二十二生目 住所
なんとか命が助かった。
とりあえずあの後話を交わし……
ホルヴィロスもひたすら謝り倒していた。
「まさか婚姻式まで終えて伴侶ではないとはな……仕様の穴を突いたかのようなやり方で、むしろ感心する……」
「いやはや、細かい話はしたくなかったのが何となくへびどもにもわかりますとも、何せ……ププ……そんながっついたあげく……」
「ウププ……式まで上げて……拒絶され負けてフラれていたとは……! へびども……ホルヴィロス様の心中をお察しし、涙が止まりませ……フヒ……本当に!」
「ふたりともひどいよー! 笑いすぎだよ!」
色々とホルヴィロスは犠牲になったが……
まあほぼ自滅だったからなあ今回。
私があれこれ言うものではないか。
「とにかく、ひと通りこちらとしてはもう問題はない。ホルヴィロスが伴侶を得られなかったのは残念だが……」
「いや、でも事実婚なのでは? もしや
いけるのではないでしょうか!?」
「天才ですねくねね! 婚姻の儀式を終えたのならそれは結婚! いやぁ〜! めでたい! 花吹雪を用意しておけなかったへびめらの気が回らず申し訳ない!」
「もうやめてー!!」
「今日は特にさわがしくて済まんな……」
「いえ……お気になさらず」
なんというか蛇たちの言葉たちに慣れてきた……
こう……真面目にきいていたらダメなタイプだ。
蛇たちはともかくキルルは私の方へと向き直る。
「さて、これを渡しておこう。私との通信網だ。いつもチェック出来るわけではないが、たまには見る。もし地獄に引きずり込むしかないような魂の持ち主がいたら、積極的に使え。せめてもの礼だ」
「……これは?」
切り替わったのか切り替わりきれていないのか微妙な空気の中キルルが私に前足を差し出す。
そこには不可思議な紋様が浮かんでいた。
これは……まるでなにかの門だ。
「そういえば神としては初々しい様子! それならば説明はこのへびめらにお任せください! それは、いわゆる【住所】でございます!」
「もはや神たちは多くの暗黙の了解が積み重なりこの世はマナーという名のルールだらけ、しかも神によってまるで違うと来たものです。またうかつに互いの領地にいけないことも多く、気軽に殴り合うことも出来ない世の中、会話すらもままなりません! ですので、とある神は閃き、自身の【住所】をカタチにして相手に押し付け、この【住所】に霊的な手紙を送り、こっそりとふたりだけで落ちあって殴り合ったのです!」
「そして、今では多くの神が利用して互いに連絡をとりあったりしているのです。まあ、いささか旧い力ゆえ、今の新しい神からは『念話でよくね?』または『てか言霊やってる?』と言われる事は多い、ですが! まだまだ現役なのです!」
「自分側から出せる用になるにはまだまだ遠いだろうが、【住所】に送るだけならば受け取ればすぐに利用できる……どうした?」
「あ、いえ、大丈夫です。もちろん受け取らせてもらいます」
……アドレスにメール……だろうなあ。
全然違う文脈からなんだか理解できてしまった。
ええと……受け取るにはこの光る紋様に前足合わせれば良いのかな。
そっと下に重ね合わせれば紋様が輝きだし優しい光が私の前足を包む。
そして前足を引けばそこには門の紋様が描かれていた。
「少しまて。うむ……よし。開いてみろ。使い方は心に従えばいい」
「こ、こうかな……?」
確かに今……なんとなく暖かな光と共に使い方というデータも送られた気がする。
念じて見ると門の紋様が腕に現れる。
同時に脳内へまるで視界で見るかのようにはっきりと文字たちが現れる。
これはまるでログや覚えている魔法やスキルを選ぶ時の……
なるほどこれで1番上の最新の物[ケルベロス]を選べば良いんだな。
[ケルベロス 差出人 キルル 宛名人 ローズオーラ
テスト送信
このようになる
たまに覗けばいい ]
「ああ、見られました」
なるほど……文字はいつもの不思議と理解できるログとかに使われる文字か。
これならば誰から文面を送られても問題ないしこちらの文字も気にしなくて良いだろう。
「ならば問題ない。そのように特に知らせがあるわけではなく、ある時に郵便受けにたまっているため、たまに取り出せば良い」
「あ〜、私もローズオーラに早く【住所】を渡せるようになりたいなあ〜、念話や直接会うのももちろん良いけれど、手紙というものオツだよねえー」
「修行あるのみですよ、ホルヴィロス様!」
「へびどももへびどもだけの手紙を出せるようになりたいですなー」
「それは迷惑な手紙がたくさん届きそうだから嫌かな……」
「「そんなぁ!」」
その後あれこれと話し合い……
互いに親睦を深めつつホルヴィロスは壊された壁の実物を見てドン引きしていた。
大破しているからね……ホルヴィロスは帰り分神ならではのワープで帰ってきたみたいだったし気づかなかったのだろう。




