四十一生目 神威
ハックが何かに気づいたらしい……
「そうか……繋がり……双子……表現したいのは……ねえ、もっとそのジンコーのこと教えてもらえる?」
「え? わ、わかりました! ええと……そうだ、この間ジンコーがとんでもない失敗をしたんですけれど――」
ジンコーの話をメープルがしだす。
それをハックがうんうんと聞き続ける。
作品を作るのに何か関係があるのかな……?
「マッタク、こっちは日頃の手入れをする時間が近いというのに何をモタモタしているのだか。何をしてもボク以外がボクの美的感覚に勝てるはずもないだろうに」
「そう言いながら服の手入れするんですね……」
たぬ吉が呆れている通りスイセンは服の毛玉取りをちまちま取り除いている。
もはやなんなんだ……
ただ待ってはいるらしい。
メープルとハックは楽しく談笑しその間も作業が進んでいく。
さっきまでは何度も片付けしていたのに徐々に材料の入れ替えが少なくなり……
ハックがメープルの顔を観察するようにしながらメモをとっていく。
メープルはジンコーを話す時は良い話も悪い話もまるで自然体でやっている。
それが当たり前で……
ずっと続くのが当たり前。
そしてそれはなくなればひとつの死になるほどの片割れだということがありありとわかるかのような。
その様子を見て作る作品……どうなるか楽しみだ。
「よし……あとすこしだから、先にはじめちゃって良いよ〜!」
ハックの周囲では素材たちが空をまったりバラバラになったり再融合したり忙しく動き回っている。
ハックの制作スキルで何かを作っているようだが私にはまだ全体像が理解できない。
メープルはさすがにもう舞台から離れていた。
「やっとか、コレだから凡才は何を成すにも遅い。ソレでは最も美しく生きている瞬間を抜き取るだなんて芸当はできないんだよね、速度と正確さそして何より類まれなる審美眼がなければね」
「御高説どうも〜」
スイセンがべらべら話す横で作業するのすごく気が散りそうだな……
それはともかく蒼竜が前に出てきた。
大きく腕を広げる。
「さあ! 今【ダーペイ】が始まるよー! 一応神同士ちゃんと承認してね」
「ほら、早く来い、お前のことだぞ」
おっと私が呼ばれている。
そりゃそうか。
私はハックに任せるというだけであって一応私が受ける形になるんだな。
「ハック、私があれこれ面倒なことは引き受けるから、頼んだ」
「お姉ちゃんもちろん!」
ハックがいつものような笑顔をこちらに向けてくれた。
それだけで心強い。
私は舞台の腕にあがり蒼竜を挟んでスイセンと向き合う。
「そうだ、後でいろいろ混乱しないように……今元の姿になっておこう」
「え? 元の姿って……あっ!?」
私は服を着込んだホリハリー風の人型姿から普段のケンハリマ風獣姿へとなる。
そして額の3つ目を大きく見開いた!
基礎的な姿って落ち着くよね。
「チッ、ブスは姿形違えど変わらない不細工っぷりを発揮しているねぇ……どのようにしても自分のクソ顔は変わらないんだから、諦めて永久的に表に出なければ良いのに」
「わ……わんちゃんに!? ローズさんってわんちゃん魔物だったんですか!?」
「わんちゃんでもねこちゃんでもなくケンハリマだけれど……そう、魔物。ついでに最近少し神になったよ」
「か、かみさま!? もう何がなんだか……」
「大丈夫ですよメープルさん、ローズさんはローズさんです」
混乱するメープルのそばにたぬ吉が寄り添っていく。
私の代わりというわけではないだろうが身体をそっと足元にくっつく。
それをみてメープルの気が少し紛れたのか大きく深呼吸した。
「そう……ですね。私はどんな姿でも、ローズさんを……ジンコーを救ってくれた相手を、信じます!」
「さあ、【ダーペイ】……神威試合の開始承認をして」
「承認!」
「はいはい承認」
私にスイセンそして蒼竜。
3者から神力の輝きが解き放たれ上で交わり……
大きな光となって弾けるように空間を染め上げていく!
「「わぁー!」」
「ええ!?」
何にも私も聞いてないんだけれど!
スイセンの部屋だったはずが不思議な空間へと場がデザインされていく。
1つの部屋ごと不可思議でどこかきれいな異空間に取り込まれ……
景色が壁ではなくどこまでも続きそうなオーロラみたいなグラデーションカラーに。
安定しない色の向こう側から3つの輝きがやってきた。
それは私達の乗っている舞台をちょうど横から見る位置について止まった。
「これは……?」
「僕が選んだ3柱の神たちで、暇……じゃなかったやる気のある者たちから集ってもらえる神をランダムに選んだんだよ。あ、ちなみに今回のタイプで審査に影響ないよう全員匿名ね」
今暇なやつって言いかけたな……




