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百九生目 血分

 訓練で疲れくたばっていたインカとハックを回復させてなんとか動けるまでにはなった。

 そういえばオジサンは今後どうするのだろう。


「オジサンは……今後どうしますか?」

「お、俺は、ここにいるよ。確かに望んで俺の群れから追い出されたりしたわけじゃあないけれど、それでも今はもうここが居場所だから」

「……わかりました!」


 オジサンの心に悲壮感はなかった。

 ならば私が一緒に行こうと言う必要はない。

 彼はおとなだ、自分でいる場所を選べる。

 そういうことなのだろう。


「これまで長らくありがとうございました」

「ま、また暇になったりしたら、来てね」

「はい!」

「またねー!」

「またなー!」


 そうして私達はオジサンの元を後にした。





「あれ? こっち群れじゃないよね?」


 ハックが気付いて私に声をかけてきた。

 さすがにすぐにわかるか。


「うん、ちょっと行きたいところがあって。ふたりにも街をみてもらいたいんだ」

「あ、前お姉ちゃんが言っていた所だね!」

「おぉ、俺も見たい!」


 道さえわかっていれば群れからも軽く走って数十分でつける。

 オジサンの隠れ家からも大して変わらないだろう。

 まあその道が迷わせる仕組みでたいていまともにたどり着けないのだけれど。

 わたしはもうわかっているから大丈夫だ。


「ちょっと走るよー」

「いつでもいいぞー!」


 どのぐらいの力で走ればいいかな?

 このぐらい?

 いきなり速度を上げても疲れるだけなので軽くならすように速度を上げていく。


 ビュンビュンと景色が流れてゆき十分な速度を確保する。

 うん、進化した姿のときよりも速くなってないかな?

 ……うん? だとする……


「おねえちゃ……! はやい……!」

「ぜ、全力疾走……!!」


 ああ、まずいまずい、ふたりが息切れしていた。

 速度をゆるめるとやっと彼らは一息つけたようだ。


「ごめんごめん」

「まだまだ妹には勝てないなぁ」


 それにしても全力を出していないとは言え私の速度に一時的についてくるとは……

 鍛えられたというのは確からしい。

 これでトランスしたら私の立場ないんじゃあないかな。





 数十分走ると目的の場所についた。

 門番の大トカゲのところだ。


「通りまーす、ふたりは兄弟です」

「あ、わかったわかったのだ! ぶっちゃけ見分けつかないけどね!」


 笑いながら言っているけどこの門番は大丈夫なのだろうか。

 そんな余計な心配をしつつ通り抜ける。


「うわー大きいですね! こんにちは」

「つるつるだねぇ! こんにちは!」

「うん? 仔どもなのかな? まあいいや、こんにちはーまたねー」


 ハックとインカも通り抜けざまに挨拶をして迷宮の入口へ。

 階段を降りればそこは時空のねじれで夜。

 そういえば夜にこの街の中へ入るのは初めてかな?


「大きいねーすごい石!」

「この石なんだろう?」

「近づかないでねー危ないよー」


 見張り台にいるリスに連絡したら『また新しいやつを連れている』と白い目で見られた。

 呆れ顔からもわかるし"読心"でもわかる。

 ほんと迷惑おかけします。

 遠慮をする気はあまりない。


 門が開くと「おおー!!」とふたりが声をあげる。

 イタ吉ともだが文明をまったくしらない反応が楽しい。

 街の中に入れば驚き小動物たちが万能翻訳機を通して話してくれば驚く。


 とずっと驚きっぱなし喜びっぱなしで衛兵詰め所まで行ってふたりを預けた。

 私の知り合いなら滞在許可証はだいぶおりやすくなっているし彼等にはここに来るまでにもざっと街のルールは説明しておいた。

 特に排泄関連は気を使う点だね。

 文明開化の洗礼を受けるがよい。


 私はその間に診察所を訪れた。

 診察所は私が寝泊まりしたこともあってかなり御世話になった。

 中に入ると薬剤師が薬を調合中だったらしく独特のかおりが漂っている。

 ……あれ? このかおりって。


「こんにちは先生、しばらくこの街にこれないかもと思って顔を見せに来たのですが、あれは……」

「ああこんにちは、元気そうで何よりです。あれはローズさんに渡した紫の魔法薬を調合している所です」


 先生も薬剤師の方へ見る。

 そしてゴリゴリと潰されている葉は……


「ベリトット!?」

「ええ、正しく使用すれば強力な薬になるのですが、いくぶんか強すぎるので重い症状の患者さん専用なんです」


 例の麻薬だー!?

 毒も薬も使い方次第か……





 お医者さんと雑談をした後に私が再び詰め所へ行くとちょうど滞在許可手続きが終わっていた。

 万能翻訳機を貰って嬉しそうにしていた。

 そのままの足で九尾家に。


「このボタンを押すと良いんだよ」

「押して良いか!?」

「良いよー」


 インカがわくわくしながらボタンを押すと家の中からベルが鳴る。

 にかーと喜ぶふたりをみるとまだまだこどもだなぁってキュートだなぁって思える。

 そして九尾が外へ出てきた。


「なんじゃ、増えたな?」

「こんにちは、兄弟たちを連れてきました?」

「そうか、まあ良いわい、中に入れ」


 「うわー」とか「すごいー」とか感嘆しっぱなしの兄弟たちだがこの中はゴチャゴチャとものがたくさんあって気に入ったらしい。

 視線が激しくさまよう。


「勝手にさわるんじゃないぞ」

「ひゃあーすごい! 全然わからないものばかり!」

「なんだかすごい!」


 とりあえず居間へ通されて街からしばらく離れるかもということや兄弟紹介などを済ませた。

 兄弟達はそわそわと落ち着きがない。


「……まあそんな感じで色々と見せてあげたくて」

「ねえねえ、キツネさんがローズお姉ちゃん助けてくれたんだよね?」

「ん? まあ結果的にはそうじゃが別に実験のために……」

「おお、妹から聴いていたキツネさんだったんだ! ありがとうございました!」

「キツネさんありがとうございました!!」


 九尾はたじたじと言った様子で半笑いしていた。

 あの悪い笑顔以外は初めて見た笑顔。

 小さい子には弱いのかな。


「まあ、まあそれは良いんじゃ! それでお前さんが使ったトランス作るくんは、あの後の研究やお前さんから得たデータで汎用化中じゃ」

「結構難しいのですか?」

「まあな、じゃが不可能ではないの。とりあえず5号はホエハリ族なら誰でもトランス先を作れるようになったからの。そこの兄弟も試していくかの?」


 話を振られたインカとハックは悩む。

 わからない点やわかりくい事は私がなるべく噛み砕いて説明した。

 少し悩んでからインカは否定する。


「俺は父さんのようになりたいからこのままで良いかな?」

「じゃあ僕はやる! お姉ちゃんみたいになりたい!」


 ハックは逆に肯定をしめした。

 ちなみにケンハリマへのトランスにはレベル25もいる。

 インカもハックもレベル19なのでまだ遠い。


 さっそくと言うことで倉庫に連れてこられた。

 前よりゴテゴテした機械……じゃない!?

 随分と小さくなっている。


 前は倉庫いっぱいに広がっていた機械たち。

 それがなんという事でしょう、3割オフになりました。

 まあ大きいっちゃ大きいんだけどね。


 手順はほぼ同じで中央の浴槽に入ればスタート。

 違うのは今回は身体の拘束がついた。


「前は派手に身体が暴れてての、その分制御が難しくてやりづらくてかなわんかったわい」

「え、そんなんだったんですか?」

「お前さんは寝てたから知らんかったろうの」


 浴槽に保護液が満たされていく。

 そしてやっぱりハックは焦りだした。


「え、コレどうするの!? 動けないし、え!?」

「だいじょーぶ! 息が出来る魔法がかかってるからー!」


 しばらくして液が満たされ苦しそうなもがいていたがある時はたりと楽そうになった。

 息が出来る事に驚いているらしい。

 まあホエハリ族って泳いだことないものね。


 拘束具から直接針が出て麻酔が入るように改良されたらしくそのまま眠りだした。

 そうして九尾がブレーカーのようなレバーを引き倒したらあとは放置。

 なんとも聞いていたよりあっさりと始まり10分程でチンという音が鳴った。

 どうやらあっさり終わったようだ。


 なんか、こう、魔法的なのがぶわーってなるのかと思ったら何も起こらなかった……

 まあ九尾によると改善の効果らしいけれどね。

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