四十四生目 勝敗
ハックは審査員の神達と言葉を交えながら美術品の解説をする。
スイセンが端から端まで解説して圧倒するのとは別にハックは引き込むようにゆっくり会話する。
そのスタイルはまるで違ってかなり手応えが見られる。
「――でね〜、炎が揺らめくようなイメージでこの形にして――」
「じゃあ生き物の形ではないのは――」
「そうそう――」
「故に、色が――」
「――じっくり見てくれてうれしい――」
「そんにゃらそこの――」
「うん、世界が――」
言葉に白熱しそうになると少し間をおき像に視線を向かわせる。
相手の言葉はできるだけ拾ってつなげる。
なんならたまには黙っている。
静かなのに熱が秘められ像の見方がどんどん深まっていく。
ハックはとにかく相手に目線を合わせるように意識した会話を数分間続け……
ひと通り終わったところで。
「うん! だいたい良かったかな?」
「いいよ〜」
「なんだかもっと聞いてたくにゃったなあ」
「言葉の、刃を交えたのも、また善き事であった……」
「楽しい時間は一瞬だったよねえ」
蒼竜がシメに入り3柱が各々感想を述べる。
すごく良さそうな評価だが……
スイセンの方も評価がかなり良かったからな……どうなるか読めない。
みんなは……
「あ、あれって私とジンコーの……! さっきの話があの作品に……? すごい、私もああいう風に何かできたら……」
「ハックさん、やっぱり凄い……ローズさんの弟……! 僕も、何か作ってみたいなあ」
よしよし。
スイセンのインパクトが薄れる程度には良かったらしい。
肝心のスイセンは興味がないらしくミューズマリアはすでにテレポートして元の場所に戻し髪の手入れをしていた。
「ああ、終わった? それじゃああとは、ボクの事を褒め称えてさっさと全員出ていってよね」
「いやあ、結果はどうなるかな……?」
3柱とも悩んでいるのかしばらくの間静かになる。
その間にハックは舞台の上からどいて……
ただ審議を待つ。
手応えはあった。
あとはハックを信じるだけだ。
「……ウム、これで往こう」
「こちらも問題ないよ」
「あー、にゃー、そう、うん! 決まった!」
最後まで悩んでいた招き猫の姿に見えている神が決めた。
審査がおりるようだ。
ドキドキする……
何せ戦いとはいえここまで他人任せなのはもどかしい。
やるのはハックで勝ち負けの決まりは顔も知らぬ神たち。
勝負の行方は神のみぞ知るというのがここまでドストレートに発揮されるとは。
「さあ、一斉にドン!」
「双子の像!」「ミューズ……」「双子だね」
こ……これは!
「2対1で、双子の像、ハックの勝ち!」
「……は?」
「やった〜!!」
「良かった……!」「よし! さすがハック!」「凄い!」
よかった!
みんなで喜びあいハイタッチやらしっぽタッチしていく。
これで目前の問題は解決だ!
一方スイセンは唖然と言った様子。
蒼竜は気にせず司会を回していくようだ。
「それじゃあ、理由と感想でも聞いていこうか?」
「自分は割と早めに、双子のつながりに興味を惹かれたね。正直芸術分野では無いから助かったというか……自分に新しい概念でも取り入れそうだった。あとはまあ、ミューズのほうは凄いのはわかったんだけれど、なんというか技術はすごいというのがわかるだけで、美術品というより自分の腕を自慢したいのかなって感じだったかな。でも、どちらもすごく興味深くて、意外な暇つぶしができたよ」
「な……おま、お前……! ボクが作ったものなんだ、ボクを褒め称えるのはトウゼンだろう? まったく凡才どもだと思ったが、無能どもだったか……!」
厄除けが淡々と話すのをスイセンがどんどん顔の花を変え怒りに震えている。
なんというか本当に言うこと聞いてくれるのか今から不安だ……
「わたくしは本当、作品としてはミューズのほうが好みにゃんけれど……」
「だったら、なぜあんな出来損ないを選んだだよ」
「うーん、好きなのはミューズにゃんだけど、愛しちゃったのは双子の像って感じにゃよねえ……にゃんというかどんどん知らない世界に引っ張っていってくれた彼の優しさに、いつの間にか惹かれちゃった、きっと改めてミューズを見たら、もっとミューズのことも好きになれちゃうにゃから、彼の解説が凄かったんにゃろなあって判断させてもらったの」
「なんだと……あまつさえこっちのせいだと言いたげに……! 声から察するにどうせロクに言葉も理解出来ないクソババア――」
「アンダとゴラァ!!!」
えっ。さっきまでスイセンの罵詈雑言を聞き流していた招き猫にみえる神が頭割れるかと思うくらいの念話を発した。
思わずスイセンから息を飲む音がきこえる。
「ッケンナッスゾッコダソコイッテクビヒネリオト――」
「――はいはーい!! ストーップストーップ!」
さすがに蒼竜による割り込みが入った。
なんというか……もしかしてそっち系の神だったのかな……




