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百十 春祭

 ハックのトランス先を新しく作り目覚めるまで待っていた。

 作業から30分ほどで起きたから麻酔は軽いものだったようだ。

 トランス先を調べる機械を使ったらきっちりケンハリマが足されていた。


「これで僕もトランス出来る!?」

「いや、まだだよ」

力量(レベル)が足りんようじゃのう」


 ちょっと残念そうだったが仕方ない。

 それでもいつかはハックもトランス出来るだろう。

 レベル19だしね。


 九尾は並んだデータたちを見て満足そうにしていた。

 やはり試験回数を増やせるのは良いらしい。

 またしばらくしたら顔を見せに来ても良いかもしれない。


 くつろぐ時もそこそこに九尾邸をあとにする。

 九尾邸の庭を通って門を通る。


「キツネさんさよーならー!」

「ではまた! ありがとうございました!」

「これでやっと静かになる、じゃあの」





 ギルドへと行くとイタ吉と出会った。

 もちろんイタ吉にも話をしておく。


「へぇ〜! 良いじゃん面白そう!」

「まあそういうわけだからさ、またいつか来るよ」

「おうよ! たまには連絡よこせよな! そのなんちゃらって能力(スキル)で!」


 "以心伝心"ね。

 これがあれば遠くにいても連絡出来るので便利だ。

 まあたまには連絡してやろう。


 そうして軽いイタ吉とのお別れを済ます。

 3匹で街を観つつ外への門をくぐる。

 閉じる門を見届けてから迷宮の外へ出た。


 群れへ戻ればまだ昼。

 休む時間はありそうだ。

 アヅキとユウレンにも連絡したら一休みといこう。





 アヅキとユウレンに連絡を入れたら了承してくれたので夢の中へ。

 アヅキは私が、ユウレンはハックが行くなら問題なくついてくるようだった。


 夢に出てきたのは……これまでの出会いたち。

 イタ吉、オジサン、たぬ吉、ニンゲンたち、そして家族。

 私はここを去る。

 思い出深い土地だ。


 いつでも帰ってこられるけれどさみしくもある。

 私の大事な場所なんだ。

 それを再認識しつつ眠れたのは幸せだった。


 そうして最後の夜がやってくる。





 夜。

 私が存分にごろ寝していると群れの中心が騒がしくなってきた。

 なんだなんだと私が向かうとそこに丸い円状に枝で囲まれていた場があった。


「これは一体?」

「お、今日の主役来たな!」

「え?」


 そこにはホエハリたちがみんな揃っていた。

 その中央にふたり向かい合うクローバー隊の兄たち。

 これは一体?


「あ、お姉ちゃん!」

「主よ、実は色々とありまして……」


 なんと私の裏で進んでいる話があったらしい。

 私達が外へ行く事が決まりそれならきっちり送り出したいと何かをしようと話し合いがあったらしい。

 それでユウレンとアヅキに意見を出してもらい、ニンゲンの世界や街での娯楽を統合して結論を出した。

 万能翻訳機のおかげで私がいなくともこういう事が出来るようになったわけか。


 そうして出た結論がお祭りを開くことだった。

 私とは別に行動していたユウレンたちは街で必要なものの買い出しを行いホエハリのみんなは料理や材料調達。

 やることは単純だ。


 辺りの飾り付けをして華やかに。

 普段は決められた分量を食べる食事が無礼講に。

 そして中央ではイベント。


 ニンゲンの世界では前世でもそうだが決められたエリアとルール内で勝つ競技は常にあった。

 それを持ち込んでここでも競技が行われていた。

 単純な勝ち抜きバトルだ。


 ルールは相手を倒せば勝ちで枝で囲んだエリアから出たりルール違反で負け。

 相手を殺さないことはもちろんで倒れた相手への追撃も禁止。

 エリア外に出たかどうかはエリア外の地面に身体の一部が触れると負け。

 アヅキ以外意味がないルールだが飛ぶのは禁止。

 ユウレンみたいに自分以外を呼び出すのは禁止。

 武具の使用も禁止。

 まあ実に単純な力比べだ。


 暗くなったはずの周りがパッと明るくなる。

 街で買ってきたらしい飾り付けの灯りが灯ったのだ。

 火の灯りが照らす中クローバー隊の兄たちふたりの間あたりにハートの姉が来る。

 そうして中央にそれぞれ向き合う形になるとハート姉が声を上げた。


「これより最初の試合を始めたいと思います!

 ぜひみんなで楽しく送り出せる良い行いにしましょう!

 それでは、勝負……開始!」


 そう言うとハート姉は後ろへ跳んで下がって枝から出る。

 同時に兄たちふたりが激しくぶつかりあった。

 周りからワッと歓声が上がる。

 ふたりの実力は互角だ。


 盛り上がっている中で私は視線を彷徨わせる。

 いいにおいがする……

 探した先にドラーグたちがいた。


 向かうとそこでは様々な料理が並べられていた。

 街で仕入れたのだろうかフルーツも多く並んでいる。


「あ、ローズ様! 今日は食べ放題ですよ!」

「ローズ、こっちでは食事を準備しているのよ」

「おいしいですよ!」


 ユウレンとたぬ吉もいる。

 ユウレンが焼いた肉とリンゴを受け取って食べる。

 普段なら食べられない部位だ。


「今日はそれぞれが勝手に食べて良いらしいのよ。まあ私は元々食べないけれど」

「え、そう父さんと母さんが?」

「らしいわよ」


 それはかなりの変化だ。

 基本的に群れのルールは絶対。

 今日はそれを曲げてまでオーケーを出してくれるらしい。


 見れば父と母も祭りの様子を群れのすぐ近くで見ている。

 側にジャックペアがいるのはかわりないがそれぞれ楽しんでいる様子だ。


 ワッと再び歓声が上がる。

 決着がついたらしい。

 新しくメンバーが入れ替わると今度はインカとハックらしい。


 見に行こうとした私にユウレンが何かを投げてくる。

 思わず口でキャッチすると恐ろしいかおり。

 急いで離す。


「ユウレン!?」

「お祭りだから無礼講よ。まあ、記憶を失わない程度にね」


 ユウレンが渡したのは例のホエハリが酔う果物の切り身。

 香りだけでもクラクラくる。

 ま、まあお祭りなら少しくらいならね。


 果汁を少しずつ飲み込むとツウと身体の中が熱くなっていく。

 こ、こりゃあヤヴァイですぜ。

 変な思考になりながらインカとハックのぶつかり合いに歓声を飛ばした。

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