四十六生目 最低
白い箱をスイセンが片手で持ちながら空から降りてきた。
スイセンの屋敷庭付きが……あんなに小さくなってしまうとは。
「圧縮した……!」
屋敷があった場所はまるでそんなものがなかったかのように森になっている。
すごいな……次元ごと概念を上書きしていたのか。
ただここになにかあったのを指すのは屋敷へ続いていた道のみ。
「ふう、なんだまだいたのかブス共と男ども。ボクはもういくからな」
「えっ、信者たちはどうするの?」
「だから知るかってのあんなやつら、こっちは身を隠さなきゃならないのに、どうせ今回もすぐ見つけてくるだろうなとしか思えない。んじゃよろしく」
「えっ、よろしくって!?」
そう言っている間にもスイセンは念力で飛行しどこかへと飛んでいく。
早っ……て? ん?
村の方から何か足音が聴こえる……?
「どいたどいたー!!」
「わっ!」「ひゃっ!?」「わー?」
カルクック!?
村人が乗ったカルクック……つまり馬のように乗って駆けられる烏骨鶏みたいな魔物が凄まじい勢いで駆けていく。
私達をのけていって行った。
カルクックたちは……スイセンの方へ走って行った。
どうやらスイセンを追いかけているらしい。
まさか……
「一体、今のは……?」
「……村へ行こう」
スイセン信者の村。
そこは前とはまた違って凄まじい熱気に溢れていた。
ただそれは……
「さあ、スイセン様に追いつける間に!」
「早鶏は出たか!」
「場所特定しても向こうでいいところ開けるかはここの早さが大事だぞー!」
村の移動準備をはじめていた。
あらゆるものをバラし次々と運び荷車に積んでいる。
移動する村の本領発揮か……!
「すごい……本気でスイセンを追いかけるんですね」
「……お母さんたちのところにいかなきゃ!」
「ほらどいた! ここはもう更地になるぞ! 邪魔者は帰れ!」
「うわっと!」
さすがにもともと高い敵愾心受けているだけあって私達への圧が強い。
道に立っていたら横にどかされた。
まだあちこちあいてるのに……
とりあえずメープルの提案でメープル家に行くことに。
まあ……そこだよな。
ただなあ……
たどり着けばそこでもせっせと分解作業。
メープルが慣れ親しんだ家は少しずつたたまれていく。
「お母さん、お父さん! もうスイセンの呪いはとけたよ! もうそれで苦しむことはないの!」
「メープル!? なぜここに! 呪いは……確かにとけていたが、何を……?」
「まさか……スイセン様のミューズになるのを蹴ったという話、本当なのかい!?」
「えっ!? う、うん……」
メープルの両親はメープルの心配をしている様子はない。
むしろ今の話を聞くやいなや血相を変えだす。
あれはまさに怒り……?
「まさか、そんな畏れ多いことを!」
「我が家の子がふたり共不信者に育つだなんて……! 出ていって!!」
「えっ」
「おっと」
私は急いでメープルとメープル母の間に割り込む。
話がややこしくならないように距離とっていたから間に合ってよかった。
彼女の腕は大きく振りかぶろうとしていたからだ。
「な……何……? 魔物……?」
「ええまあ、それで、そのようにしてジンコーさんも捕らえて洞窟へ?」
「喋った? な、なんなの……よくわからないけれど、関係はないでしょう!?」
ふうむ……これはやってるなあ……
メープルは唖然として座り込む。
どこか心のなかで諦めきれなかった部分もあるのだろう……
「もう置いとけ! スイセン様が行ってしまう、スイセン様のモノにならぬ子などないのと同然だ」
「そ、そうね……それじゃあ、もう、近寄らないでね」
「お、お母さ……お父さ……う、うえっ……」
気持ち悪くなってしまったのかメープルが口を抑え前屈みになる。
さすがにこれは……!
「あなたたち、本当に親か!?」
「誰かは知らないが話せるならこう返そう。私達としてはすでに、子に縁を切られたに等しいのだ」
「スイセン様を落胆させる子だなんて、最初からいないほうがよかった」
「くっ……! 最低だ、行こう……」
「……はい……」
ダメだ……すでに目すら合わせてもらえないし向こうに行ってしまった。
そもそも不快感で会話したくない。
殴りかかったところで何か変わるわけでもないし。
もうわかっていたこととはいえ……ここまでとはつらいな。
当事者のメープルはさらにだろう。
みんなでメープルに慰めの言葉をかけつつ私達はこの村をあとにした……
この村は数日後完全に消え去る。
ただニンゲンの営みがあった跡と……
ふたりぼっちの双子を残して。




