六十九生目 総長
ムウロスと対峙する。
全身が毛皮に覆われているもののムーのような四足蹄下半身を持ちつつも上半身が追加で生えていて腕もある。
ムーよりも小柄なのにムウロスの放つ力は圧倒的だった。
「……」
「……」
私と相手の間に無言ながら激しいやり取りが行われる。
私とムウロスは距離が何mも離れている。
しかしそれは互いの圧が攻めのやり取りをしているから。
どこからどう攻めるか。
ここから来るだろうからどう防ぐか。
互いの攻め範囲はどこから。
その思考と気配のしのぎあい。
気配での殴り合い。
どこまでが安全かと言えば……この遠い距離までが互いの安全なのだ。
「……何が目的ですか?」
「……どうやらうちの組……その端の端がお世話になったようだな」
「仕掛けたのはそちらですよ」
わずかな言葉のやりとりですらピリピリとひりつく。
互いに場馴れしているせいでその程度では油断も隙もうまれない、
もはやこのまま衝突しか無いのか……?
「先に縄張りに踏み込んだのは、そっちじゃないか」
「そうだね。だからと言って排斥されるようないわれをしたわけじゃないけれど。それとも、大地の傷痕にいる他種族全部排除するの?」
「…………」
眼光が鋭くなった。
ここで怯むな自分。
私が言っていることは間違っていないはずだ。
身構えたまま互いの合間に風が吹きすさぶ。
ムウロスの背後にいるムーたちもあわやという事態を想定してより一層顔が険しくなる。
そして……
「…………」
「……なるほど、他種族にしちゃあ、キモが座っている。悪かったな、うちのもんが他種族に過剰なまでなちょっかいを出して。今、少し食事争いで気が立っているんだ、許してやってくれ」
「「総長!?」」
別に深い謝罪の意を示したわけではなく非常に軽くむしろこちらに許容するよう言い出してきた。
しかし周囲としてはかなり驚いたらしい。
私を無視してムウロスの周りで騒いでいる。
「総長、なめられっぱなしは不味いですぜ!」
「何やってんですか総長」
「いくらなんでも総長〜」
「騒ぐな、他種族にそこまで迷惑かけるんでねえ」
「「へ、へい」」
なんとか……なったかな?
私が少し構えを変えると向こうは槍を縦にして……
地面に突き立てると真ん中から持ち手部分が分かれる。
そして小さかった角へと次々引っ掛けてゆき……
最終的にはまさにその形こそが自然に4つの槍が収まった。
ものすごいいかつい……
「……用はそれだけですか?」
「ああ。元々やり合う気はない。相手が他種族とわかればなおさらな。ただ、良い力だ……そこは気に入った。じゃあな」
「……」
ムウロスはそそくさと群れの中に戻っていくとまたムーの群れが大移動をはじめる。
そして……
やがて完全にいなくなり静かになった。
「……ふう」
「ローズ!」
「ローズ、どうなったんだ!?」
フラウとビースターチも向こう側から出てきた。
きっとムウロスからすれば探知は出来ていただろうけれども相手する意味はなかっただろうからね。
それにフラウたちからは私がムーたちと話していたことは言語の関係でまったくわからなかったはず。
「大丈夫、なんとか何もせず行ってくれたよ。すごく強そうな、ムーと形が違うのもいたけれど」
「ま……まさか……」
「ムウロス!? 本当!? ローズよく生きていたね………! 危なかったあ……」
やはりそこまで言われる認識なのか……
ふたりとも心底驚いたらしくとてもはしゃいでいる。
そこまでの危機を乗り越えた……という実感が今更ながらわいてきた。
「よーしよしよし!」
「アタシたちツイてるね!」
「近場だったのに良い冒険譚ができるな!」
「ローズ、やっぱりあなたと組んで良かったよ!」
「うん……うん!」
その後しばらく3名ではしゃぎながら帰った。
夕焼けの中に飲まれるように。
帰ってきたらまた街の様子が様変わりしていた。
あの短時間で街の雰囲気が変わるほどに建築が進んでいる。
建物は全体的に高くなり範囲も広くそして相変わらず赤い。
この材料は私達が見つけた赤灰なのだからなんだかフィードバックがすぐ見られて楽しい。
赤レンガガラス積みもとにかく素早く上に運んで面に接着をざっと塗りそのまま積んでいくので本当にスピーディー。
一種の職人技だ。
一軒家程度なら数人で1時間あれば出来てしまうのだろうか。
前思った壊れやすそうという感想も年に1回壊れる前提なら理解できる。
陽気な気分で観光をしつつ……
冒険者ギルドへと報告しに帰るのだった。
「ただいまー!」
「ごきげんじゃないかフラウ、何か金灰でも見つかったか?」
「そうじゃないんだけど――」
冒険者ギルドにたむろしている冒険者たちと言葉や食事を交わそう。




