三十八生目 人形
なぜか蒼竜がスイセンの屋敷にいた。
本当にわけがわからないが……
「な、何があったの……? 戦闘……?」
「いえ、戦闘は行われなかったんです。びっくりするほど何もなくて……けれど……」
「僕がスイセンに訪ねたんだ〜、美しさってなんだとおもう〜? って」
「そんなの、ボクに決まっている……! ボクとボクが認めたミューズのみだと。だからヤツラにボクの美しさを見せつけてやろうとしたら、ミューズも見せろって言うから、身を清めてからなってことで……」
カオスな現場はともかくとして。
スイセンの屋敷でなんでお風呂に入っているの……
実際よくかぐとどことなく石鹸のにおいがする。
「そしてミューズを見せてもらったんだよ〜、嫌な予感がしていたからね〜」
「見てみたら……本当にびっくりしました……許さないほどに……」
「……それは私も見せてもらうことはできる?」
「きれいにしたらね」
それなら簡単だ。
属性合わせの文化魔法を唱えよう。
「"清めの水、払う風、我が身を整え美しく揃え、クリーン"」
私とメープルもその魔法にかけると先程までの汚れや汗なんかが光と共にひと通り洗浄される。
最後はちゃんと乾いて毛並みもきれいな状態に元通り。
問題があるとすれば……覚悟の心か。
「メープル、行ける?」
「……行きます」
「ほら、扉の向こうだ。ボクは考えをまとめるのに忙しいから先にみてきな」
スイセンが指した扉の向こう側……
そもそもニンゲンなのにまるで物の配置みたいに言うところやこの建物探知したところスイセン以外の動体がなさそうなのがもう嫌な予感しかしない。
メープルが私の手を強く握ってきたのを引きながら扉の向こうへと歩む。
廊下を通ってさらに向こう側。
たどり着いたのは底冷えするかのような冷気を感じた場所。
まるで冷蔵が……むしろ冷凍でもしているかのような。
「さむい……こんなところに歴代のミューズたちが……?」
「少しあったかくなろう」
火魔法"ヒートストロング"!
うっかりメープルに対して強く与えないようにする。
グレンくんが昔それで体中の体力ごと発熱して大変だったからね。
「ほっ……」
よし……いい感じだったらしくメープルの体温が上がってきているようだ。
このまま進んでいく。
この場所は結構細く広くなおかつ花々が氷漬けにされて咲き乱れている。
曲がりくねっているせいで先の様子は見えないしあんまり見たくないから敵の探知だけしかやっていない。
"見透す眼"で見るものではない気がして。
直接この目でスイセンの中身を見抜きたい。
部屋の道を歩んでいき……
先を見ると。
そこにはそれがいた。
それは透明な箱の中にいた。
ガラスでも氷でもない不可思議な素材でできたその箱は中身があまりにもそのまま残されている。
それらがいくつもいくつも並び……
その……中身……
「ヒッ!? 人……!?」
そこにはあまりに白く凍えきったそれ。
おそらく擬似的に凍てつく世界を概念で再現したここは……
ニンゲンの住む環境からおおきく外れている。
だから中にいるのがニンゲンなのだから……当然凍てついていた。
それなのに氷につけられておらず丁寧にみな思いおもいに美しさをアピールするかのように姿勢を変え……
全員血の気がまるでない白肌通り越した青肌。
そしてその眼は開かれているのに壊れておらずみなこちらを見下ろしていた。
これは……!
しかも……!
「い、生きている……!?」
「えっ生きている!?」
「なんていえば良いのか……この肉体は生きているけれど……魂としてはもう死んでいる……抜け殻だ……」
そう。
魂だけ引き抜き肉体を永久保存しているというのか?
そんな事スイセンができるのか……
大量に敷き詰められた凍てついた花たちとともに彼女らは高く吊るされた箱の中で微塵も動かず……
ただ生きているのか死んでいるのかそれすら曖昧で。
永久に保存させられていた。
「……帰ろう」
「はい……」
これを……これを見せられたら。
確かに揉めてしまうかもしれない。
私もかなり怒りがわいてきた。
けれどさっき蒼竜がいてなんかスイセン以外あれこれ準備していたのはなんだったのだろう。
ここから話がつながらないのだが……
まずは元の大広間に戻る。
「お、ちょうど良かった! 準備ができたよ!」
「ええと、あの悪趣味極まるものを見せられた後、一体何があってこうなったの?」
「悪趣味とは失礼な、この崇高な美術価値を理解できないというのがやはり顔面異形どもには――」
また独壇場が始まったが話を聞くだけで激しく腹が立ちそうなのでとりあえず目の前の事をどうにか理解しないと。
なんでつくられて舞台の上でハックとスイセンが蒼竜をはさみ見合っているんだ……?




