三十六生目 成立
ジンコーを抱きかかえ外に出た。
とりあえずジンコーは急速に医療処置を受ける必要がある。
「とりあえずジンコーさんを治療できるところに送って来るから、少し待っていて」
「お願いします!」
空魔法"ファストトラベル"でさっと行こう。
送り届ける魔法だと彼女の自立耐性不安があるからね。
すぐにアノニマルースへ到着。
アノニマルース病院内に入り……
急患を頼んで。
すぐに洞窟前へともどった。
「もどった、まずは村へ行こう!」
魔法でもどったほうが早いから空魔法"ファストトラベル"を唱えながらメープルと手を繋ぐ。
そうしたらメープルが何か不安そうな顔をしていた。
「ああ、ジンコーさんならしかるべき医師に見てもらっているから、もう大丈夫だよ」
「あの! 私……スイセン様のこと、村のみんなのこと、もっと本当に信じれるのか……ちゃんと確かめたいです」
「うん……私も、果たしてどこまでなのか、調べに行きたかった。村長さんのところに案内お願いできる」
「……はい!」
メープルの根幹であるスイセンへの信仰が揺らいでいる。
これはいい兆候かもしれない。
このまま……スイセンのことそして村人たちも見極めなくては。
空魔法"ファストトラベル"で村に飛ぶと早速といっていいほど変化があった。
さっきまでのよくある牧歌的かつ平和な村の雰囲気が……
異様なまでに冷たい気配を放っている。
それもそのはず誰も外におらず家々は完全に締め切り。
そしてにおいでわかる……この敵意だ。
どこからともなく多数の敵意が私達を包む。
「え……何……これ……?」
メープルも敵意までは読み取れずとも村の雰囲気がガラリと変わったのは感じ取ったらしい。
……急いでなおかつ慎重にいかねば。
もはや下手な刺激をしないことを意識している場合じゃない。
「……素早く行こう」
「は、はい、あっちです」
メープルを抱きかかえてから指された方向に行くため素早く足で地面を蹴る。
跳ぶような高速移動は村人たちでは対処しようとしても不可能なはずだ。
村長の家へはすぐについた。
勢いつけすぎて少し通り過ぎたが。
メープルを降ろして共に歩み……
「村長、入っても良いですか?」
「……ああ」
村長の声が中からして私とメープルは同時に入る。
手前の部屋部分すでに村長が座っていて私達を待ち構えるようだった。
……向こうもいよいよか。
「メープル、そしてお付きの方、よくぞここまでいらした。茶は出せないし、おそらくゆっくりするつもりもないのだらう」
「村長、教えてください! ジンコーをあんなところに閉じ込めて、スイセン様のためにあれこれ変なことをして、一体この村って……なんなんですか!?」
「何……か。それならば、この村の成り立ちについて話そうか」
村長はゆったりと椅子にもたれ掛かり
私達をなんともつかない表情で見ている。
なにも読み取れないというのはなかなか恐ろしいことだ。
「村の成り立ち……?」
「そう。移動をする村の始まり。それはスイセン様を崇め、我先にとその莫大な力の一端を得ようとした者たちが、常にそばにいるために興した村は、我々の祖先であり……常にスイセン様の後を追い続けた者たちでもある」
スイセンを追い続けた……か。
ということはもしやこの因習たちは……
「スイセン様を……追い続けた……」
「スイセン様は長年をかけ移動を繰り替えなさる。そのたびに、我々は移動し信仰を広めるためにたまには街へも行った」
「……あっ! あのとき私達が街へ遊びに行ったのって、私達子どもは遊びに、大人たちはスイセン様を広めに……?」
村長はうなずく。
ううむ……やはりこの流れは……
「この村にいるものはスイセン様の信奉者のみ。そのスイセン様の機嫌を損ねる者、信仰しない者の扱いは、歴史を重ねるごとに変化してゆき……今が作られている。呪い解きはもちろんスイセン様のお怒りを鎮めるのと同時に、我々スイセン様への信仰を汚されぬよう、都合よく消えてもらう方法が採用されている……」
「……あのジンコーや昔の人骨への仕打ちは、村側の決定だったんですね」
「あそこまでやはり行かれたか。ああ、そうだ」
メープルが立っているのすら辛そうなほど顔が青ざめる。
……あまりにも彼女に対してつらい話ばかりだな。
「そん……な……それじゃあ……村のみんなは……スイセン様は……」
「そもそも、スイセン様が選ぶミューズは乙女のみ……ひとりはスイセン様に望んで捧げられ、周りはそれで益を得る。それで互いに得をするのだ。言ってしまえば……」
村長はどこか遠くを見つめながら大きく息を吹きぬく。
そして。
「この村では、年ひとり捧げられてたくさんの富が得られるのならば、安いと考えている者達の集まりだ」