三十五生目 呪解
ひとつの扉前にたどり着いた。
それは洞窟内に存在するのはあまりに不自然。
この扉は……施錠されているのか。
でも松明は扉前に立て掛けてありニンゲンのにおいは中からする。
つまりはこの先に……
「ジンコーが、いる」
「本当ですか!? ……あっ、鍵が!?」
「ちょっとどいてね」
うーん……お。
良かった単なる鍵だ。
複雑な魔法式が組まれていたり機械式じゃない。
ならば私でもいけるか。
えーと……
(ほい、せじょーまほう!)
うんアインス相変わらず早い!
(そりゃあわたしだからね! さきまわりくらいヨユーよ!)
ありがたく施錠解除魔法を唱えさせてもらおう。
「"……人の造りし絡繰、機材の妙、道具の神、閉じし心を開き、開かれた力を閉じ、今神秘に浸れ、ロッキング"」
「口で唱える魔法もあるんですね……」
「学習して習得するものはね。ほら、あいた」
いわゆる文化系魔法のひとつだ。
ちなみにとんでもなく悪用されやすい魔法なため一定の信頼がないと覚えることはできない。
……もちろんなぜか街ではその悪用が今現在もはびこっているのだから許可にどれほど力があるのかという話でもあるのだが。
メープルが開こうとする手に私が重ね合わせる。
ないとは思うが危険はあるかもしれない。
私が肩代わりできないと危ないからね。
そしてゆっくりと開けば扉はあっけなく軽い重さで開けた。
扉の中はひとつの部屋。
大きくは無く小部屋になっている。
その扉内には1つの骨があった。
それは……人骨だ。
「っ!? ……!」
メープルは息を飲んだが……がすぐに扉よりも向こう側に目をやった。
そこにいたのは……倒れ伏しているひとつの姿。
やつれていてまるで何日も何も口にしていないような。
いや実際そのニンゲンは何も口にしていないのだろう。
ひどく衰弱した身体はギリギリ息をしているだけだった。
「ジンコー!」
「やっぱり……! 今助けるよ!」
寝姿だったがその見た目はよく見ていたメープルに本当にそっくりだった。
におい自体は違うのの見た目は確かにやつれていなければ見間違えるのもうなずける。
ふたりですぐに近寄る。
そうすると彼女は気づいたらしくうっすらとその目を開けた。
「……あれ……メープル……?」
「私だよ! どうしたの、こんなこと……
!」
「どうして……私は……ここで赦して……もらわないと……」
とりあえず水筒の水を彼女の唇に含ませる。
少しずつかすれた声が戻るようになり……
大きく咳をした。
この部屋……確かに多くのものが作られた物で埋められている。
特徴的な花の香りがする物たちや……
壁一面にある花の絵。
そしてジンコー正面にある大きく花を象った像。
それはどことなく美しさより……醜さすらも感じれた。
そう……怒りのような。
それがちょうどジンコーを見下ろす形になっていた。
「儀式の間、か……」
「ケホッ……ええと……?」
「あ、私はローズ。依頼でキミを助けに来ました」
「ローズ……さん……私は、ここから離れられないのです。スイセン様の怒りを鎮め、呪いをとかなくちゃ……」
なるほど……もしやそういうことか。
この部屋明かりも何も無く口にできるものもなく。
施錠は互いに鍵穴のみで内側だからと言ってひねる部分もない。
つまりは。
「ど……どういうことなの……それじゃあまるで……」
「そう、ジンコーさんは……死ぬまでここで祈り続けるために……人骨しかなく暗闇の中でただひとり……」
「そう……です……それこそが……伝わる呪いの解き方……でないと……メープルにも危害が……ケホッ」
私はメープルのほうをチラリと見る。
一瞬考えるそぶりを見せて……
ハタとした様子。
「そういえば……私がスイセン様のもとに向かうときにやたら自然災害が……無事だったけれどあれってまさか……」
「うん、スイセンのせいだろうね」
本当にメープルそのものを狙っていたのか私達を追い払いたかったのかはわからないが……
あれらがスイセンの攻撃なのは本当。
利用させてもらって話を進めよう。
「だから……私が……呪い……」
「そんな! 私がミューズになれば……あれ? でもミューズなっても家にたくさんお金が入るだけで……あれ? ど、どうすれば……」
「とりあえず、村に帰ろう。ジンコーも、キミはここで死ぬ意味だなんて、ない」
もはやだいぶスイセンに対する怒りが溜まっているが……
少しまだわからないことがある。
「あっ、ジンコー!?」
「……大丈夫、少し疲れて寝ているだけみたい」
「良かった……」
急にジンコーの力が抜けたのでメープルが慌てて抱きかかえたものの寝ただけだ。




