七十八生目 魔具
湯煎しながら混ぜるだけの簡単な作業てす。
ココンバターがちゃんと溶けるようにね……
そう。
どんどんと。
入れていけば。
完成を……
「うわっ!? 何、ええ……? ダマ……? 餡……?」
完成をするはずだった。
何度目かのココンバター投入時少しずつ怪しかった様子が頭角を表してくる。
まるであんこのようなもっと固いようなそして液体のような。
うまくまざらずにバラバラになりそうになる。
とにかく必死に潰し混ぜて。
やるのはこれひとつなのに大変さが上がった。
しばらくやっていると安定はするのだが……
またココンバターを入れだすとバランスが壊れる。
分量通りでもここまで苦労するとは……
本当になんとか入れきれば今度はこれをなめらかにしなくては。
このまま固めれば口触りがひどい。
少し失礼して別イバラで少しだけ取りそこから舐める。
「うわっ……」
これはひどい。
味は落ち着いていないので対象外だがそれ以前に口当たりがひどい。
私が作っているのはチョコじゃなくて魔女の薬だったのか。
もちろんそんなわけにはいかない。
ここからは2つの器と漉し器網を使う。
まあようはとにかくイバラを工夫してすりつぶしつつたまに網で越していくわけだ。
とにかく少しでも温度管理をミスすれば焦げだしたり冷え固まりだす。
細くキトリに指示出しつつ……
移し替える時はその温度に気をつける。
思ったよりも……考えたより遥かに重労働だ。
こんなに面倒なのか……!
私のイバラは工業機械と言えるほどの働きをするのに。
それをもう数えるのも面倒なほどやって。
「ローズ? 良い茶葉でも探しに行かない?」
「おや、ええとユウレンさんだったね」
「あら、どうも丁寧に」
ユウレンの声がしてとことこと歩いてこちらにやってくる。
ユウレンの顔のお面は今日斜めがけしてリボンがしてある。
また全体的に黒っぽいもののキュートさや美しさが見えるリボンタイの使い方をしていた。
「今日みたいな日はいい気分転換になりそうね。アナタは……あなたは何をしているのかしら。何かの毒薬調合?」
「違うよ……チョコを作っているんだ。それと、その服も良いねえ」
「あら、ありがとう。カムラが見てくれたとは言え、ちゃんとした相手に評価もらいたかったの」
完全身内では笑われるか褒められるかみたいなところはあるからねえ……
ユウレンは服を見せびらかすようにポーズをとる。
そういえば完全にオフの格好しているのはユウレンにとっては珍しいか。
「それにしても、何かやっているようじゃあ茶葉探しは無理そうね……まあ、ハックと行ってくるから」
「あ、茶葉だよね! 良いのが手に入ったらわけてくれない?」
「いいわよ、じゃあがんばんなさいな〜」
ユウレンは相変わらず痩せぎすな身体をご機嫌に揺らしながら去っていく。
そうか茶葉か……
それもあるな。
疲れ……
いやまだだ。
ここからコンチングに入る。
味見したところやっと具合が良くなったので滑らかさをだすために練り上げる。
それがコンチング……なのだが。
実はこれを素でやるのは正気ではない。
私のイバラ使ってもだ。
そもそも湯煎している火のキトリがそろそろ帰るかもしれない。
あまり負担はかけたくないしね。
なので裏技を使わせてもらう!
とはいえこの世界の実用的レシピに載っているものだが。
……色々と度を外しているが。
まずは材料追加。
風の魔石いくつかと魔木の実それと高級精錬化ねり飴。
実は全部迷宮や魔物由来素材なのだから結構入手は大変だ。
もちろんこれらは闇市ではなく正式品。
この日のために準備をしておいたのだ。
まずこの魔木の実。
赤く大きく凸凹とした果実でそのままでは硬すぎて色々難しい。
しかし実は土の魔力に反応するととても柔らかくなる。
土魔力自体は私が生きているだけて帯びているので直接触れていれば問題ない。
そして高級精錬化ねり飴は見た目は瓶詰めねり飴だが中身は魔物素材を通して魔法情報を乗せられた……つまり付呪されたねり飴。
加工したい食材に垂らして入れると……
魔力と反応すれば一気に加速してコンチングが進む。
そして相性の良い魔力こそが風の魔力。
風の魔力石をココぞと使う。
サイズは片手で持つ程度ながらビュウビュウと唸る音が聴こえてくる。
チョコにかざしてゆっくり放てば周囲からそして石から風の魔力が集い光と共に巻き込んで行く。
使用時は飛びやすいものを近くに置かないようにしよう!
そうして力が集まってゆき……
淡い光がチョコから発せられる。
無事機能が果たせたようだ!