五十六生目 聞耳
色灰の説明を受けさらに宿も用意してもらえることとなった。
後はもろもろ会話をして今日の夜には宿が出来る……これは文字通り建築が終わるということと。
知っておいたほうが良い一般知識を手に入れた。
それまで私はひと仕事やっておく流れになったため下で正式な仕事を受けることになって……
部屋から出る。
「「うわっと!」」
「……うん」
外に出ると冒険者たちが複数名そこにいた。
実は私の耳でも外の音を捉えられないのはすごいなとか思ってはいたのだが……
不安になって"絶対感知"はしていた。
外に集まっていく冒険者たち……
阻止しようとする職員さん……
そしてやはり聞こえなさそうだから放っておくことにした職員さん。
その後私達は話してその間耳を壁に当てるがおそらくは無音だったのだろう。
粘ってはいたが私が出てくるほうが壁突破より早かったわけだ。
「な、なんでもないぜ! それよりも、一体何を話していたんだ!?」
「バカ、直球すぎる!」
男を女が軽くはたくと大きく姿勢を崩す……がギリギリで耐えてスクッと戻る。
他の面々はどうやら各自解散するようだがこの2人だけは残った。
「ええと、まあちょっとした話をね。ほら、私外国人だからまだ慣れていなくて、ここらへんの詳しい説明を受けていたんだ」
「ほら、やっぱり普通のことだったじゃん!」
「真っ先に聴こうとしたのお前じゃん……」
男のジト目を受け女は目線をそらす。 なんというか……2人ともイイ性格していそうだ。
"観察"!
[ピッソレートLv.33]
[ピッソレート 個人名:フラウ
人間種トランス先のひとつ。小柄ながら見た目にそぐわぬ怪力と器用さが得意で、毛皮は肉への傷をすぐ埋めるため再生しやすい]
[ノアーモLv.32]
[ノアーモ 個人名:ビースターチ
人間種トランス先の1つ。比較的小柄かつ漆黒の皮膚を持ち全身を常に魔力が覆っている。見た目よりも遥かに強固なのはそのためだ]
女性がフラウに男性がビースターチと。
確かににおいはそれ相応だったが見た目だけならやや小柄で少年にもみえるかも。
それを言ったら私のケンハリマ姿も似たようなものだが。
「あ、ごめん! オレはビースターチ! ほんで……」
「アタシはフラウ、すごく共和国語が得意なのね! アタシ達からしても自然に聞こえるよ」
「ありがとう、結構こういうのは得意分野でね……私はローズって言います」
そういうスキル使っているからね!
この世界ではもちろんスキルは本人の能力そのもの。
ただなんとなくこういうタイプのスキルはズルしている感じになってしまって他人に説明しにくい……
「なあ、今日ヒマ? なんなら一緒にちょっと観光がてら冒険しにいかないか?」
「ビースターチ……まあ、でもアタシからもお願いするよ。どうしても人数が不足していてさ、ランクTっていうあなたの実力があれば、きっとなれない土地でも力になってくれると思って!」
「良いんですか? 私のこともまだあまりわかっていないのに……」
というか私からしたら向こうのことはまだほぼ知らないんだけれど。
ただ現地民が案内してくれるというのなら。
それ以上にたのもしいことはない。
ビースターチはその黒い腕で顔に軽く触れて顎と交差させ……
つまりなんかのポーズを得意げにとった。
「もちろん! 冒険者が互いの素性とかそんな細かいこと気にするもんじゃないさ、そんなのは一緒に冒険すればわかるしな。あ、オレたちランクHプラスね!」
「それは……一理ありますね。ならおねがいします!」
「やったあ! だったら、早速アタシ準備してくる!」
フラウは白い毛皮をなびかせ1階へと降りていく。
私が短毛だから思うだけかもしれないけれど……
彼女みたいな長毛だとよりニンゲン離れするというか……
手入れ大変そうだなあ。
とりあえず全員装備を整えて集合した。
冒険者の酒場ではたくさん話を投げつけられ疲れてしまったので早々に退散し……
街の外に集まった。
「よし、これでいいな!」
「ビースターチ、水筒は?」
「今日は忘れてないって!」
ビースターチは全身を法衣のような黒っぽい民族衣装風の格好。
身体よりも布のほうが大きくまた高級そう。
隠れている腕は魔導書を持っている。
魔導書とは杖の亜種型だ。
細かくは使うときに見るとして……
フラウは白い毛皮の上からガッチリと金属鎧を着ている。
ただ可動を意識して関節などは自由にしているようだ。
気になるのは背負っているもので身の丈に合わないほど大きな……骨の棍棒?
なんというものを背負っているのか。
とりあえず装備たちはひと通り強化され付呪しているな……
間違いなく彼らも強いのだろう。
冒険者基準で。




