七十二生目 写真
夜中。
部屋の中に明かり1つ。
もくもくと書類をさばく作業をしている。
アノニマルースと連絡したらきっちり仕事をふってきた。
まあ良いんだけれど。
私の睡眠はコントロール可能だからね。
それはそれとして旅行先にまで仕事を持ち込んでいる気分になる。
仕事でここまで来ているんだけれどね。
まったく……やってもやっても仕事というのはなんで増えるのだろうか。
だろうか……うん?
なんだ!? 何かが高速接近してくる!
開いている窓からそれは飛び込んできて……
「……」
「……!」
その影は私を見ても動じない。
私目当て……!?
しかしなんなんだ。
このにおい……ニンゲン?
影の姿はフードをかぶり全身のシルエットをおぼろげにして……
立ち上がりこちらに向き直る。
顔は私の手元にあった明かりにより照らされた。
やはりニンゲンだ……
「ずっと、機会を待っていた。アノニマルースと聴いたあの時から」
「え……!」
うわ……もしかして冒険者ギルドにいてしかもアノニマルースを聴いてしまっている……?
なんなんだろう……"観察"した結果凄まじく強いわけではないがこの大陸で冒険者ならおかしくないほどだった。
そもそも夜にダイナミックな不法侵入する時点で間違いなく不審者だが。
「お前のことを言いふらす気も、敵対する気もない。ただ聞きに来た」
「何を……? そもそも誰だ……?」
私も立ち上がって警戒態勢済み。
相手は武器を構えていないものの口元まで覆っていてこちらに多くの情報を与える気が最初から無い。
見破って名前はもう手に入れているんだからな!
「誰かなどどうでもいい。どこの所属かも今は関係がない。それよりも大事な事は、お前がどれほど共和国冒険者ギルドの話を信じているか、だ」
「試すような口ぶりだね」
共和国冒険者ギルドをどれだけ信用しているか……か。
確かにいたせりつくせりでこの国の内情も教えてくれて。
だからこそ。
「そうだ。その眼が良い。何事も相手の上っ面だけを見ずに考えを張り巡らそうとする眼。だが同時に、だからこそ警告をする。この国の……この大陸の破壊され再生し積み重なってきた歴史に、深入りをするな。皇国へ戻り、魔王を討伐した名誉で生涯過ごす、それでも個人には有り余るだろう」
「確かに私個人ではあまりあるかもしれないけれど……私自身は小市民にすぎないからね。仕事は続けたいんだよ」
深入りするな……か。
何か困るのか……はたまた。
相手は特別な訓練を受けているのか感情が声に乗っていない。
それににおいも……おそらく私対策に隠されている。
不可思議なにおいがするのみでちゃんとした体臭がしてこない。
「こちらも仕事だ。我々はローズ、ひいてはアノニマルースのファンなのでね。この地はこの地の者たちで解決する。火傷をする前に帰ったほうが良い」
「あっ、ちょっと!」
それだけ言い残すとまた窓から飛び出ていった。
呼び止めようとしたもののもう外。
追うか……?
いややめておこう。
ここはそこそこ高所なのに飛んだということはそういう移動に自信があるからだろうし……
たいていは罠だ。
においもあまり残っていない……
何をするにしても戸締まりをして一旦寝よう。
……うん?
先程彼がいた場所に何か落ちている。
拾い上げると1枚の写真。
それを見て……心臓が跳ねたり
2人が路地裏かどこかで握手している写真だ。
片側はなんとなく若いがあの担当さんに酷似している。
そしてもう片方。
それは私の知っている顔だが馴染んだ顔ではない。
この凶悪そうな笑みはもう見ることがないと思っていた。
作られた存在であるカムラさんの似せられた存在。
「ラキョウ……!」
カエリラスで大事件を引き起こし私達と対峙して死んだ存在。
ラキョウだった。
これは明らかに過去の写真だが……
カエリラスとはピヤアとほぼ同じ組織。
そして彼らは政府側についているという話だった。
これはどういうことなのか……
そもそも加工されたものかもしれない。
ただ私には見分ける技術がない……
こっそり九尾博士に回して研究してもらおう。
そして……
私はどうやらかなりの面倒事に巻き込まれたという自覚ももって。
おはようございます私です。
ホテルを出て冒険者ギルドに来た私はビースターチやフラウとも合流する。
誰とも昨日の事は話さないまま。
一介の冒険者はさすがに大丈夫だろうが……
今日はいないらしい担当さんを含む共和国冒険者ギルド。
果たしてどこまで信用できて何を隠しているのか。
少なくとも不自然に少ないピヤアと宝石剣への情報は怪しいよなあ……
独自に調べるしか無い。




