六十八生目 万軍
夕方。
帰路につき大地の裂け目から抜け出す。
めちゃくちゃ新しさに疲れた。
新しさに疲れるのは良い疲労感だ。
情報が多くて脳が疲れているのだからどこか心地よくもある。
帰りも私達3者で軽快に駆け……
……うん?
なんなんだあの大きな土煙。
遠くからこちらに向かってくる……?
「あれって……」
「えっ!? まさか!」
「ムーの群れだぞ! しかも……デカイ!」
"鷹目"で見て……少し血の気が引いた。
灰の積もる土地を駆けるのは……ムーの群れ。
しかしその数明らかに数百ではない。
遥か彼方まで続く土煙。
数千……いや。
万か!?
「早く逃げよう! あんなん無理だって!」
「多分朱竜様の攻撃痕を目指しているだけだから、アタシたちはどこかに隠れられれば……!」
「ええ……っと、あ! あっちへ!」
急いで物陰に隠れることに。
ただもちろん普通の物陰だと行軍により潰される。
比較的平地とは言えココらへんは攻撃の余波かところどころ陸がめくれ上がったり深く刻まれているので……
そのうちのひとつである大きなめくり上がりの裏につくことに。
ようは壁になっていて形がムーたち側に対して三角状にせり上がっているから彼らはココをよほどのことがなければ通ることはない。
私が場所を"鷹目"で見つけすぐに誘導する。
幸い土煙が大きすぎて遠くから見えただけで避難はまにあった。
その集団が近づくだけで騒音が響き。
さらには地を鳴らす蹄が大地を揺らす。
そして燃え上がる炎。
蹄から吹き出る火が集団を1つの塊へと変えていた。
もちろん排煙もすごい。
そして……私達のそばを勢いよく駆けていく。
思わず全員息を殺しこの天災じみた光景が去るのを待つ。
なんというか……これ砂漠の迷宮テテフフによる蝶嵐を思い出すな……!
重機が凄まじい量と勢いよくで何もかもを平にしていくかのようだ。
こんな群れに敵いないだろうな……
「…………」
「…………」
「……? あれ、止まった……?」
しかし。
何故か群れの途中で勢いの良い行進が止まる。
何があった?
"鷹目"で覗いてみると群れの中から1つの姿がテクテクと別方向へと歩んでいく。
というより……こちらの壁を回り込むように歩いていないか。
まさにこちらへ向かっているかのような。
その少しムーたちに比べれば小さな体躯が群れの中から……
完全に外へと出た。
それはまるでムーのケンタウロス。
小さいながらムーのように立派な4足の体躯を持ちつつもその上からさらに体が伸びている。
腕も持ち顔はムーの顔つきとほぼ同じながらその頭部のツノは前ではなく外側に向かうように伸びていてやや小柄。
全身を覆う毛皮はムーよりも明らかに強固そうでそして……腕には2対の槍。
前と後ろに伸びている槍でその真中が持ち手。
ソレを両手に2本。
しかしあれは槍というか……まるでムーのツノをより凶悪な武器にしたてあげたかのようだ。
か……"観察"。
[ムウロス Lv.72 比較:強い 異常化攻撃:怯み 危険行動:激走の槍]
[ムウロス 巨大なムーたちの群れを率いるトップでトランス体。ムーたちは強さと統率力に引かれ厳しい大地でも群れを崩すことがない]
これが……ムーのトランス体!
槍を含めずこの戦力なのか!?
これはまずい。
「くる……」
「……え、ムーが?」
「もっとまずいのが来る……」
私が息を殺して言いフラウがたずねそして返す。
このやり取りだけで空気感に異常な緊張感が流れる。
ダメだな……このままでは全員殺される。
私はかがんだ体勢からそっと立ち上がる。
そして……歩きだした。
「ローズ?」「ローズ危ない……!」
「2人は隠れてて。なんとかしてくる」
ふたりの動きを制してあえて私だけ気配を出す。
普段は弱く見せる程度に抑えているのを……
少しずつ解放しつつ歩く音も鳴らす。
「くっ……!」
「ローズ……」
なんとか……話が通れば良いのだが。
壁の向こう側へと歩んでゆけば。
その姿がすぐに直接相まみえる。
全身から立ち上る圧倒的な力……
強さの圧力。
槍を構えるでもなくただ持ってこちらを見てくるだけで気圧されそう。
これがムウロス!
「ただ者ではないな。そもそもそのにおい……別大陸から来た魔物か……」
「さらに言えば、話もできますよ」
「ほほう」
つぶやきを拾ったらなんとか興味は引けたか。
ゼロエネミーにはあえて手をかけない。
もう彼と戦うとしたら……私が手に持つことはないからだ。
緊張の間が流れる。
彼が何をしにきてどうしたいのかがわからないから訪ねたいが……
動けない。