二十六生目 白煙
メープルの妹を救うために私とたぬ吉そしてハックのパーティーで向かうことに。
不安なのは私の知識内をアインスに調べてもらってもタイガやゴウあたりに書類を当たってもらっていてもスイセンと呼ばれる小神に関するデータがとても少ないことだ。
ただ人柱を求める神自体はちょくちょくみつかる。
奇跡を起こすものからとんでもないやつまで様々で……
だいたいとんでもない奴は最後討たれている。
にしても歩んでいる先……地図には何もないはずなんだけれど。
「妹の名前はジンコーって言います。見た目は本当に私とほとんど同じで、声もおんなじで家族ですらわからないから、妹はわざと声を下げて話すんですよ」
「へぇー、そんなにそっくりなんですか! 早く会いたいなあ」
「そのためには早く助けなくちゃねぇ〜」
「あ、でもね! 服の下、お腹の横にホクロがあって、左側が私、右側が妹なんですよ!」
バレないように村付近に来てから気配を消しつつ地上道中たのしそうにメープルが妹のジンコーのことを話し続ける。
意外に喧嘩が多いこと。
ふたりからすれば性格は結構違うこと。
そして仲が悪くて良いこと。
言ってしまえば他愛のない姉妹だった。
そして……
「――そして、ある日私だけがミューズに選ばれたんです。あっ! ミューズというのは、スイセン様に選ばれた……えっと、自分で言うのも少し恥ずかしいんですが、乙女のことで、とても誇らしいことだと、そう村では聞いていたのですが……」
「なるほど〜、外を知って、賢かったキミは気づいちゃったんだ」
「ええ。……賢い!? あ、いえ……ええと……ミューズに選ばれた人は、帰って来てないんです。それはスイセン様の館で働いていると聞いてはいるのですが……一切姿を見ないというのはいくらなんでも……それに、外にはそのような風習はないというのを知っちゃいましたし……」
話している間に不安になったのかメープルは顔をうつむかせる。
そう……今既に妹のジンコーは捧げられている。
どうなっていてもおかしくないのだ。
「だから、ジンコーさんが身代わりになるかわりに、メープルさんを逃したんですね」
「はい……妹は、昔からそういう神秘的なことが好きでした。けれど……本当は怖がりのはず。私の身を案じてくれたのは、よくわかって……本当は私がジンコーとして暮らす予定だったのですが、やっぱり見捨てられないと思って、街に走ったんです」
結構山奥だし街まではかなり苦労したんだろうな……
しかも他の街のほうが距離的に近いから何回か移動させられて私の所属するギルドがあるクーロンまで来たんだろうし。
例え家族から離れたとしても双子の妹を助ける踏ん切りをつけたのは庇われたからだとしてもすごい勇気だ。
「そろそろ……あっ! つきました! あっ、静かにしなくちゃですね……」
「本当だ……こんなところに村が……」
「私も小さすぎる頃だからあんまり覚えていないんですが、私達の村は村ごと移動する……らしいから、その影響だと思います」
そこは外界なのにまるで迷宮みたいに独立し隔離された世界のようで。
昼の時間なのに切りに霧が薄く起きていて……
それでいてどことなく花のかおりがした気がした。
見下ろす斜面の下。
平地部分に広がる多くの建物たち。
まるで擬似的な遊牧の民みたいに他では見たことのない建物が不思議と建っていた。
皇国は遊牧文化が少ないためこういうのは珍しい。
というか初めて見た。
移動する民か……小神を引き連れて移動しつづけているのかな。
「行きましょう、こちらから村を避けて先へ行けますから……」
「スイセンがいる場所の検討はついているの?」
「ええ……私達が絶対に近づいてはいけないと言われていた場所があるんです」
なるほど……とにかくみんなの気配を魔法や道具で消して近づこう。
こういう時は冒険者のたくさんある道具を利用しまくろう。
このまま走り抜けよう。
村の向こう側。
静かな水の白煙がある。
山の谷間……静かな場所。
私達が歩いてくる間誰にも見つからなかったのは良かった。
遠巻きに見ている感じ村人たちは何もおかしい様子はなかった。
何か[誘惑]や[催眠]がかかっているのかと思ったがそんなこともなく。
まあ同じくメープルになにもなく逃げてこれた時点で割とその手の状態異常利用ではなさそうとは思えたが。
ふうむ……ん?
今何か……崖上!?
「危ない!」
「あっ!? ひゃっ!?」
大岩がメープルの上から!
急いでメープルの前に躍り出て"無敵"!
岩に対して使って……
転がり私達を潰そうとした大岩が……
不意に大きく跳んだ。
おお……相手に意志がないとあっさり通るけれどこれが出来るのはスキルレベルがすごく高くなってからだったからあんまり使っていなかったけれど……
なるほどこれは便利。




