七十七生目 和式
ジャグナーがやってきた。
ジャグナーも自身をリボンで飾り付けている。
正直全身ゴツくて似合わないのでは……と思ったが意外に違った。
リボン中心ではなく和風風呂敷を多くデコレーション。
蚊帳ふきんみたいな丁寧なものもアクセントで結ばれ……
全身のゴツく荒々しかった岩たちが全体的に優しく包まれていた。
「おお、似合ってるね!」
「良いだろ? 軍にそういうのが得意なやつがいてだな……で、お前はなんでそんな怪しそうな格好なんだ?」
「これは、料理にいろいろ入らないようにだよ」
そりゃあ他者にプレゼントするためだからね。
手や帽子も口元にエプロンも完ぺきだ。
特に私は慣れていないのでやりすぎくらいがちょうど良い。
結果的に格好が怪しくなるのはご愛嬌だ。
「そ、そうか……ところで用事なんだか」
「あ、仕事ならこっちで用件引き受けるよ」
「いや、私用だ」
ホルヴィロスが用件を受けようとするが仕事ではないらしい。
ジャグナーがプライベートっていうのも珍しいな……
「へぇ、一体?」
「作業しながらで良いから聴いてほしいんだが、最近どうも身体がなまってな……平和なのもいいが、そろそろ前線もやってみたい。今度ふたりで迷宮に行かないか?」
「珍しいね、そういう誘いは」
たしかにジャグナーらしい悩みではある。
最近は指揮ばかりなうえその指揮すら軍を警備やら補助にばかり回して実戦が少ない。
だから分かるとは思いつつも……ふたりでとは。
「さすがに単なる俺のわがままに大量のメンバーを巻き込むものでもないと思ってな。だがその点ローズなら巻き込みやすいと思ってな。ま、本当は他の奴らも誘いはしたんだが……」
「断られたと」
「ああ。色々仕事があるからな……」
多分仕事があるからだけじゃあないとは思うけれど。
ジャグナーの訓練がてら迷宮へ突入するということは……
それこそ魔物たちの前に躍り出て向かってくる奴ら片っ端からねじ伏せていくとか道を通らず崖を登っていくとかの荒修行がもう予想される。
軍でも常に厳しく鍛錬し同時に私やニンゲンたちの知識から鍛えるただしいやり方を学んでいる。
どれだけギリギリをついてきてそれについていけるか……
正直普通に私以外嫌がる可能性は跳ね上がる。
インカならいいかなと思うがインカ自体は修行があるしね。
「それで、どうだ」
「いいよ。これが終わってからだけど」
「そうか! で、それは……?」
「おいしいものづくり」
今光る種をすり潰した物と脱脂粉乳と粉糖をだいたい等量ずつ入れる。
とにかく少しずつ。
乗せて混ぜてを同時進行。
ココンバターはまだだ。
ただ常温には戻しておく。
とにかくそれ以外イバラをうまく使いよくかき混ぜていく。
なんか一気に混ぜるとだめになっちゃうらしい。
ここまできてダマになったら分離したりはしたくないー。
うっかりしないように慎重に。
「そ、そうか……におい含めてなんか怪しい実験にしかみえないんだが……まあ良いか。暇なときにまた連絡するぞ」
「わかった」
ジャグナーは去っていく。
とりあえず用事はわかったし……
とにかくイバラ操作に集中しなくっちゃ。
つ……つかれた!
体力的には平気なはずなのにね。
とりあえずチョコにココンバター以外の材料は入れ込んだ。
ここからが面倒ポイントだ……
まずここに用意しますは先程からキトリにあたためてもらっていたお湯。
「チチッ」
そして色々混ぜてたくさん出来ているチョコの原型。
さらに粉々ココンバター。
そして温度計……がほしいがそんなものはない。
あるにはあるんだけれどね……世界的には。
私が手に入れていないんだよね……
代わりに。
「"輝きの知識、世界見定める瞳、熱の量を知覚せよ。サモムター"」
対象はお湯。
魔法を詠唱して発動すれば熱量を測るゲージなようなものが空中に浮かぶ。
生活魔法のひとつでちょっとマイナー。
ええと事前に調べたところオーカの実は……っと。
110の値に留めればいいんだったな。
「キトリ、もう少し低め……そう、そんな感じで」
「チチチッ」
キトリに言って調整しつつ……
今度は温めているお湯のところに慎重にチョコを器ごと入れる。
うっかりお湯を入れると悲惨なことになるためうっかり入らないように器を工夫。
いい感じにチョコの原型があったまったな……というところで。
ココンバター投入。
また少しずつ加えていく。
当然入れれば温度が下がるのでそのたびにちゃんと戻るまで次を控える。
入れれば必死にイバラを使いすりつぶしていく。
もう量も多いしだいぶ重いぞ!
まあさすがにパワー負けはしない。
とにかく混ぜるだけの作業。




