三十二生目 家族
村へとついた。
メープルの移動酔いも覚め案内してくれて。
村人たちも適当にいなして……
「ここです! ここが私の家です!」
「中に人は……いるね。私は少し離れた位置で話を聞くから、まずそうだったら駆けつける」
よほど相手が早くなければ瞬時にどうにかできる位置につけて……と。
家の影に隠れオーケーサイン。
こちらを見ているメープルがうなずき中へと入る。
耳を壁に当てつつ"見透す眼"。
これで中の様子が見られる。
どれどれ……
「お母さん、お父さん!」
「なっ、ジンコー!? いやまさか……メープルなのか!?」
「メープル!? どこへ……いやそもそもなんで入れ代わりなんかを!?」
どこかふたりとも確かにメープルと雰囲気が似ている顔をしている。
中に……ジンコーらしき影はない。
「それよりも、ジンコーは!? スイセン様に聞いたら、ここに戻ってきたって!」
「す……スイセン様と直接お話を!? さすがミューズに選ばれるだけあるのね……!」
「いや、それよりもジンコーか……そうだな……何と言えば良いか……」
親のふたりは明らかに顔を困らせていた。
正直あのとんでもない神のことだからとてもおぞましいことになっていそうなんだが……
「お願い! 私はジンコーに会いたいの!」
「「…………」」
困惑。深いため息。
そして重々しく口が開かれる。
「なあ、ジンコーを忘れることはできないか」
「何言っているのお父さん! ジンコーは私の双子よ!?」
「お願い、聞いてメープル。おとなしくミューズとしてジンコーを忘れて戻って、でないと……」
「お母さんまで何を言っているの!? ジンコーに会うまではスイセン様は待ってくれるのよ!」
激しい叫びとなだめる親……か。
そろそろ私が行って……うん!?
「「わあっ!?」」
唐突に棚の上にあったものが落ちて壊れる。
更には皿が1枚しまってあるものが落ちた。
メープルたちは突然のできごとに身を寄せているが……
今のスイセンじゃん!
確かに神力でものすごいごまかしてはいたけれど!
アイツなんてことしているんだ!
「ああ! ああ! スイセン様! 我が家への呪いはおやめください!!」
「の、呪い……? 物が落ちただけじゃあ……」
「いいえ、あなたはこの家にいなかったからわからないだろうけれど、あの日から私達は、常に見えざる手で様々な呪いをうけているの……そして周囲からも……だから私達は村長に話を聞いて……実行したのよ……」
「うう……仕方ない、仕方なかったんだ……! ジンコーが代わりになっていただなんて、なんでこんなことが……!」
うわあ陰険。
親ふたりはすっかり困窮して花に向かって祈り倒している。
メープルだけは何が何なのかわからず困惑していた。
そうか信仰をしている団体の村だから……
もし異端なことがあれば家族ごと村八分にされかねない。
だが村の者たちはふつうにここまで来るのに接していた。
じゃあ自らを守るために親たちはジンコーをどうした?
「お父さん、お母さん、ジンコーを……どうしたの……?」
「……なあ」「……ねえ」
親ふたりが互いに顔を見合わせうなずく。
何か覚悟が決まったらしい。
「……昔から行ってはいけないと言っていた、あの場所があるでしょう? スイセン様の屋敷以外に……」
「え? あの危ないからって言う、洞窟があるほう?」
「そうだ。あそこに……ジンコーはいる」
「えっ……!」
ううむ。
ひどく先行きが不安になってきた。
メープルは左右親の顔を見て……
「私、行かなきゃ……!」
親に背を向けて駆け出した。
そして家から飛び出していく。
親たちはなんと声を出したら良いのかとわからなかったのか。
ただ深いため息だけが流れた。
私はメープルと途中で合流。
メープルの意思で急ぐために私に抱きかかえられながら駆ける。
少し遠い場所らしい。
「はぁ……もう、どうしてこうなっちゃったかな……やっぱり私が最初からミューズになっていれば、みんな幸せになれたのかな……」
「ううん。あの神であるだけの口最悪な奴の元では、メープルさんが幸せになることはないと思う。メープルさん含めての、みんななのだから」
「……少し、考えます」
高速で動く風が身体を冷やすのか顔をギュッと私の毛皮内にうずめようとする。
私短毛種だからあんまり深まらないけどね……
とにかく走って……と。
「あ、この先のはずです!」
周りに脳内マップを作りながら歩いていたので少しは予想していたが……
ここだな。
足を止めて崖の方へ向かう。
そこには洞窟……ではなく。
何かが祀られた大岩が崖に沿ってあった。




