五十生目 新築
街がなかった。
私もさすがに目の前まで近づくまで気づかなかったわけではない。
駆けている最中まずにおいの違いに気づいた。
硫黄というか……鼻を刺激するようなにおいがまず前方から流れてきて……
同時に都市特有のにおいがしなかった。
次に音だ。やけに静かでとてもじゃないが向かう先に賑やかな都市があるとは思えない。
今の時間はごく普通の昼間だから静まり返るのはおかしい。
そして目視。
そこに都市の影はなく……
代わりにあったのは。
「なんで……火砕流跡が……」
つまりはマグマが流れ冷え固まった跡がたくさんある。
近くに火山は……ない。
多少荒野だがごく普通の平地だ。
何があったんだここは……
まるで数日の間に火砕流で破壊されたかのような。
しかも上流に向かっても突然火砕流が現れたかのようにしか思えない。
地質学者じゃないからよくわからないな……
ただ凄まじいパワーが働いたのは確かで私もまだ毛皮がぞわりとするほど感じられる。
まるでこれが攻撃に使われたかのような……
仕方ない……1度近くの村で話を聞きに行こう。
近くの村そのものはすぐたどり着いた。
港と同じような作りだが聞いたらその通り港の姉妹村だった。
住人はほぼ家族で港町とつながっているらしい。
「あー、たしかにあの都市はもうアソコにないわめ!」
豪快な笑いと共に私の困惑を見抜くかのように話を受け止めてくれた。
もちろん私はニンゲン風に扮している。
それにしてもこの外でたまたま歩いているところ話しかけたおばちゃんが言うことはどういうことだろうか。
「ええと、都市が無くなったのはあの火砕流が原因ですか?」
「そうさめ、朱竜様の大暴れがあってね、つい最近移転したんだめ! あんた別大陸から来たんだって? ちょうどいい時に来ため、この大陸の風物詩、高速建築を見られるんだかめ!」
「え……? と、とりあえず位置を教えてもらえますか?」
「もちろん!」
おばちゃんは気前よく移転先を教えてくれた。
というか朱竜の大暴れがあったって……
街1つ沈めるような大暴れがあったのかい……
なんというかとんでもない竜神だが移転したらしいというのと高速建築なるものも気になる。
あんな大きな被害があっただろうにおばちゃんがすっごい軽いのも何か秘密がある……?
とりあえず私は急いでその先へと向かった。
近づいていって気づいたのはまずそのにおい。
都市独特のかおりの他に……なんだこれ?
音はかなり騒がしい。
さらに駆ければついにはその景色が見えてくる。
私が見たかった景色。
ニンゲンたちが営む場所……が現在作られているところ。
「あ、あったー!?」
……都市ガクロック。
その光景は私たちが考えている都市とはまるで違う……あまりに斬新な作りだった。
まさかあれは……
「レンガ……いやガラス? レンガガラス……?」
その都市は大量に積もられる美しい朱色の灰。
そしてガラスブロックが大量に積まれ……
それがものすごい勢いで積まれ建設され建物が出来ていく。
建物たちは美しいガラスブロックで出来ていて1つの建物がみるみるうちに出来上がっていく。
それが街のあちこちで出来上がっていく……!
な……なんだこの街は!?
まず街の素材がわけわからない。
それのおかげで全体的に美しいながらも幻想的でどこか浮世離れしている。
だがそこには確かにニンゲンたちが行き交い……
そもそも数日前に潰されたところなんだよね!?
移転してもうこんなに元気なの?
なんというところだ……
当然のように都市を囲む壁などは存在しない。
ええ……どこからはいる許可を得るとかしなくて良いのか。
すごく便利。
前世では当然ではあったがこっちでは都市としては異様だ。
さっそく行こう!
しばらく歩けばその都市間近に迫る。
近くに来るとわかるが……
建物たちはしっかり大きい。
それなのに現場ではニンゲンたちやガイコツのアンデッドたちが流れるようにブロックガラスを積んでいっている。
赤っぽいあのガラスたちは光を乱反射していてどこから見てもきれいだ。
それはそれとしてこんな作りや組み方で長年住めるかは疑問だが。
「とりあえず……と」
やはり関所もなく通り抜けできてしまったので……
市役所みたいなところを探そう。
ちゃんと案内看板もたっている。
街の探索はそれからでも遅くはない。
……うん?
『今日の天気は、晴れ、のち灰が振り、明日にかけて3ミリ降ります。風向きは――』
近くに設置されていた輝く石から声が発せられたと思ったら……
天気予報!?
まさかこの国では気象観測とか見たこともない拡声技術なんかもあるのか!?




