地味に混ぜてはダマを潰す地道な作業。
今までの作業に比べると……意外に好きかも。
こう……とても地味なので落ち着く。
ふう……温度が90まで落ち着いた。
チョコレートがキラキラと輝いている。
栄養素だけじゃなく結構エネルギーも込めているからね。
「ローズー? 茶葉持ってきたわよ」
「ありがとう! どんなの?」
「かなり珍しい大陸向こう側の茶葉よ。それの紅茶ね」
やった! ユウレンが持ってきてくれた紅茶の葉はかなりいい匂い。
これを使えば……
「うん、お金は割り勘ね」
「はーい、精算はこっちでやっとくねー」
「よろしく」
「あら、別に良かったのに。まあいいわね」
ホルヴィロスに支払いは任せ……
ユウレンはちゃんと受け取って去っていく。
まあ私から言ったしね割り勘。
どんどんと固まって来たのか器と直接面している部分がパリパリになってきている。
ええっと……純ココンパウダーをここで入れると。
更に混ぜ込んで粉を溶かす。
イバラの形を裂いて先を薄くする。 刃にはならないように。
つまりヘラだ。
そうして冷えて固まって来た底にくっついているチョコを外しつつ……
グールグール回転させつつ混ぜ込む。 次は反対方向にも。
チョコはしっかり剥がして混ぜて。
温度が90からたくさん下がらないように見つつ手早く。
これで……チョコレートのもとが完成だ!
はぁ……はぁ……
気分だけなら激戦だ。
ただやったかいあって良さそうなのがもうじき出来上がる。
キトリはいつの間にやら飛び立って行ったがもう大丈夫。
ここからやるのはもはやウイニングラン。
つまり型取りだ。
水から上げて用意してある型に流し込む。
型は私が作った陶器で……
事前に剥せるかチェック済み。
というより土の加護による影響でこういうもののほうが扱いやすいんだよね……
下手なことしても道具がカバーしてくれる。
こんなところでミスしたらさすがに泣く。
イバラによる繊細なコントロールでチョコレートを順にわけていく。
そっと流し込み……
それぞれの穴に満タンまで入れれば次へ。
最後まで手も気も抜かずチョコを整える。
次々保冷庫に詰めてゆき……
家のだけでは足りないから仮設保冷庫にも入れていく。
溶けない氷やら魔法氷石やらは本当に便利だ。
もっと価格を安く普及できればなあ……
そうして。
「完成!」
「ローズおめでとう!」
「あ、ありがとう?」
いつの間にやら近くによってきていたホルヴィロスに祝われつつ。
後は冷えるのを待つだけ。