六十四生目 投影
ムーを倒したので移動することに。
なお大体倒したものの……
生命力はモリモリ治っていく。
そもそもこの地域が凄いエネルギーに満ちている。
迷宮よりも濃く……ついでに激しい。
ムーたちは何らかの方法でそのエネルギーを内側に取り込み……
緊急的に肉体を治している。
ただそのせいで気概もやたら激しいみたいだ。
当然また絡まれたら困る。
"無敵"したもののどこまで通るかわからないし。
というかすごい荒かったしなあ……
他の魔物もあんな感じで荒かったらやだなあ。
ということで。
私達3人は移動してちょうど洞穴になっている部分に入り込んでいた。
ただ……洞穴を半分に切り取ったような形だが。
つまり少し先の下を見れば崖で上を見たら天井がある。
この大地の傷跡自体えぐれた形のせいで隙間にこういう形状の土地がある。
眺めはいいがほとんど煙で覆われているけどね……
ここから"見透す眼"で見るにうろつくムーの群れ以外に火を吐くトカゲや火をものともしない岩をまとう魔獣なんかも。
外界なのに完全に環境が迷宮だあ……
「助かりました、こういう場所があるだなんて」
「ま、そこはこの地で先輩のオレらが張り切らないとな」
「見つけたのはアタシだけどねー」
「コンマ差だろ! おっとそうだ、この後の道をチェックしとかないとな」
フラウがビースターチをツンとつついてからかう。
ビースターチは振り払ったあと何らかの魔法を唱えつつカバンから何かスクロールを取り出す。
魔法が発動すると一瞬薄い膜のような黒い光が周囲に広がる。
そのあとすぐに何事もなかったかのように消えたが……
つぎにスクロールが発動してじわじわと何かの絵が浮かんでくる。
「どう? そろそろ現像できる?」
「もう少し……」
フラウが覗き込んだので私も覗き込む。
じわじわと浮かんでいるのは白黒の絵。
しかも目の前に広がる光景だ。
まるで写真のようだがその中身は……
"見透す眼"で見た時の煙を越えた景色が浮き出ているかのようだ。
これすごいな……
やがて絵が完全に浮き出て力を込めていたビースターチは大きく息をつく。
深呼吸して息を整えている間にフラウが横からとって近くで見る。
「そうだねえ……ここは……道のりはこっちから行ったほうが良いね。直進したいけれど道が途中から無くて、大変だから」
「おおー、これはすごいですね。道が浮き出ている」
白黒の中で陰影がはっきりして魔物たちや道が良く見える。
ちゃんと通れそうな足場をフラウがしっかりと道筋つけて。
巡回しつつ下へ向かえる道を書いてくれた。
これなら問題なく通れそう。
「ビースターチ、もう少し休憩していく?」
「ッスゥー……いや、エネルギー自体はさっきのムーからもらってるし、もう動けるさ」
「んじゃ行こっか」
ビースターチは立ち上がり土を払う。
とりあえずどんどん進んで行こう。
「そういえば、ローズって戦闘中とそうでないときと雰囲気変わるよな」
「えっえ? そうかな……?」
「わかる、なんか戦闘中はすごい圧を感じるよね」
「あはは……真剣だからかな、たまに、言われます」
ドライのこと説明するのは大変だから……
道中はわりと楽ではあった。
道はさっき出来た地図を参考にふたりが次々進んでくれたし……
魔物たちはそこらへんの迷宮より強いもののふたりがかなり強いし剣ゼロエネミー相手ではだいたい負けない。
たまに変質した土壌があるからそれを掘ると鉱石が見つかることも。
未だ白灰と黒灰ばかりだが基本的に朱灰は下にあるらしい。
こういうのをじっくり探索するのは楽しい時間だ。
景色自体はひどい煙とガスだけれどフラウの武技で呼吸系統は守られている。
ならばこういうところも観光地に様変わり。
大地の傷痕をこうして踏みしめる機会など他の大陸では味わえないだろうし。
今だあちこちにマグマが流れているためそれを避けるのは結構気を使う。
中で泳いでいる魚はなんなんだろう。
岩が溶けているものよりも重く岩が溶けるほど熱いもので生息するってもはや生物なのだろうか。
それはともかくとして熱せられた足場なんかも出来る限りは避けつつ。
たまに駆け抜けたりはして。
やっと煙の下とも言える……地の底までやってこれた。
ここは煙の発生源たちがいて同時に広く土地があるためあれこれと魔物たちが闊歩する場所でもある。
当然のように灰や集まるエネルギーを糧にする魔物が集まるのはすごい光景。
なにせ灰や火をもりもり食べているし。
何より。
「なに……あの……なに……?」
「あー、そうか、ローズは初めて見るっけ」
なんか燃えている広葉樹と岩みたいに頑強そうな針葉樹が殴り合っているんだけれど……?