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百十二生目 暴熊

「惜しかったなぁ〜!」

「お姉ちゃんあとちょっとだったのに!」


 朝からインカとハックたちがそういってわいわいと昨日の話をしている。

 父との戦いは終わり際……とんでもなくグダグダになっていた。

 白熱する戦いとは裏腹にあたりは酔っ払いばかり。


 いつのまにかジャッジ役のハート姉もフルーツのにおいにやられて酔ってしまってやれ線を出たの出てないの。

 特殊試合だし引き分けって事で解散となった。

 まあ父と打ち解けあえたのでこれで良いのだ。


 結局出発は朝になったがまあ大差はない。

 それにみんな見送りに来てくれた。

 ……あ、いたいた。


「ハートペアさーん! 頼みたいことが!」

「ん? なんだい?」

「なんでも言ってくれ!」


 ハート兄と姉を見つけて一通りセットを渡す。

 音から守る首飾りはユウレンから許可を貰っている。

 万能翻訳機は市販品。

 これらを渡す。


「実は今後の鶏たちとのやりとりを任せたくて。それで今訓練をしているのですが、こんな感じで……」


 "以心伝心"の思念を使って何をさせているかのデータを送りつつ話す。

 彼等に後釜を頼むつもりだ。

 頼りになるとしたらやはりハートペアだから。


「……という感じでやっていただけないでしょうか? お願いします!」

「うん! わかったよ、まる!」

「任せといて!」

「ありがとうございます!」


 二つ返事で引き受けてくれた。

 ハートペアは元々教えたり子を守ったりする係。

 受けてくれてありがたいが適任だろう。


 そうして再びみんなの元へと戻る。

 インカとハックの兄弟。

 たぬ吉とドラーグという小さなたぬきと大きなドラゴン。

 アヅキという人型ながら大きな烏な私の部下。

 ハックを芸術の先生にしているニンゲンでレヴェナントという半アンデッドなユウレン。

 ここまでデコボコな集まりで私達は今日森の外へ行く。


「さようならー! また帰ってきまーす!」


 歩きつつ私が振り返って声をあげると群れのみんなが吠えて答える。


「いってらっしゃーい!!」


 彼等はもう独自に火を扱えてなおかつこっそりと交流もできる。

 もう何もしなくともうまく回っていけるかも知れない。

 だからこそ今は前を見て進もう。


 森の中から抜けるにはニンゲンの地図であった出入り口らへんに向かったほうが良いらしい。

 母はそう言ってくれたがそのまま突っ切れない理由があるのだろうか。

 それも行ってみれば分かるかもしれない。


 日差しが暖かい。

 まだなんとなく風は冷たいが十分春を迎えたと言えるだろう。

 もう後ろを振り返っても誰の姿も見えない。


 それにこれだけ大所帯だとさすがに魔物たちの気配がない。

 襲えば自分たちがあまりにも不利だとわかっているからだ。

 今は存分にそれを利用させてもらおう。





 ダッシュでとばすわけにもいかずテクテクと話しながら歩く。

 1時間ほど歩くといままでの旅路の平穏がついに破られた。

 目の前の森のかげから亀が横切った。


 前は冬眠していた玉亀だ。

 甲羅を閉じて球形になり高速で斜めにこちらに突っ込んできた。


「む、主!?」

「うわっ!?」


 近寄っていたのはわかっていたけれどいきなり襲ってくるとは思っていなかった。

 何せ今まで近づいてきた反応はすぐに撤退していったし。

 全員なんとか回避。

 尾を出して遠心力で勢いをつけているのか。


 横側に攻撃的な棘刃がついていてかなり危険だ。

 私達の真ん中を突っ切った。

 そうして再びこちらに……


 ……あれ、そのままどこかへ行ってしまった?


「い、今のは?」

「もしかして……」


 インカとハックが目を合わせる。

 あ、うん!?

 遠くから急接近する反応!?

 だとすると……


「何かから逃げていたとか……」

「みんな、何か来る!?」


 ちょっとやそっとの数じゃない。

 森から飛び出してきたのはありとあらゆる魔物たち。

 ドラーグの言うとおり明らかにこれは逃げている。


「うわあああ!?」


 誰とも区別がつかない悲鳴がそこかしこで上がる。

 もはや必死にみんなで何かから逃げる群れを避けるしかなくなった。

 10以上の魔物たちを避けきるとやっと一息つく。


「え、えぇ……」

「……きた、多分次のは追う側」


 たぬ吉がドン引きしている間にも事態は進む。

 走ってくる反応が1つ。

 森のかげから獣道を歩く私達の前に1体の熊がやってきた。


 そうか、この森には熊もいたのか。

 普段は私達と縄張りが被らないし冬は向こうは寝ているから気づかなかった。

 その熊はまあ魔物だからやはり私の知っている熊とは違う。

 爪が赤く輝いて肩からは太いつのが生えている。

 首周りの毛が金色に飾られていてなんとなく凶暴性が高くみえる。


 凶悪な顔は捕食者の顔を思わせる。

 空腹なのか唾液をたらしこちらを見た。


[サンワベアLv.35 異常化攻撃:毒]

[サンワベア 輝く首周りは強さの証。何がなくとも戦いを挑み相手を倒して強くなりたがる]


「げっ、クマ!?」

「知っているの、アヅキ?」

「はい、たびたび私達の群れと小競り合いをして散々戦いを挑んでくる迷惑な奴です」


 森の嫌われ者という感じがビンビンする。

 こちらを見て爪を向けている。

 まだ彼の言葉の自動学習は終わっていない。


「ユウレン、万能翻訳機ではなんて?」

「『獲物よ、俺と戦え』って。なんというか、避けられる気配がないわね」

「も、物凄く強そうなんですが!?」


 ドラーグの言うとおり隠そうともしない気配が強者を物語っている。

 私は逆にオジサンから教えてもらった気配を弱くみせる方法を使って不用意に撒き散らすのはさけているけれど。

 ただどうしよう、今にも襲いかかってきそうだ。


「だいぶ強そうだから私が……」

「いえ、主は下がってください。私が苦しめられてきた相手なので私がどうにかします」

「俺も行く!」

「僕も!」


 アヅキが「む……」と言ったがインカとハックはかなり戦闘を鍛えていていざ実戦をしてみたいのだろう。

 または私に見せたいのか……

 危険になったら下がらせよう。


「大丈夫、私が背後で指示を出す」

「わかりました。では主のご兄弟方、力をお借りします」


 本当は連携が取れないと不安に思っているのはわかる。

 その分私がサポートしなくては。

 熊が現れたあたりから地道に補助魔法を全体化してかけていたがなんとかかけ終わった。


 "鷹目"で視界を戦いが見やすい場所に移動させる。

 アヅキたちが前へでて準備をした。

 ガントレットを嵌めて雷の魔法で剣を呼び出し持った。


 両者は構えてまずはアヅキと熊が正面からぶつかりあった。

 熊の毛皮に雷の剣が当たり電気が走り……走らない!?

 いや僅かに電気は流れたが毛皮に阻まれ拡散されてしまったのか?


 行動力が込められたエネルギーで輝く爪がアヅキを襲うが間一髪手甲で弾く。

 互いに有効打にならずに距離を取る。

 かわりばんこにインカとハックが側面から襲いかかった。


 ハックが風魔法で竜巻を起こしインカが続いて"正拳突き"!

 熊は手のひらにエネルギーを集めて振るうと風圧が生まれインカとハックの魔法を弾き返した!

 あれは強い!


 自動言語学習が終わりをつげて相手の言葉が分かるようになった。

 熊は余裕そうに正面を見据え二足で立ち上がってから爪を構える。


「さあ、どれだけでも来いよ!」

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