六十五生目 爆風
燃えている木と燃えなさそうな木が殴り合っていた。
え……"観察"。
[エンマカリLv.30]
[エンマカリ 全身で大量の油を生成していて常にまとっている植物。空から舞う灰で常に燃え続け、雨が降るとおとなしくなる]
[セコスイLV.30]
[セコスイ 全身に大量の水を保有しており常に水を求め移動する植物。炎を感知すると近寄り鎮火させるのは、自身の種が火に弱いからだ]
大木同士が殴り合っている……
そもそもなんで片方の植物燃えているんだ。
しかも殴り合いとはいったが。
「あれね、燃えているほうの木が燃えてない方の木の水を欲しがっているし、燃えていない方は燃えている木を水で消したがっているの」
「あれのせいで煙がすごいのなんのって! どっちかが倒れるまでやるんだよ」
「へぇー……めちゃくちゃだ……」
殴り合いというのは本来高速で拳をぶつけ合い防いだり避けたりするものだ。
しかしあれはなんなのだろうか。
形としては殴り合っているが……
めちゃくちゃ遅い。
あと腕はないので互いの枝と葉を重ねている。
セコスイが枝の葉をエンカマリの燃えている葉に押し付けてものすごい水蒸気と不燃気味な煙が出ている。
エンカマリはエンカマリで燃える葉をセコスイの幹にグリグリと……まあほとんど動いていないが押し当ててて水を排出させ吸い取りつつも蒸発している。
で……その姿勢から変わるのにさっきから何分かける気だろうと思っている。
確かに動いてはいるんだけれど私たちが近く歩いてもまるで平気なくらい遅い。
多分そのうち枝を片側引いてもう片側押すんだろうな……
そんな木魔物たちがあっちこっちで生えていて光景だけは恐ろしい。
動きだけ見ているとなんだかシュール。
そして発生煙量を見ると……迷惑。
もちろん彼らだけではなくあっちこっちで煙の原因である炎やマグマそれに灰はあるのだが。
さて赤灰はどこにあるのか……
「意外に……こうやって下まで来てみても赤灰は見つからないものなんですね」
「地形的な問題や煙なんかで視界が悪いからね。まあだからこそオレら冒険者がくいっぱぐれないわけだけど」
「一度見つけたら近くにたくさんあるからねー!」
おっと……話をしていたら。
"鷹目"に"見透す眼"それと"千里眼"の駆使で見つけた。
少し向こうの大木たちが絡み合って……まあ殴り合っている先にそれがある。
さて……不自然にならず誘導するにどうするか。
「じゃあ……ふたりとも、少し私の冒険者としてのカンを試してみます?」
「おっ! いいねぇ!」
「へぇ、オレは乗るぜ! ランクTの実力見せてくれ!」
ふたりともいい笑顔。
よし不自然じゃない!
「よし……やろう」
ちょっと気合を入れ直してみたりして。
肩を動かしてほぐし腕と足をよく伸ばして……
ついでに何かをしているかのような動きもいれつつ。
さっき見た場所はあそこだな……
目安をつけさっきまで進んでいた方向と道を変えた。
赤の灰はこの先だ。
「えっ!? そっちに近づくのは……」
「うわ、勇気あるな……ついていかないと」
うん?
大木たちが殴り合ってはいるし水やら炎やら煙やら凄いけれど何か言われるほどだったかな。
「え? 何が……うわっ!」
「あ、間に合わなかったか……」
突如木たちからものすごい風が私に向かって吹きすさぶ!
というよりほぼ爆風。
当然大量に積もっている黒灰や……
たくさん出ている煙なんかも私に叩きつけられる。
ぶえっぷ……
こうなると物理的に息が出来ない。
ただ風はすぐに止む。
"鷹目"で見てみたら大量の水と炎が大量のエネルギーと共に大木付近に新たに落ちていた。
エネルギー過多型水蒸気爆発とは……
熱量が高いしほぼ攻撃と同等のエネルギーだから火魔力を無効にできてなくちゃ危なかったかもしれない。
……私を"鷹目"で見てみる。
ついでに振り返ってみる。
「あ、アハハハ!! ろ、ローズ!」
「すごい顔してんな! ハハハ!」
こんにちは灰まみれ煙汚れまみれローズです。
ひどい目にあった!
全身を振るって灰や汚れを落とす。
「まさかこんなことしてくるだなんて!」
「あ、そこにいるとまた……」
「おっと!」
威力もそうだがもしやこれは意図した攻撃か!
正確にはほぼ反射行動に近いだろうが。
予想通りと言わんばかりにまた水の塊や炎の塊が落ちてくる。
コレ自体も確かに強い反撃だろう。
しかしこれらが合わさり急激に過反応が起きれば……
エネルギー同士の衝突と水と炎という衝突で爆発が起きる!
ゼロエネミー!
抜いて盾化展開!
水のようなシールドながら恐ろしく強固な守りは爆風を通さず圧力そのものは私が耐えられる。
よし……今度は灰かぶりにならずにすんだ。




