五十八生目 朱術
激しく地面が破壊された痕。
朱竜により地面に刻まれたそれは天然の危険地帯。
最近できたばかりのようだがあたりはすでに先着者がいる気配もする……
「それじゃあローズ、アタシがまわりのガスから守るよ!」
フラウが拳を胸の前で鳴らし光を発揮する。
周囲に光の波が走り私の呼吸が随分楽になる。
具体的に言うとガスくささや煙での息しにくさがなくなった。
ああいう守るための武技なのか。
「それじゃあここからは各自戦闘準備。気が立っているやつが絶対多いからなフラウ」
「もちろん、むしろビースターチは大丈夫なの?」
「あったりまえ! ローズも剣抜いとくくらいの気持ちでいいぞ」
「う、うん」
そうか……剣ゼロエネミーをか……
ふたりとも身構えていて私だけ棒立ちも悪いよね。
よし。まあ大丈夫だろうから出そう。
鞘におさまった剣ゼロエネミーに手をかけ……ゆっくりと引き抜いていく。
その刀身は相変わらず美しく澄んで輝く。
まるで水のようなその姿。
「うわ……なんだこれすっげ……」
「なんだかかわいい武器……ビースターチ、これすごいの?」
「フラウ、お前……! まあ仕方ないけどさ、アレはガチでキテるぜ……!」
ビースターチは何かに気づいたのか額から汗を流しながら歯を噛み合わせ笑う。
剣ゼロエネミーはこうしていたら確かに単なるきれいな剣だ。
実はほとんど腕で振るったことはないんだけれどいけるよね……?
私の耳が煙の中から襲来する気配を察する。
そちらに向き直るとみんなも私に続いて向きを変えた。
そして突如煙を突き破って影が飛び出してきた! "観察"!
[ムーLv.35 比較:かなり弱い]
[ムー 常に大地を移動し続け、高いエネルギーが集まる場所にいる。移動中何万もの群れになると、破壊の行軍になる]
その姿はまさに肉体が1トンもありそうな牛型の魔物。
角が恐ろしく前方へ向けて尖ったのが2本生えており槍のよう。
その蹄からは炎が吹き出ていて……何が恐ろしいかって……
数。
「げーっ! もうムーが来てたのか!?」
「囲まれないようにして! 壁を背に!」
足を踏み鳴らす音がどれだけでも聴こえてくる。
視界が悪い煙の向こう側に"見透す眼"してみれば見えるのはその数。
数十どころか数百とこちらに突撃してきている……!
「フラウ、"朱神術"を!」
「やってる! オオオォォォ!」
フラウが私達の前に出て目の前までにきたムー相手に何故か大声で吠える。
それはニンゲンの叫びではない……
怪物の……竜の声みたいだ。
さらにその音は光が乗ってムーたちの群れを襲う!
声が響いたムーたちはその体を苦悶に歪ませ思わず進行が止まった。
届いていない後ろのムーも当然前のムーが邪魔になるため急停止する。
緊急で逃げるように魔法唱えていたけれどなんとかなりそう。
「あ、が……! 体が……! 動かない……」
「麻痺が……!」
「なんだ!? なんで止まったんだ!?」
いつもどおり言語を覚え終わってと。
朱神術か……術って実はかなり凄いんだよなあ。
術自体ニンゲン界では全く解明が進まないが良いスキルの1つとして数えられている。
ただ術は魔法と比べると……なんというかマニュアルなんだよね。
魔法はどちらかといえばオート。
それで最近そういう変わった特性やわざわざ神の名前がついたりするあたりで察したことがある。
これはまさしく文字通り神の力だ。
神力だと神でなければ観測できないのでそりゃあ解析できない。
ただ術というのはその神の身でなくとも行動力肩代わりで発動できる。
私も"光神術"をよく使っているがそれ以外が今の所使えないのが残念。
蒼神術を使ってみたいのだが。
魔法と違ってニンゲンの解析はさっぱりで今後も期待が難しいから詠唱呪文化できないんだよね……
「ビー! まだ?」
「い・ま・や・る!」
それはともかく ビースターチは魔導書を宙に浮かし風圧を生み出しながら魔法を使う。
魔導書は杖の亜種ではあるが……
今高速でページがめくれていく。
実はあの中には大量に魔法式が描かれている。
細かくどう魔法を発動するかどうブーストかかるかが書かれていて……
めくるたびに必要な術式が発動していく。
私は使ったことがないがかなり玄人好みらしく細かく紙の中身を変えて自分の使う魔法に最適化するらしい。
つまり本のめくりが止まったときが魔法のブースト完了合図。
「そらっ!」
私達の目の前に闇の光で出来た壁が生まれる。
それは大きく私達を囲い……
背後の壁含めてきっちり守りが出来た。
これは確か闇系魔法で侵入不可の結界を作るもの。
ただし私達側からは自由に動ける。
壊れなければかなり便利な魔法だ。




