七十四生目 服飾
イタ吉と雑談し……
再び買い出しに戻る。
買うのは……あれだ。
今回特別に商会に頼んで運んでもらった品。
プレゼンター・バリンティにふさわしいと私が思う品を……
存分に作ってみたいと思っている。
大きなリボンにハートのマークがあしらわれたニンゲンの店に入る。
中も普段とは違いピンクや赤の布を多めさらにリボンなども多数。
私は並んでいる品を横目で見つつレジに直行。
「いらっしゃい」
「例の品、受け取りにきました」
「お、こいつかい?」
店員にたずねれば奥から出てくる箱の中身。
それは……
早速店員が中身はあっているかのチェックで開く。
「……よし。これだな。この豆であっているのか?」
「うん、ありがとう」
「加工済みオーカの実を欲しがるとは、なかなか物好きだね」
このニンゲンの店員さんは私の事をしらないだろうから余計にね……
オーカの実……この世界でカカオのように利用されている実のひとつ。
プレゼンター・バリンティがバレンタインっぽいからってちょっとチョコづくりに挑戦だ。
帰り際。
他の魔物たちに紛れどこかでみた後ろ姿ふたり組をみかける。
あのふたりだけでいるのを見るのはレアだ。
「おーい! たぬ吉、ハック!」
「あ、ローズさん! 良いリボンですね!」
「お姉ちゃん、似合ってるよー」
草たぬきの魔物たぬ吉と……
私の弟3つ目の獣魔物ハックマナイト。
前にとんでもない神と美術的な対決をして以来の組み合わせだ。
「珍しいね、ふたりが一緒なんて」
「それが、前お姉ちゃんと組んだ後なんだかんだ話が合って〜、それでその後もちょくちょくこうして会うようになったよ〜」
「事務的な話はたまにしていたんですが、プライベートな感覚も良くあったので、今は一緒なことも多いですね」
いつの間にやら仲良くなっている。
良いことだ。
偶然から生まれた仲だ。
ふたりも当然なように飾り付けをしている。
たぬ吉は葉をたくさん蓄えている尾を使い天然のリボン結びをしたり……
頭のツノがラッピングしてある。
ハックは相変わらず他の面々とは一線違いリボンをまとめ包み布を裁断しヒラヒラと全身を飾っている。
アノニマルースでは珍しい靴も履いていておしゃれ。
「お姉ちゃんは何か買って帰り?」
「うん。物を作りたくてね。そっちは?」
「僕たちはまだ見てくるところ〜」
「こんなに賑やかなのはなかなかないから、目移りしちゃいますね。普段手に入らないものもありますから……」
「うん、今日だけのものを集めて、今後の創作活動に活かせないかなって」
「ええ、備蓄しておいたほうがいいものもありそうです」
さすがこのふたり……
普段の仕事に今日の分を活かすつもりだ。
前世と違ってよほどのものでなければ常時店頭に同じ品が並んでいることはないからね。
あれこれ雑談を交わして別れた後……
豆を持って家に帰ってきた。
我が家の中は……
「おかえりローーーズ!」
「テンションすごく高いね……ただいま」
今日は休みにもかかわらずホルヴィロスがいた。
ホルヴィロスは白い毛玉な獣……に見える植物の神。
訳あって私のところに良く分神がやってきたり仕事したりする。
「今日はずっといるね……休みなのに」
「そう、私は本体の方でも休みだから好きなだけここにいられるんだよー!」
「神にもちゃんと休みあるんだ……」
「単に誰も来ていないってだけだけれどね」
なんというかまあ根はそこまで私の業務と変わらないのかな……
そんな事は考ええつつもホルヴィロスの格好をよく見てみる。
ツルをあれこれリボンと絡めつつハートを形作るのを胸前に大きく出している。
あまりにも露骨……
「その……まあ、似合っているよ」
「でしょう!? 私がね、それこそローズのことを繊維から1つずつ選んで編み続け、丁寧にローズへ真心込めて作ったんだよ、良いよね!」
「う、うん……」
相変わらず押しが強い。
好意がまた暴走しないといいけれど……
それはともかく。
私やホルヴィロスによって家の内は飾り付けが済んでいる。
仕事場付近は魔物たちの出入りも多いし私達も楽しみたいからね。
ファンシーな空間を演出できるようにしておいた。
部屋の奥へと歩みキッチンへ。
チョコレートの材料を机上に乗せていく。
そして大事なのが……
「ホルヴィロス、この種でいいんだよね?」
「そうだよー! オーカの実は多くの魔物にとって猛毒だからね、ちゃんと事前に伝えた比率ですりつぶして入れれば、オーカの実を中和出来るよ」
ホルヴィロスが渡してくれた小さな種は発光をしている。
特別にホルヴィロスのくれた種はオーカの実に含まれる毒を中和してくれる。
ちなみにニンゲンたちはこの毒がまったく効かないため素で売ってくれる。
私は……どうなんだろう。
多分今なら効かない気がする。