六十三生目 勝利
ムーの群れを倒した。
ただ私自身実際無傷からは程遠い。
めちゃくちゃ殴られたし突かれたし焼かれた。
(毒の自己転換を止めたぞ。自然回復もありすぎるとますます化け物見る目されるだろう)
あーやっぱりそうなるかなドライ。
ドライから身体操作権利を返してもらえた。
実際は専有化していたのを共有化しただけなんだけれど。
確かに私はあちこち傷があるが。
他の面々に比べればまるで転んだかのようなくらいなのだが。
「ローズ、本当に大丈夫? さっき全身に炎が……」
「いやあ、痛いよ。たださすがにふたりの方が優先だね」
「まさかここまで凄いやつが外大陸から来るだなんて……凄いな」
正直ほうっておけばこのぐらいの生命力減なら治りそう……
行動力もまるで問題ない。
前衛職ってもともとそんなに行動力使わないんだよね。
「あの服……もしかしてとんでもない能力を持っているんじゃあ……」
「え、鎧より?」
「自慢の服なんです」
「へぇー、良いなあー! アタシの鎧、まだまだでさあ」
ビースターチが少しボロついているふたりに対して黒い光を送っている。
星空のようにきらめく輝きが混ざっていて2人の傷に染み込んでいく。
闇系統の回復魔法だっけ。
「それにしても、ここまでの魔物相手を外界でしているの? すごく強かったけれど……」
「強いって全滅させといて……まあ、ムーはその中でも厄介だけれど、こんな感じの相手は多いさ」
「あー、癒やされるー……うん、すごく大変だから、本来はあんな群れに出くわしたら、数体どかしてさっさと隠れちゃう」
「ああー……なんか、無駄な交戦しちゃったみたいで……」
「いや! まさか、これでかなりひとつの稼ぎさ! ムーの群れはあれこれ落とすし、それにムーの群れ自体が撃退対象に指定されているんだよ。だいたい冒険者たちが地元と協力して大規模な罠を仕掛けるけどな」
半ば笑いながらビースターチは回復を続ける。
そしてフラウは近くのムーたち付近をあさり……
尾毛やら角片など命に支障ない程度に集めていく。
「あー……あのムーたちが大規模な群れで街や村に来たら、何もできませんもんね」
「そ。本来は脅して方向を変えさせたり、小規模なら穴に落としてまとめて捕らえたりするんだ」
「ローズさんも、使えそうな素材があったらどんどん採取していってねー、稼ぎ稼ぎ!」
「わかった!」
「ほんと、コイツラ容赦ってものを知らないからね。蹄からだす炎でなんもかんも地面焼いちゃうから、畑もダメになっちゃうんだよ。朱竜神の加護である炎だけど、同質の攻撃とまでくると、単なる草じゃあねえ……」
なるほど……本来この大地に生える植物たちも朱竜の影響で多かれ少なかれ灰に焼かれないくらい炎には強いが……
ムーたちは念入りに踏みにじり燃やしちゃうから耐えれないと。
確かに撃退対象になるのもわかるな……
「よし……だいたい治療はこんなものかな。ローズ、ほんとどんな力なんだよさっきの!」
「え? あ、これ?」
私は剣ゼロエネミーを再度取り出して掲げる。
相変わらず美しい輝きを放っていた。
「いやまあ、それも含めてローズの実力がハチャメチャだって話だよ、オレをあんなぶん投げられるか!?」
「あ、見てたよー、ビースターチ、抱きかかえられちゃって、惚れちゃったんじゃないの?」
「ば、バーカッ、冒険者として互いにああいう動きすることくらい、多少はあるだろ!」
「それにしても、確かに本当に良い剣ね……ムーたちが触れれば倒れていったし」
剣ゼロエネミーが褒められるのは悪い気はしない。
少しビースターチが慌てているのはなんでだろうか。
私に好感を抱いているにおいはするが……それだけ。
けど……私ではない方向を見ている時は?
……なるほど。
そっとしておこう。
「武器といえば、あの本と骨が竜の腕になるの、ものすごかったですね! あんまり私のいた国では見かけませんでした」
「あー、朱神術を使っているからね、多分その影響かな? 生体を使った武器に力を与えるんだよー」
「まあオレ的にはその剣のほうが断然すご……まあ、このぐらいにならないと、ランクTにはなれないのかってわかったよ」
「いやまあ、本当に助かったよローズ。ここまで強いだなんて! しかも、みんなちゃんと生きているみたいだしね」
「どういたしまして! それに……やっぱり冒険者としては魔物とはよくやっていきたいですし」
そう……魔物としてもニンゲンたちと仲良くなっていきたい。
なにせニンゲンも魔物らしいしね。
魔王談だが。
「だな……よし、ムーたちはすぐ元気になって動きだすから、安全に休めるところを探すぞ!」
「うわあ、さすが朱の大地……魔物の復活速度も規模違いだ」
「そもそも本目標は赤の灰を見つけることだからね!」
そうだった。
ここに来た途端絡まれただけでムーはあくまでサブ。
やはり赤の灰を見つけないと。




