百七生目 結束
ひどいめにあった。
死にはしなかったが致死量ギリギリを攻められた。
採血から始まり謎の機械にかけられ走らされ跳ばされ感電させられ……
せっかく拾った命を無くす所だった。
何度拷問かと思ったことやら。
なんとか地獄をくぐり抜け生還した。
でも確かに九尾には御世話になりっぱなしだったからこれで少しはチャラにしてくれるならありがたい。
今度からは群れにきちんと帰るようにしよう。
あれやこれや拷問……じゃなく検査にかけられていたからすっかり夜だ。
「今日は群れへ帰るのかしら?」
「そうしよう」
「では行きましょう」
大量に買った荷物はこれまた大容量入る魔法のリュックに詰められる。
ちなみにユウレンのものらしい。
アヅキは背の翼があるため背負えない。
なんだか久しぶりに門をくぐる気がする。
重々しく開いて私達その先にある階段をのぼった。
階段を抜ければ迷宮の外の森へと到着だ。
迷宮とは世界が別れているから今の時間もずれていて昼。
冬の風が身体を吹き抜ける。
しかし空気そのものはほんのり暖かい。
季節が変わろうとしている。
群れへ着いたらとても歓迎された。
みんな既に話はアヅキから聞いているから素直に喜んでくれた。
「聞いたよ! 寿命が危なかったんだって?」
「言ってくれればよかったのに!」
「あれ? 姿が変わったって聞いたけれど……また子どもの姿になったの?」
「頭の目がいいね、はなまる!」
こうやってみんなでわいのわいのされると帰ってきたんだって実感出来る。
やはり私の帰る場所はどこへ行ってもここなのだろう。
「みんな、今回は本当にありがとう! それに、ただいま!」
一通りわいのわいのとしたあとにユウレンたちと分かれて単独でキングとクイーンの元へ向かう。
そう、父と母だ。
「ただいま戻りました! おかげさまで元気になりました!」
「うム」
「おかえりなさい、無事で良かった! あら、良いお目々ね! それにおとなの証も出てきたのですね!
これで貴方も立派におとなですね」
そうか、身体の模様が浮き出たらおとななんだっけ。
棘のあるツタのような模様が私の体には出ている。
ということはそろそろ……
「そろそろ、この群れを出て世界を見てくるのですね」
「はい。でもちゃんと帰ってきます。私の帰る場所はここですから」
「そう言ってくれると嬉しくなりますね」
その後は色々と話をしたが結局いつでもここに来ていいという事となった。
私が連れてきたたぬ吉やドラーグは連れて行くことに。
もちろん彼等にことわりを入れる必要があるけれど。
ただ問題は私達がさすがに頭数的にも大きさ的にもあの小動物たちの街に頼るわけにはいかないということ。
それに私は誰かに狙われつつも誰かに導かれている様子。
あの街に永住する気はないしおそらくまだ見えていない何かをしなくてはならない。
それはまだおぼろげだけれども。
転生してまで果たさなくちゃならない何かをしにいかなくては。
そんな想いが日に日に強くなっている。
(それは延々と発し続けられている救難信号みたいなやつだな)
うわ、"私"が出た!?
いきなりだ!?
(おばけじゃないよ! まあ裏で調べものしていた成果だよ。どうやら一定間隔で私に向かって何かを助けてほしいかのような想いが発信されているよ。"読心"で何となく掴めた)
詳しい内容は?
それってかなり大事なことじゃあ。
(ダメだね、これ以上はわからない。また何かわかったら連絡入れる)
うん、助かる。
うーんやはり私はただ殺されてたまたま転生したという認識を持って産まれてきたわけではないようだ。
頭の中の会話をこなしつつ母とも話した。
「我が子よ、本来ならあまり勧めはしないのですが貴方なら大丈夫でしょう。森の外を是非目指してみてください」
「森の、外……」
「ええ、そこでぜひ世界の広さを見てきてください。そこで自分たちの群れを作って、世界が求めるあなたの産まれた理由を見つけてくださいね」
「あっ……」
母がニコニコとしている。
しまった、母はある程度強い頭の中の声ならスキルで拾えるんだった。
ちょっと恥ずかしい。
「……はい、みんなの力を借りながらやっていきます」
その後は行動を話し合って今日の夜あたりに区切りとして夜に見送りをしてくれるらしい。
それまでに私は私のすべきことをしなくては。
ドラーグとたぬ吉を呼んで話をすることにした。
ドラーグは竜としての肉体と緑の竜鱗……が鍛えたとはいえまだまだかなしいほど力を発揮出来ていないサイズだけ大きいこども。
一方たぬ吉は私以外になつかず今も私の後ろで尻尾に抱きついてきて離さない緑のたぬき。
どちらも本来は群れから出すのは危険だと私は思う。
それでも私がいなくなればこのふたりもこのままではいられない。
私の動きに合わせてもらうことになるのは申し訳ないが……
「……ということなんだ」
「そ、それだったらもちろん僕はついていきます!
だってまだまだ訓練の途中ですしここで置いて行かれたら、今度こそ恐ろしい魔物に襲われて死んじゃう! ブルルッ」
ドラーグはそう即答した。
たぬ吉は私の背後に隠れながらこっそりとドラーグを見る。
「も、もちろんボクもついていきます! ローズさんが行くところなら、ローズさんがいてくくればそこがボクの居場所ですから!」
「ごめんねふたりとも、ありがとう」
言わせてしまった形になるなあ。
彼等には事実上の選択肢は少ないものなぁ。
ただまあ必要としてくれてちょっとうれしい。
「ごめんだなんてとんでもない! ボクたちは御世話になりっぱなしだからそのぐらいの自由は当然ですよ」
「だよね! ローズ様についていきます!」
そっとたぬ吉が私の横から顔を覗かせる。
ドラーグの腕が伸びてたぬ吉のまえに手のひらを差し伸べた。
そしてたぬ吉は前足をそこに乗せる。
グッと固く結ばれた。
彼等は言葉以上の何かで結束したようだ。
たぬ吉とドラーグ、彼等の中で何かが共鳴しあったのだろう。
結果的に珍しくたぬ吉が仲良くなれた相手が出来て良かった。
次は……雄鶏たちだ。
今の身体ならば雄鶏たちの群れまで楽々走って行けた。
実際どこまで強くなっているのだろうか?
攻撃性のある音から守ってくれる首飾りをつけて雄鶏たちの長コッコクイーンと話をする。
「おお! 話には聴いていたが確かに見違えるようだな!
特に実力面では見違えるように強くなっているようだ!」
「その節はありがとうございます、そういうのって見るだけでわかるのですか?」
「私はある程度わかるぞ!」
コッコクイーンの人ほどある背丈を見上げながら話を進める。
約束した訓練についてだ。
「とりあえずこんな感じで考えてみました」
"以心伝心"の念話部分を使って予定表を送りつける。
こういう言葉で説明しにくいものはイメージで送りつけられるの凄く便利だ。
「……ほう! これは便利な能力だな! それにしてもこの内容は……」
「ええ、かなり今までのあり方は否定しています」
音と霊魔法に数の暴力を押し付ける理不尽な展開にして狩るのが得意な種族だ。
だからこそ無効化されて戦闘に持ち込まれると脆い。
だから飛行魔法を使いより小さな単位での攻撃を中心とした戦法も作っておく。
狩りではなく理不尽を押し付けられ狩られそうになったさいの戦い方だ。
「こんな感じで今までとは違う緊急用の動きです」
「ふむ……実行せねばわからないところは多いが、ものは試しだ!
早速やらせよう!」
「私もそんなにここに見にこれるわけではないですので、今の内に能力を使ってみんなに伝えておきますね」
ずらりと並んでいる普通の白色レグホンのようにも見える雄鶏たちに思念する。
私がこの森を離れても大丈夫なように念入りに決めた訓練内容だから大丈夫だろう。
「では、今この教官でもある使者殿の言う通りに訓練! 始め!」
コッコクイーンの号令とともに雄鶏たちが一斉に動き出した。
まあ言ってしまえば立体的なゲリラ戦だ。
徹底的にじわじわと奇襲し続ける感じになる。
私の方も今後の事情を伝えておこうかな。
「……という感じです」
「なるほど、今後は別の使者殿になると! ぜひ新天地でもご健闘を!」
こっちの群れに街で売っていた万能翻訳機をひとつ持たせるつもりだ。
それと今私がつけている音の攻撃を防ぐ首飾りがあれば今後もあの群れと交流できるはずだ。
問題は誰にその仕事を受け継いでもらえるか……
なんとか頼み込むしかないかな。