四十五生目 解散
少しの間審議が止まる事故が起きた。
「……ふふふ、にゃあんでもありませんよ。どうぞ続けてくださいな」
「ふう……やっとなんとかなった……よし! 最後、スイセンに入れたひとりに聞こうか!」
「そ、そうだ、剣のお前、お前は見どころがわかっていたようだが、どうだった?」
勝敗そのものは決しているものの確かにスイセンに入れた理由は気になる。
スイセンの場合は話変えないと命がピンチだからかもしれないが……
「では……まず1つ言わせてもらおう。双方、どちらも方向性の違う輝きを持っていた、そこに貴賤は無く、優劣以上の価値があった……その上で、只管に打ち込んで来る姿勢、それが己の心に響いた。まさしく戦場で闘い抜くような……特に魂のみを抜き取るというのが善い。死合えば貴殿の首か、こちらの魂か、どちらが先に尽きるか、非常に愉しみでな……」
スイセンの顔にある花がどんどんと萎えしぼんでいく。
そしてたじろぎ……
「まさ、か……戦上で首を刎ねる――」
「――よーし! 身バレしかねないのでおつかれさま、解散!」
……ここまで来ると逆に厄除けさんが誰なのかが気になるけれど。
蒼竜が無理やり終わらせると今まで不思議な空間だったのが消えて元にもどっていく。
同時に3柱も消え……
消えたあとにのこる輝きたちが次々とスイセンへ集まっていく!
「ぐっ、やめ! クソ……!」
あんまり痛くはなさそうだがなんだかしんどそうだ。
まるで光がスイセンを縛るかのように。
いやきっとこれは実際に縛っているんだろう。
「これでスイセンはその話に出てきた家族に対する嫌がらせをやめるしかなくなったよ。負けた側は魂に概念の呪縛を刻まれてしまうからね」
「え、それってどういう縛りが……まさか」
何か違反行使しようとすると凄まじい痛みが襲うとかじゃあと恐れたが……
蒼竜やスイセンを見るにそういうわけではないらしい。
「いやまあ、魂が影響受けるんだからね。ある意味シンプルにそしてもっとも効果的に……」
「はぁ〜、もうあの家族のことどうだっていいや……それもよりも重要なことがある」
「…とまあ、それへのテンションがだだ下がりするんだよね。もちろん種類によりけりで色々変わるし、今回のは、あくまで今回揉めていた件周りでの気がなくなるってだけだしね」
蒼竜が帽子を指で弾きながら説明してくれた。
スイセンは非常に慌ただしくどこかへ行ってしまう。
一体……?
メープルやたぬ吉は喜びのステップを踏んでいた。
ハックは満足気に像を眺めつつ"進化"を解いた。
ここから私はどうするか……取れることは考えておかないと。
なにせスイセンが諸悪の根源ではないからだ。
蒼竜は『忙しいからじゃあね』とさっさとどこかへ行ってしまった。
忙しいやつがなんでここまで来ているんだろう……
もはや蒼竜の行動にイチイチ突っ込む気も起きないがもしかしたら私がまた小神と接触している気配から来てくれたのかもしれない。
【ダーペイ】か……戦闘をしないタイプの神に対する札として使えるかもしれない。
ちゃんと覚えておこう。
それにしてもスイセン自体があっちこっちいって何しているのだか。
「ほら、お前達も早く出ていったほうが良いぞ。面倒なことになるからな」
「いやでも、試合には勝ったし……」
「そうじゃない、さっきの2柱のこと覚えていないのか? 記憶力すら不出来とかほんとさっきのヤツラにサクッと殺されれば良いのに。散々脅してきただろうが、ああいうヤツらは試合とは無関係に殺戮を行うような本気の野蛮邪神だ!」
ああ……あの招き猫に見えた神と剣に見えた神……
もしかしたら厄除けに見えた神も何かある可能性も。
実際に来るかどうかはまったくわからないが。
「えぇ……で、一体今は何を……?」
「この結界内をしまう準備だ、早く結界外にでないと知らんぞ!」
「結界を……?」
「何か知らないけれど、出たほうが良さそうだね〜」
スイセンに追い立てられるように屋敷を出る。
たぬ吉やハックはまるでピンときてないし私もそこまでわかっていないが……
スイセンが移動する神なのにスイセン屋敷だけやたらしっかりしているのは気になっていた。
庭からも出て森の中道に出る。
メープルは何がなんだかわからないといった様子でいるが……
やがてスイセンも出てくる。
その体を念力で浮かし空高く上がると……
目の前の空間が歪む。
紙がくしゃりと縮められるかのように。
「「わあっ!?」」
そして空間ごと縮み持ち上がっていく。
空間が……空に飛んでいく!?
飛んでいった先でスイセンが全身に光をまとい力をこめている。
そうして次々と空間ごとスイセンの屋敷が縮み……
最後には1つの白い箱になった。




