五十七生目 深穴
魔法使いのビースターチに棍棒使いのフラウ。
ふたりに誘われ冒険に行くところなのだが……
「って、その格好で良いのか!?」
「えー、軽装すぎない?」
「そうかな?」
私はいつもの格好。
それとこっそり剣ゼロエネミーを取り出して腰に鞘ごとさしている。
剣ゼロエネミーは見た目がまったく剣ではないが今は形だけはそれっぽくしている。
色は変わらず爽やかな青だが。
この服たちも見た目だけなら単なる服だが実性能はすごい。
私自身の力に呼応して全身を非常に頑強化している他動きをサポートしてくれる。
まあ私や敵の血をたくさん吸ったからね。
物理的に。
もちろんその後単なる汚れじゃなく昇華してしまう服屋さんがとんでもないのだが。
もちろん胸の石をしっかり隠すのにも役立っている。
額の目は髪で隠した後目を閉じさらに"変装"でまぶたごと額に見た目同化させてある。
目自体は"見透す眼"でまぶたを貫通して見られるからね。
「まあ、ランクTがいいって言うのなら良いんだろうけどさ、外陸人は朱の大地慣れしてないから、少し不安になるぜ」
「まあ、そこはアタシたちがサポートするから!」
「よろしくおねがいします」
まあふつうのニンゲンだったらまず灰でやけどやら傷やら大変なことになるだろうからね。
とりあえずは……出発だ!
談笑をしながらしばらく移動を続ける。
カルクックを本来は借りたかったらしいがまだ準備が出来ていないらしい。
近場なため全員で駆けていく。
もちろん通常の速度でだ。
私単独の速度だと速すぎるからね。
「へぇー、じゃあ2人はおさななじみ同士なんだ!」
「ええ、アタシは昔からこいつのお目付け役ってワケ」
「何言ってんだか、ガキの頃からすぐどっかとんでいくのを連れ戻すのは、オレの役目じゃねえか」
「やれやれ、すぐアタシに張り合うんだから!」
ふたりともすでに成人済みで実はそこそこ大人なのがわかった。
ずっと昔からふたりで組んでその時々様々な冒険者たちとやってきたらしい。
だから私のことも気軽に誘ったと。
今回の目的は近くで見つかった赤灰が降っている地域で赤灰の塊を見つけること。
赤灰が降るまでは気象観測できてもその地域でどこに落ちているかまでは不明。
詳細を見つけてなんやかんやすればいいらしい。
「それにしても、どうしてここに? 朱の大地って、結構大変だよ?」
「私? そりゃあ……」
もちろん仕事でもある。
しかし……
「そりゃあ、また新しいところで冒険したかったから!」
「だったらこれ以上退屈しない土地はない、常に新しくなる場所だからな!」
「そうだね、だからアタシたちもいるんだし」
こちらもまた本音だ。
ここの人たちはなんとなしに新しいという言葉を良く使う気がする。
朱竜教の中に染み付いてるものなのだろう。
新しいを常に重ね続けて長い歴史を生み出す。
言葉にするほど簡単ではないそれをここのニンゲンたちはやり続けている。
私も見習うところは見習わないと。
それで過去を捨てているのならともかく。
どれだけ壊れても過去ごと再生する。
そしてよりよくなる。
それがきっとこの国なのだろう。
「見えてきた!」
「うわ、あんなに……」
ふたりが指した先に崖。
その直前で全員で止まる。
……ここは外界だよね?
激しく崩壊した地面。
広がる大穴に立ち上る煙。
それがあまりにも広い範囲に広がっていてここからでも横側は少なくともどこまでも続いてる。
ところどころにマグマが走っているのが見え当然のように火災があちこち起こりガスが吹き出る。
えと……これ自然な地形じゃないよね?
「おおー! これは派手にやったなあ!」
「朱竜様の破壊痕! いいもの取れそうだねえー」
「朱竜が、これを……」
「さ、いくよー」
朱竜が作り出したのかこの地面陥没……
と思っていたら早速という感じでフラウが飛び込む。
続いてビースターチも。
感慨深いというかもはや驚嘆しているのは私だけでふたりはいい景色ぐらいの感覚。
地面………ふきとんでいるんだけどな……
しょうがないので私もすぐ後を追った。
「よっ」
「ほっ」
すぐ下が地面というわけでもなく坂や足場程度の平面があるので順に渡って降りていく。
ふたりは完全に慣れた感じで行けそうな地面を見極め……
特に苦労もなさそうに高速で下る。
私も彼らの跡を追う。
さすがにここで培った経験はなくともこのぐらいなら身体能力と……
冒険者としてのカンで大丈夫だ。
「っよし!」
「ついたか! お、すごいな、さすがTランク!」
「いやあ、そのTランク呼びはなんだか恥ずかしいからやめてほしいけれど……」
「何言ってるの、もっと誇っても良いくらいなのに」
やっとそれらしく歩けるところまで降りられたか……




