五十九生目 峰打
ムーの群れに襲われた!
それをフラウの朱神術咆哮で食い止め……
その間にビースターチが闇の壁を作り出す。
「この闇の壁はこっちからなら自由に出入り出来る! やってくれ!」
「わかった!」
本当はガッツリ補助魔法かけつつ上空から魔法を射撃したいのだが……
今の私は剣士
火魔法"ヒートストロング"とだけなんとなく武技っぽく見せながら自身にかけ……
あったまって強化された筋力で剣ゼロエネミーを構える。
「そろそろ……動ける!」
ムーたちはだいぶ持ち直してきている。
麻痺の時間は短いものだったようだ。
「マトモに相手してられないし、道を切り開くよ! 竜の爪……できあがれ!」
フラウが持っていた骨の棍棒が光によって姿が変わっていく。
あれは……まるで生前ドラゴンの腕みたいだ。
立派な腕はしっかり神経通っているかのように指先まで動く。
私は彼女と共に闇の壁を越え前に出て……
「ちょっと痛いけどごめんね」
「……なに?」
こっそりムー語で話しかけ……
"無敵"と"峰打ち"をかけつつ剣ゼロエネミーが行きたい方向に刃を振り抜く。
そう私が大事なのは剣ゼロエネミーの阻害をしないこと。
ただ信じるがままひと息に身体を運び刃を振るう。
「ローズさんあぶな……い?」
「えっ」
「「なっ!?」」
……気づいたら私は刃をあまりに巧みに振るっていた。
それはいつの間にか敵を通り過ぎているかのように。
目の前にいたはずの数体は私が瞬時身体を踊らせたときにそれぞれ刃を刻み……
今一斉に倒れる。
うわ……なんだ今の。
ただゼロエネミーの声を聞いて導くまま振るっただけなのに。
確かに身体を動かした感覚も斬った感覚もあった。
しかしなんというか……
まるでプロのように洗練された技。
簡単に何体も斬り伏せてしまった。
私の力に呼応してより強くなっているようだ……
"観察"って基本的にこういう武装の事は比較で考慮に含めてないみたいだからね。
「アタシも負けてらんない、ね!」
フラウは竜の腕を思いっきり身体をひねりつつ下から上へかち上げる!
爪先で立ち上がったムーを上げ叩きつつ背後に地面から衝撃波が飛ぶ。
大きく広がり群れているからまとめて薙ぎ払った!
「おっと」
「ぐっ、壁が!」
ただ一撃必殺に力が足りているわけではない。
血が出つつもムーが蹄から炎を吹き出しながら高加速。
反撃を想定して下がっていたフラウは壁の中に入り……
ムーだけは壁に激突した!
これが言っていた仕組みか。
ただまあ私の方はもう倒しているから大丈夫。
「よし、オレも!」
ビースターチは次なる魔法を唱えだす。
私は……
(よし、"私"が暴れてみるか!)
あ、ドライ行ってくれる?
なら肉体の操作権を移して……と。
頼んだ!
(行くぞ! まずは自身に毒を回し転換……"疲れ知らずの魔毒獣"だ!)
ドライが身体を動かし早速高く跳ぶ。
更に全身に自分が持つ毒を回し……
毒により全身を強化する能力でパワーに転換。
さらに気分もハイになる。
高揚したまま跳んで突撃したのはムーの群れ真っ只中。
ただここは先程麻痺していた範囲とそうでない範囲の境目。
ちょうど程よく混乱していた。
「おい、まだ進まない……なっ!? 何が降ってきた!?」
「えっ」「うわ」「ぎゃっ」
「まずはここから!」
威勢よくドライが剣ゼロエネミーを振れば武技"波衝斬"で斬撃の衝撃波が飛ぶ!
振り抜いた刃が1体の頭を捉えつつ斬撃が別のムーにヒット。
なるほど斬撃が飛ぶ幅はそこまでないのね。
ただ威力は結構あるらしく特に問題なく倒せた。
"峰打ち"もつけているから問題ない。
そのままできうる限り動きを止めずドライにより刃が振るわれていく。
武技ってどうしても動きがある程度決まっていて狭くなってしまうからだすタイミングが限られる。
つまり魔法と同じオート制御。
その仕組みをうまく突いて自身の動きを無理やり変化させ後スキを殺すかのように切り刻んでいく。
よくこんな動き出来るな私……ドライが動かしているしそもそも剣ゼロエネミーの導き通りに振るっているだけだけど。
ガンガンと光をまとった刃が敵を吹き飛ばしていく。
"峰打ち"の死なない特性を生かして思いっきりふっとばしつつムーにムーをぶつけている。
確かにこうしないと終わらないからね!
「な、なんなんだ!? ぐあっ!!」
「ま、待て! ぎゃっ」
「早すぎげえっ!?」
「こんなところになんで敵が!」
「うわあこっちにも来る!」
手近なやつを倒してふっとばしてを繰り返す。
するとどうでしょう。
群れが一気にパニック化しだしました。
本来統率の取れているはずのムーたちもさすがに自分たちが物理的に吹き飛んでくればこうなるよね……