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七十一生目 調理

 1つの小さな部屋。

 高級なはずの水が潤沢に流れ出し小さな滝のように落とすオブジェのためだけに使われている。

 そうして私達は……1つの机を囲んでいる。


「……なあ、これなんだと思う?」

「さあ……わからない……おいしいけど……ローズは?」

「私はこの土地にきたのが初めてだから余計に……おいしいんだけれど」


 私達3名は驚きながらおっかなびっくり食べたことも飲んだこともないような料理たちを堪能していた。

 私でもちゃんとニンゲンの料理が食べられるほど匂いつけが柔らか。

 多分塩分ひかえめ。


 どこまでもあの担当さんには頭が上がらない。

 多分私の魔物としての味覚傾向すらそれとなく伝えられているのだ。

 そしてもちろんビースターチとフラウだなんてもはや目をまんまるにまるくして手の動きが止まらない。


「おまたせしました、次の料理はおさかなです」

「「は、はい!」」


 ルールや格式不要ということで個室なせいでむしろ高まる緊張。

 つぎに運ばれてきたのは魚料理らしいけれど……

 あ。これはわかった。


 マグマの中を泳いでいた魚だ。

 それが食べやすいようにキレイにカットされ……

 格調高そうな雰囲気で焼かれた魚になっている。


 ただよう薫りがもう高級。

 乗っている皿すら美しい。

 ソースのかけ方さえも調えられた完成された芸術を初めて崩すのが自分という恐ろしさ。


 でも手は止まらない。

 そっと口に運べば……

 ああ。天国!


 なんなんだろう。私が食べているのはマグマを泳いでいた魚なのだろうか。

 それとも夢の中にある味を抽出した贅沢品か。

 ジューシーでなおかつスッキリしていてそれなのに香ばしく舌に優しく包み込まれる……


 この魚がこんなにおいしいのか料理の腕がここまでうまいのか。

 私の食べているのは魚なのか。


「ねえ、これなんだと思う……?」

「わからない……ビースターチは?」

「オレにふられてもうまいことしかわからねえ……」


 似たような会話ばかりが出てきてしまう。

 おいしい……

 上品なうまさと気品ある空間が思考をとろとろにとかしてしまう。


 食事は本当においしいのだけれど。

 そろそろ別の空気も入れないと。


「そういえば……ふたりはホテルの食事ってどうするの?」

「あ……ああ、宿? あっちは大丈夫。1階で自分たちが食う分金を払って適当に食って寝るやつだからな」

「あっちはあっちで良いんだけれどねー、だからといってこっちの料理を味わう機会を蹴るだなんて、そんなことはしないけれど」


 なんとなく赤レンガガラスコップ片手に大はしゃぎしながら机に盛り付けられた肉をかっ食らうふたりや周りを想像できる。

 私も普通はそっちに近いんだけれどね。

 普段からこういう待遇を受けていると思われていそうでなんとなく気まずい。


「本当、すごく美味しいもんねこれ……マグマに泳いでいたやつだよね……」

「あ……そうなんだ。あれこんなに美味しいの……今度からみつけ次第全部捕まえよう……」

「マグマの中にいる魚捕まえる装備、支給以外なかなか手に入らないじゃないか……それに、料理の腕だよ……うちの宿のおカミさんじゃ、ぶつ切りの雑煮になって出てくるぞ」

「それもそうかあ……アタシたちも料理とかできないしなあ……」


 ぶつ切りの雑煮か……

 それはそれで魚の骨や鉄みたいな外皮からうまみが溢れ出て荒々しいうまさになるんだろうなあ……

 なんて考えてしまう。


 もうだめだ。

 思考が料理に持っていかれている。

 私の負けだ色々と……


 そもそも何と戦っているのか。

 単にふたりにそれとなくピヤアに関する噂や朱竜への話。

 それとふたりの話も聞きたいだけなのだが……


「おまたせしました、次は肉料理となっております」

「うわああおいしそう!」

「もう全部おいしいよ……!」


 もうだめだー。おいしい!












 しばらくして。

 結局料理を堪能し自身の汚れを豪華な浴室で洗い流してビースターチやフラウとは別れる。

 フラウから一緒に入ろうと言われたときが1番焦った。


 何せ私が服を着てないといろいろニンゲンではないのがバレるからね。

 なんとかタイミング見計らい私は他の誰もいないときに入った。


 結局話のタイミングは逃してしまったから明日だな……

 彼らは明日も仕事するらしいからね。

 私も合わせよう。


 部屋に帰り荷物を整理して一応気を使って身体は隠しておく。

 ある程度の防護処置があるとは言え結局は物理的に覗かれたらまずいからね。

 ここで獣型系にならないようにしないと。


 あまりここで眠ることはないが拠点として使っていくために生活感は出していかないとね。

 そのためにも今日はここで眠ろう。

 本当に1日で常識がひっくり返るような思いだった……


 私はベッドに腰掛ける。

 あ……良いベッドだこれ。

 "変装"と違って気が抜けたから姿が解けるとかないから楽だ。

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