二十三生目 片鱗
「これ以上長居しても迷惑だな。そろそろ帰ろう」
キルルは夜空の下ホルヴィロスがヒイヒイ言いながら壁をツタで塞ごうとしているのを見てフッと笑う。
警備隊がなんで素早く来ないのかなと思ったけれどよくかんがえたら一瞬で何か壁が壊れたかと思ったらそこから私と誰かが現れ仲良く帰ったように見えるのか。
私だと『なんかあったっぽいけど大丈夫ぽいな』という見方になるのかな……
「えっと、じゃあ本当にいきなりやってきたのは……」
「ああ。仕事上と個人的な興味、その兼ね合いだ。実際、お前はそれに応えてくれた。予想以上に脆かったから少し驚いたが……」
「キルル様はホルヴィロス様が倒される惚れる程度に強い相手なのだから、それこそ自分よりも強いかも知れないと思って挑んでいたのですよ!」
「もうね、へびめらもこう『シャー』としたほうが良いのかと。そうしたら想像以上に見た時の脆そうな力、隠しているのかと仕掛けたさいの、確かに秘められた力はあるものの、まるでキルル様の攻撃を受けきれない脆さ、けれどホルヴィロス様を倒したその片鱗をしっかり見せてももらいましたとも!」
「いやあ勢い余って殺してしまわなくて本当に良かった! ヘビめらはそういうのは苦手なので! 本当に、不意打ちは申し訳ありませんでしたと、改めてキルル様共々謝る所存です」
キルルの身体が浮く。
そのコウモリのような飛膜に竜のようなトゲが生えた翼をひろげ。
私の方へ向けて少しだけかたい表情を崩す。
「少し蛇共が話しすぎたが聞き流してやってくれ。では、いつでも呼んでくれ。最も……私を呼ぶ機会など永遠に無いほうが良いのだが」
「私も、いきなり攻撃された時には流石に警戒しましたけれど、もう今では新しい神の友だとおもっています! またいつか!」
「……そうだな」
そのまま空に登っていくと肉体が光になって消えていく。
あれは分神だったから……
光が分解されていくのだろう。
頼もしい味方のような末恐ろしい相手のような……
神界隈の洗礼を喰らった気持ちになった。
とりあえず蒼竜の【住所】すら教えてもらっていないことを思い出したので問い詰めておこう……
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「よかったのですか? あの魂を放置しておいて。へびどもが見るにあれほど複雑な魂は見たこともなく、また新たな自我が目覚めようともしていませんでしたか?」
「いやにょろろ、あれは新たな自我ではなく、古の自我が目覚めようとしている様子。あれほどどう転ぶかはわからない魂、1度地獄に引き込み拷問にかけても良かったのですが……」
「やめておけ。杞憂に終わればなんでもよいし、今地獄に閉ざすに値しない魂のままだ。魂がアレほどまでに複雑化したのは、融合の他に既に催眠洗脳拷問……いずれかを魂に施されている。いるのに、その上で克服あるいは今も抵抗し防いでいるとしか思えない。そういう魂は……どうこうする気にはなれない」
「なるほど、その思慮分別、へびめらは支持しますとも」
「そうでございますね、ケルベロス様のように、彼女も自らで解決できることを祈りましょう!」
「……友か。私達をちゃんと知った時に、再度お前がそう呼ぶことは、きっとないだろうな」
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こんにちは私です。
今私の腕には2つの紋様が浮かぶようになった。
門……キルルの【住所】。
そして雪山……蒼竜の【住所】だ。
なんとか聞き出せた……
すごい渋りおって……『拘束されたくない』とかなんとか……
どうせ送ったところで見るのは何年後かわかったもんじゃないがさすがに蒼竜の神使が蒼竜の【住所】も知らないのはさすがに問題がある。
念じるのをやめれば紋様たちも腕から消えた。
それに直接言いにくいこともあるしね。
……礼とかは。
それはともかく。
「依頼主はそろそろ?」
「ああ、もはや俺よりも遥かに有名になったお前さんに頼むのもどうかとは思うが、相当厄介な案件らしい。それに……」
「ええ、誰かを助ける類の依頼は私もやりたいですから」
ここはバローくんの親が経営する宿。
そしてその一角にある[クーランの銀猫]と呼ぶ民間冒険者ギルド。
私はもともとここの所属だ。
ニンゲンに扮して街にいる。
ウィッグじゃなくて自前の髪というのも良いものだね。
彼はギルドリーダーのタイガでほぼ国にやら国際やら別のところやらでコキ使われがちになる私をギリギリのところでうまく処理してくれている。
カタチ的には彼の大出世に貢献したことになるが実情私は冒険者として集中するためにほぼおんぶにだっこ。
私の正体に関してもほぼ察しているだろうに何も言わず事務処理してくれる。
危ない綱渡りばかり任せていて申し訳ない。
普段からスキマ時間に誰かを助けるタイプの依頼を優先して回してもらっていたが……
今回はさらに危険を伴うものだ。




