二十五生目 犬狸
メープルさんから小神の人柱にされた双子の妹をすくって欲しいと依頼された。
「ところでこちらの依頼、もしや先に救援を警備隊に依頼されたりしました?」
「あ、はい……けれど、ここでは受けるのは難しい、受けたとしてもだいぶ時間がかかる、と……だから下げて、そしたら、冒険者ギルドに依頼したほうがいいと言われて……」
「ああ、そうなんですね……」
まず基本的に皇国の警備はだいたいが税金で賄われている。
そのために利用料金はだいたい無料。
しかし皇国の警備隊は基本的に人数が多くなく……まただいたいは都市周り。
また自警団も警備隊と協力して各地の有力者と共に活躍するのは一般的だが……
自警団は逆に言えば一般人。
武装もまちまちで今回のような村ごと風習に染まっている場合依頼する意味もないし自警団は遠征なんてしている余裕はない。
結果的に半分国営半分民間な冒険者ギルドに投げられる範囲は広い。
こちらはちゃんと報酬をだせればいくつもの手が伸びる。
結果的に日雇い派遣や農家それに猟友会みたいになっている人もいるが一攫千金そして巨大な冒険を夢見て張り切っているのだ。
それはともかくとして。
「ええと、あと何か話すことは……場所は私が案内します」
「そうですね……個人依頼ということはもしかして……親御さんには……」
「あ……はい、コッソリと来ました。みんなのこと、信じれなくて……私達双子は、たまたまこの街まで家族で遊びに来たことがあったから、おかしさに気づけたんですけれど、それでも私の親たち……お隣さんたちも、地方神……スイセン様のことを讃えるだけで私がおかしいって……」
「スイセン様……それが小神の名前?」
「名前なのかはわかりませんが、そう村では呼んでいます」
うーん……そういえばホルヴィロスも信者には別の名前で呼ばれていたか……
村の人達もっと脅されて縛り付けられていると思ったんだけれど違うのか……?
いやでもなあ……小神くらいまでくるとどういう手を使ってくるのかが読みきれない。
とにかくデータが少ない相手だから万全に体制を整えないと。
「なるほど……あとはスイセン自体を見たことはありますか?」
「いえ……でも、スイセンさまを指すときはいつもお花で例えられますね。私の家にも、スイセン様に祈るためのお花があります。昔は普通だと思っていたから、街へ来た時は無くて驚きました」
よし……聞ける分はこのぐらいかな。
後は直接行って確かめよう!
「色々聞かせてもらってありがとう、準備が出来次第すぐに行こう!」
「わ、わかりました! 受けてくだされるんですか!?」
「もちろん!」
「あ……ありがとうございます!」
メープルは思わずといった様子で私の手をとる。
私も手をとりかえして握った。
「よし、話はまとまったようだな、こちらで受領する。行って来い!」
「はい!」
後の書類処理はギルドリーダーのタイガにまかせて……
行こう!
「今日都合がついたのが……」
「僕と……ハックさんとは」
「うわあ、なかなか珍しい組み合わせだね〜、たぬ吉さんよろしく〜!」
「よろしくおねがいしますー!」
なんというか……すごい珍しい組み合わせだ。
さすがに私だけでは危険なのでとみんなに呼びかけ都合が会う相手は。
弟のハックに6本指の器用狸な魔物たぬ吉だった。
正直まるで想像できない組み合わせ。
幼い頃共にそだった組ではあるもののだからといって同じメンツで普段出かけている覚えがない。
これは斬新だ……
器用でおとなしく互いに気が合う……はずなのだが。
私が知らないだけかふたりはあんまり一緒にいないんだよなあ……
……なんというか互いに誘い待ちして延々と待っていそうな感じだ。
「すごい……本当に学ぶと便利なんですね、魔法って。こんな使い魔を呼び出せるだなんて……それに村へすぐに戻れたし……!」
「あはは……うん、個人差が大きいから、他のみんなには内緒ね」
「私たぬきさんやわんこさんと話すの初めてです! はじめましてー!」
「たぬきさん……? あっ、僕かな? 初めまして!」
「わ、わんこさん……!? 初めまして〜!」
ふたりを空魔法"サモンアーリー"で呼び寄せた。
単に承認した相手を近くに召喚するだけの魔法だが……
うまいこと私のことをビーストテイマーで使い魔を呼び寄せたと思ってくれた。
メープルさんはこちらの事情知らないからね。
私から裏でふたりにはあちらの事情を伝えてある。
私がニンゲンに扮しているのも追求はしないようにしてある。
空を飛んで指定の場所まで飛んできたので早くつけた。
ただそのままじゃあメープルの体力が持たないので私の手持ち魔法やハックから風魔法を"率いる者"で借りた。
風除けができて私自身も楽に飛べて良かったので今後も借りよう。




